426:デンプレロ・ムカッケツ-4
本日二話目です。
「明滅が早い」
デンプレロの甲殻に刻まれた文様が激しく明滅する。
それはこれまでの戦闘で自身の周囲に電撃を放つ際の前動作の一つに似ていたが、それよりも文様の明滅が激しく、鋏も振り上げていない。
なので恐らくだが、新しい攻撃が来るのだろう。
と言う訳で、デンプレロへの攻撃を仕掛けていたプレイヤーの大半は距離を取り、死に戻り覚悟でダメージを稼ぐつもりであるプレイヤーは出来るだけ稼ごうと動きを早める。
私については距離を保ちつつ、他にも変化がないかと周囲に目をやろうとし……
「ーーー!」
「しん……ピュゴォ!?」
『チュアッ!?』
デンプレロが鋏を振り上げた。
その瞬間、私自身の視界は白一色に染まってスパークし、遠くにいる眼球ゴーレムの視界には雷に打たれる人型の何かが映った。
「はっ!?」
『死に戻りでチュね……』
そして気が付けば私はセーフティエリアに戻された。
どうやら、デンプレロの落雷攻撃によって私のHPは0になり、気温が0度以下であったために『死退灰帰』が発動せず、死に戻りとなったようだ。
その証拠に『死退灰帰』の効果は残ったままになっている。
とりあえず、安全な戦線復帰に必要なので、掲示板に復活待ちの書き込みをしておこう。
こうしないと、作戦で覆せない数的不利を背負ってもぎりの蠍呪と戦う事になる。
「さっきの攻撃。私の見立てだと、ターゲッティングが高度依存だと思うんだけどどうかしら?」
『間違っていないと思うでチュ。これまでのデンプレロの攻撃は、取り巻き含めて飛行可能な存在に対して弱すぎたでチュ。第三段階に入って、それへの対抗策が出てきても不自然ではないでチュ』
では、デンプレロの新たな攻撃への見立てをしつつ、他の状況確認。
まず眼球ゴーレム、ネズミゴーレムは生きていて、映像はしっかりと伝わってきている。
気温は上昇開始で、たぶん70度くらいまでは上がるだろう。
喉の渇きはデンプレロの攻撃で死んだ影響による乾燥付与と思われるので、セーフティエリアに湧いている回復の水をがぶ飲みして打ち消しておく。
「化身ゴーレムの準備は?」
『チャージの開始は始めたでチュ。が、10分でチュからねぇ。暫くは空を飛べないでチュよ』
デンプレロの突起から放たれる風は氷結属性から火炎属性に変化すると共に、若干強くなっているようで、プレイヤーが吹き飛ばされる距離が僅かにだが伸びている。
新種の取り巻きは……剣の代わりに、旗付きの槍を持った蠍呪のようで、整列した状態で行進し、プレイヤーを見つけると騎馬兵のように突撃してくるようで、中々に厄介なようだ。
他の攻撃と取り巻きは勿論健在であり、中々に戦況は厳しい事になっている。
「やっぱり高度依存みたいね。マントデアに落ちたわ」
『でも、マントデアより周囲のプレイヤーへの被害の方が大きいでチュ。限りなく本物の雷に近いのかもしれないでチュね』
「それは好都合ね。避けられないけど、凌げるわ」
そうして話をしている間に、眼球ゴーレムの視界内でマントデアに落雷が直撃。
が、自分でも電気を使うマントデアへのダメージは軽微。
しかし、マントデアの体から地面へと流れ、そこから周囲のプレイヤーたちの体にも電気が伝わったらしく、マントデアの近くに居たプレイヤーたちはかなりのダメージを受けている。
とりあえずマントデアのグループには、デンプレロへの攻撃は控え、マントデアは避雷針になってもらい、それ以外の面々はマントデアの支援に専念してもらうべきだろう。
『掲示板に返信。要約すると、たるうぃは状況の安定化のためにとっとと戦線復帰するようにだそうでチュ。再出現するもぎりは無視で良いそうでチュよ』
「分かったわ」
私はセーフティエリアの外に出ると、すぐさま飛翔。
周囲に湧いた24体のもぎりの蠍呪を無視して、デンプレロの下へ急行する。
余談だが、セーフティエリアから戦場へ入ることは出来るが、その逆は出来ない。
そして、セーフティエリアでなく通常のダンジョンからならば、出入りは自由になっている。
そのせいでもぎりの蠍呪の大量召喚と言う利敵行為が可能なのだが……そういうプレイヤーはちゃんと居ないようである。
「マントデアの様子は……まだまだ大丈夫そうね」
『急いで欲しいとは言われているでチュよ。あ、ネズミゴーレムは落雷を受けても、ほぼダメージなしだったでチュ』
ただ、空高く飛ぶのはマントデアに向かっている落雷がこっちに向くので禁止。
砂地の上を這うような低空飛行でもって、接近する。
「etoditna『毒の邪眼・2』」
では攻撃再開。
他のプレイヤーたちの隙間を縫うように呪詛の槍を飛ばし、『毒の邪眼・2』を撃ち込んで、スタック値を伸ばす。
「ーーーーー!」
「ははははっ! 地上に居る程度で攻撃を当てられるようになるなんて思わないで頂戴!」
「うわぁ」
「よくやる……」
「なんだあれ……」
そこからさらに接近、更には棘だらけの背中に乗り込む。
で、折角なので呪詛の剣を自分の周囲に展開し、デンプレロの突起から放たれる風を回避しつつ、『呪法・増幅剣』を乗せた邪眼術を撃ち込んで切り刻み、ネツミテを振り回し、まるでデンプレロの背中を舞台にして踊るようにダメージと状態異常、おまけに踏みつけによるヘイトを稼いでいく。
おっと、文様が光り出したか。
鋏は既に振り上げている。
つまりは周囲への電撃。
と言う訳で、デンプレロの背中を蹴って、素早く離脱。
直後にデンプレロは電撃を放ち、電撃とその後の追撃によって何人かのプレイヤーが死に戻りした。
「流石の動きね。タル」
「でも、HPの消費が激しいから、これ以上は無理ね」
「空を飛べるのは?」
「私の想定通りなら、もう十数秒後から」
「分かったわ」
離れたところでザリアと合流。
短くやり取りをしたところで、デンプレロの電撃が止んだのでザリアは突っ込んでいき、私は適度な距離を保ちつつ邪眼術を撃ち込む。
デンプレロのヘイトは……私の方に向いているが、一番ではない感じか。
空を飛んで、周囲を回る感じにしなければ、デンプレロの位置の固定は出来ないので、早く飛べるようになりたいところだが……。
『たるうぃ!』
「『化身』!」
よし来た。
さっきまでの攻撃でHPも消費しているので、最大値が削れても惜しくはない。
私は懐から飢渇の毒砂を撒き、それをターゲットとして『化身』を発動。
砂が集まって、化身ゴーレムが作成される。
「じゃ、早速飛ぶでチュよ!」
「ええそうね」
そして私とザリチュが操る化身ゴーレムはその場から飛び立つ。
「ーーーーー!」
直後、デンプレロが鋏を振り上げると同時に雷が生じ、その雷は誰よりも高い位置に居た化身ゴーレムに落ちた。
だがしかし。
「ちゅっちゅっちゅっ、ざりちゅにそんな物は効かないでチュよ」
「側撃雷の類もちゃんと距離を取っていれば大丈夫そうね」
全身が砂で出来ているザリチュの体に雷によって傷つく部位はほぼ無く、衝撃と熱によるダメージが極僅かにある程度である。
では反撃開始。
「よくも散々ぶち込んでくれたな! おらぁ!!」
「ーーーーー!?」
と言う訳で、私たちを睨みつけるようにしていたデンプレロの尻に向けて、マントデアの武器が全力で振り抜かれて、見事な不意打ちが決まった。
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