419:テリブルデイ-5
「さてと」
昼にログインした私だが、セーフティーエリアを出て、『試練・砂漠への門』の広場に向かう前に、聖女ハルワからもらった五寸釘の鑑定をしておく。
△△△△△
清められた聖女お手製の五寸釘
レベル:1
耐久度:∞/∞
干渉力:125
浸食率:100/100
異形度:1
聖女ハルワが呪いを退ける素材を基にして作り上げた特別な五寸釘。
通常の世界と呪界の境界へ打ち込む事によって、濃い呪いを持つものが境界を越える事を難しくする事が出来る。
特別製であるため、打ち込んだ物を引き抜いても壊れず、一本で一つの呪界全体の出入りを抑えられる。
また、消失しても、いつの間にか手元に戻っている。
注意:聖女ハルワとの好感度が一定値以下になると通常品になります。
注意:使用者の異形度が20以上の場合、使用者も効果対象に含まれます。
▽▽▽▽▽
「厄ネタじゃないでチュか」
『ざりちゅのネタを奪わないで欲しいでチュ』
聖女様?
明らかに異常な物品をそんな平然と渡さないでいただけますか?
異形度1で済まない程度には呪われていますよね。
後、なんで聖女様の私に対する好感度が高いの?
色々とおかしくない?
私、カースなんだけど。
やはりツンデレだったか。
ああうん、今朝の時点からだいぶ混乱している気がする。
考えが上手く回らない。
『これ、『ダマーヴァンド』に使われたら拙いんじゃないでチュか?』
「拙いわね。まあ、『ダマーヴァンド』に打ち込まれたら、毒ネズミたちに頼んで抜いてもらえばいいかもしれないけど」
カースとして対応策を考えるなら……毒ネズミたちや他プレイヤーに抜いてもらうのが基本か。
遠距離呪術による破壊が可能ならそれもありだろうし、境界の仕様によっては抜け道の類もありそうか。
「これを基に境界突破を抑制する呪術を作るのは……厳しいか」
『邪眼術とは真逆っぽいでチュからねぇ』
破壊不可品であると考えると、素材にする事は難しい。
まあ、今後、私がデンプレロのようなカースへ挑む際の保険として、有効活用するべきか。
「よし、そろそろ行きましょうか」
『でチュね』
では確認終了と言う事で、私はセーフティエリアの外に出た。
----------
「「「本当にすみませんでした!」」」
「「「……」」」
デンプレロ対策会議は、エギアズ・1、ライトローズさん、ザリアの三人が頭を下げる事から始まった。
理由は言うまでもなく、デンプレロ討伐を後回しにしていたために今回のような事態を招いた事と……砂漠の攻略メンバーの一部が上層部が知らないルートを発見していながら秘匿し、しかもそれを『かませ狐』の連中に教えていた事である。
なお、後回しや秘匿の判断をしたプレイヤーの『悪創』はLv.0だが、教えたプレイヤーの『悪創』はLv.1であるらしい。
「まあ、後回しにしていた理由については仕方がないと俺は思う。戦力を充実させて、一発突破を狙いたいと言うのは当然の心理だ」
「スクナに同意。それと、こちらで調べた限り、どうにも、ただ負けただけではフェーズ2には移行しない。となれば、奴らはわざとそう言う負け方をしたんだ。つまり奴らの悪意のが上手だった」
「今必要なのは謝罪ではなく、今後どうするかだろうなぁ。これはそういう話だ」
今回の対策会議には、砂漠をメインとしていないプレイヤーたち……スクナやマントデアと言った面々も集まっている。
余談だが、『悪創の偽神呪』が世界の巻き戻しをして以降に初めてログインしたプレイヤーには、あの惨状と『悪創』の説明が懇切丁寧に行われるらしい。
その為か、砂漠メンバーに対する砂漠以外のメンバーの視線は同情的な物が大半である。
「それに、砂漠の攻略組がどうこうと言うのなら、私たち検証班は情報収集を怠っていたとしか言いようがないです。この五寸釘など正にそうでしょう」
「生産組もだな。もっと生産のペースを上げるべきだったし、怪しい素材に注意も払うべきだったかもしれない。まさか横領しているプレイヤーが居たとはな……」
ストラスさんが手にしているのは聖女の五寸釘。
私が持つ物の劣化版で、使い捨てだったり、複数本必要だったりするが、今の攻略組にとっては喉から手が出る程に欲しい物だろう。
なにせ、これさえあれば、敗北を前提とした調査だって行えたのだから。
「結局、『悪創の偽神呪』がプレイヤー全員に『悪創』を付与した事が示すように、全てのプレイヤーに責任がある。そういう事なのかもしれないわね」
「「「……」」」
「ま、生産性の無い話はこれまでにしておきましょう。問題は何時、どうやってデンプレロの奴を倒すかよ。何時『かませ狐』みたいな連中が再出現してもおかしくないわけだし」
どの口がと思われるかもしれないが、とりあえず話の流れを目的とする方へ向けてしまおう。
「と言う訳で確認。プレイヤーの集まり具合は?」
「今回の件は掲示板で話題にもなっているから、集まり自体は悪くない。他のエリアからも集めれば、2,000は堅いと思う。勿論、直ぐに動き始めることが出来て、時間的にも問題がないプレイヤーたちだ」
「その2,000が活動するための装備は?」
「此処で配布すれば、乾燥と高温への対策は問題なし。低温については……」
「雪山から幾らか持ってこれると思う」
「火山も同様だな」
「つまり、呪詛濃度関係での選別さえ出来れば、人数は揃えられるのね。じゃあ、そこは私でやるわ。呪詛濃度21の空間を作り出しておくから、そこに入ってもらって検査をしましょう」
参加できないプレイヤーには申し訳ないが、デンプレロとの戦いに足手まといを連れていく余裕はない。
そして、彼らが成長するのを待つ時間もない。
デンプレロの一刻も早い討伐が求められる今回だけは、無理やりにでも切らせてもらう。
「此処からデンプレロの拠点までの移動は?」
「『砂漠のお守り』を回収しただけと言うプレイヤーだと、ゲーム内で一日はかかると思う。その後の状態を整える時間と討伐本体も考えると……」
「討伐そのものは、最速でも明日の朝一にせざるを得ない。と言う事ね」
「そうなるな。この話し合いの前にザリアたちが行ってきて、複数のルートで五寸釘を打ち込んだらしいから、事故の類は明日の朝ぐらいまでは心配する必要がないと思うが……『悪創』Lv.2の連中辺りが不安ではある」
「よし、じゃあこうしましょう」
私は一度手を打ち、この場に居る全員の顔を見る。
「今から直ぐに選別を開始。選別が済み次第、道案内を付けて出発。選別の時間は今からリアル時間で一時間。戦闘開始はリアル時間で明日の10時。この条件で合わせられないなら、今回はご縁がなかったと言う事で切りましょう」
「文句を付けてきた奴がいたら?」
「『虹瞳の不老不死呪』に真正面から挑む覚悟があるならどうぞ? 勝っても時刻の変更は無しだけど。他の誰が何を言おうが、もう今回はそう言う話」
私の強権的なやり方は、後々の話になるが、確実に反感を買うだろう。
が、それがどうした。
「『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツを倒す事こそが最優先事項であって、個人の都合を一々気にしていられるような状況ではないわ」
取り返しのつかない既知を潰して、見れなかった未知を見れるようにすることの方がはるかに重要だ。
「さあ、作戦会議含めて動き出しましょうか。デンプレロに私たちを滅ぼす力があるのであれば、私たちはデンプレロを滅ぼさなければいけないわ」
私は呪詛濃度21の領域を作り出すと、それを維持し始めた。
02/07誤字訂正