417:テリブルデイ-3
本日は複数話更新となっています。
こちらは三話目です。
「まず初めに自己紹介を。私の名前は『悪創の偽神呪』。フェーズFを担当する特殊NPCだ」
そう言うと、『悪創の偽神呪』は指を鳴らす。
すると、視界がサクリベスとその周囲を上空から見たような物に変化する。
「プレイヤー諸君は『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツを相手に勇猛果敢……とは、正直言い難いが、とにかく戦った。しかし結果は見ての通り。諸君らは敗北し、サクリベスとその周囲は蹂躙された。突発的に起きたテリブルな出来事は、正に悪夢のような状況を生み出したわけだ」
緑は殆どない。
サクリベスとその周囲はほぼすべての大地が砂で覆われていた。
僅かに緑が残っているのは、『蜂蜜滴る琥珀の森』と『ダマーヴァンド』の影響下にある地域だけの様だった。
「そう、悪夢だ」
『悪創の偽神呪』が軽く手を振る。
すると、手が振られた場所にあった砂が波が引くように消え失せ、砂に覆われる前にあった緑が代わりに現れる。
「私の権能を以ってすれば、今回の出来事は文字通りに悪夢とすることが出来る。何人かの住民の心にトラウマのような物として記憶されることはあるかもしれないが、少なくとも『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツが自らの領域外に出れる程に活性化し、暴れ回り、全てを蹂躙したと言う事実はなかったことに出来る」
『悪創の偽神呪』が大きく腕を振る。
それだけで、サクリベスとその周囲を覆っていた砂は砂漠へと返っていく。
失われた建物と自然は元通りになっていき、住民たちも元通りの姿になっていく。
それどころか破壊されたはずの『試練・砂漠への門』の砦が修復され、もぎりの蠍呪たちが砂の中へと帰っていき、デンプレロも砂の中へと戻っていく。
正に神の力。
文字通りの時間の巻き戻しが行われていた。
「このようにだ」
そして、全てが巻き戻ったところで、何でもない様子で手を腰にやり、僅かにだが口角を上げる。
「しかしだ。諸君らもよく知っているように、本物の奇跡でもなければ、何事にも対価が必要となる。私は神と偽れるだけの呪いではあれど、神ではなく、故に奇跡など起こせない。そして、善意あるいは無償での奉仕など、私は断固として断る。故に、対価はプレイヤー諸君に払ってもらう」
『悪創の偽神呪』が指を鳴らす。
≪称号『悪創:変圧の蠍呪Lv.0』が付与されました≫
「っ!?」
すると僅かな痛みと共に、称号を取得したと言うアナウンスが流れた。
それに合わせて、頭の中に悪創と言う称号がどういうものなのかを教えるヘルプも流れた。
結論から言えば……これはある種のペナルティだ。
「さて、既に全員に伝わっていると思うが、一応説明しておこう」
『悪創の偽神呪』が自分が付与した称号について語る。
『悪創』はフェーズFに移行した際に、フェーズFへ移行する事になった原因となるカースとの戦闘での行動に応じて、Lv.0~3の間で、全てのプレイヤーへ強制付与される。
何故、そのLvの『悪創』が付与されたかは、対象を注視すれば分かるようになっている。
解除されるためには、Lv.0ならば自分が関わらなくてもいいから、付与原因となったカースを倒す事。
Lv.1以降の解除ならば、自分が前線に立つ形で倒さなければいけない。
今回の場合の対象は言うまでもなく、『変圧の蠍呪』デンプレロ・ムカッケツ。
Lv毎の変化は?
Lv.0:ほぼ全てのプレイヤーに付与されるもの。これは『悪創』付与の原因となったカースの居場所と、戦闘状態か否かを示すもの。
Lv.1:一部のプレイヤーが付与されるもの。Lv.0の効果に加えて、全てのNPCが敵対的になる。
Lv.2:極一部のプレイヤーが付与されるもの。Lv.1までの効果に加えて、原因となったカースに応じた状態異常が常時付与される。今回の場合は乾燥(50)。
Lv.3:明確に利敵行為であると理解した上で、その行為を繰り返すようなプレイヤーに付与されるもの。Lv.2までの効果に加えて、最低限の『不老不死』の呪いを除き、全ての有益な効果を得られなくなる。
はっきり言って、Lv.1以降はきついなんてものではない。
Lv.0時点ではほぼメリットしかない。
だが、Lv.1の時点で街の利用どころか、カースに与する者たちですら敵として認識するし、テイムモンスターやゴーレムなど……ザリチュなどが敵になってしまう。
Lv.2になれば、今回の場合だと常時HPや耐久度の減少が1.5倍となり、その状態でデンプレロと戦うのは、厳しいなんてものではないだろう。
Lv.3に至っては……実質的な引退勧告だ。
異形は全部なくなり、装備品やアイテムは一切の効果を示さず、仲間の支援も受けられず、レベルも強制的に1になったのと同じ状態になるのだから。
この状態での解除など出来るはずがない。
しかも、『悪創』はキャラを作り直そうが、アカウントを変えようが、『CNP』を再購入しようが、プレイヤーの脳波によって個人認識をしているため、条件を満たす以外では解除不可能。
正に『悪創』……決して癒えない悪しき創だった。
「分かっていると思うが、レベル1以降の『悪創』が付与されたものには、付与されるだけの理由がある。文句を言いたいものも居るだろうが、そう言う者にはこう答えておこう」
だが、デンプレロとの戦いで攻撃をしくじり、砦が破壊されるタイミングで呆けると言う、明確な醜態を晒した私ですら付与されたのがLv.0と言う事は、Lv.1以降が付与されるものは……本当に付与されるだけの理由があったと言う事だろう。
例えば、自分たちが敗北して、世界が滅びると分かっていながら、デンプレロを活性化させた、とか。
「世界を滅ぼす権利が貴様にあると言うのなら、世界が貴様を滅ぼす権利もあって当然だろう」
「ぐっ……」
その言葉に込められた圧はこれまでとは桁違いのものであると同時に、明確な怒気を孕んでいる物だった。
それこそ、どれほど愚鈍な人間ですら恐怖で全身を震わせ、頭を垂れずにはいられない程に。
「では、私は帰らせてもらう。今回の件を得難い教訓として、今後、私のフェーズFでの出番がない事を期待させてもらうぞ。プレイヤー諸君」
そうして『悪創の偽神呪』は姿を眩ませ、私は『試練・砂漠への門』の地上に土下座をしている姿勢のまま戻されていた。
内容が内容なので、複数話更新となりました。
明日からは一話更新に戻ります。