411:サーチデザート-1
「おっ、タルさんだ」
「どうもっす。昨日ぶりでー」
「あ、今日はザリチュも居るんだ」
「こんにちは。ザリア分隊の皆さん」
「どうもでチュー」
さて、『岩山駆ける鉄の箱』の始発駅とでも言うべき場所には、ザリア分隊のプレイヤーたちが車座になって休憩していた。
いや、休憩だけでなく、反省会も兼ねている感じか。
死に戻りになったためにこの場に居るようだし。
「攻略は苦戦中な感じかしら?」
折角なので、少し『岩山駆ける鉄の箱』について聞いておくか。
教えて貰えないならそれで構わないと言う気持ちで聞くが。
「ですね。そこのトロッコに乗ると移動が始まって、その上で戦闘が始まるんすけど……」
「慣性が特殊でやりづらいよな」
「風圧はないけど、カーブで跳んでたりすると大惨事になるんだよな」
「アイアムトマトを何度やった事やら……」
「なるほど」
どうやら難易度が高いと言うよりは、特殊であるらしい。
私が予想したとおり、ジャンプした瞬間にトロッコがカーブに差し掛かったりすると、そのまま壁に叩きつけられる事になるようだ。
「でも、攻略を諦めない程度には手に入るアイテムが美味しいと」
「美味しいっすねぇ」
「シンプルに耐久度だけ高くなった鉄や銅がガッポガッポですわぁ」
「モンスターの素材も悪くないしな」
「ほうほう。それは気になるでチュねぇ」
ふむ、金属素材、それも使い勝手のいい物が安定的に手に入るのか。
稼ぎ場所として便利そうだ。
「タルさんも行きますか?」
「タルさんの邪眼術は相性良さそうだよな。慣性とか気にしなくていいし」
「いやでも、空中浮遊のせいでトロッコに乗れないんじゃ……」
「そこは誰かに持ってもらうとか、適当に紐で体を結んでおくとかでいけるんじゃね?」
「あー、お誘いはありがたいけど、今日は外の様子を確認する予定なの。ごめんなさいね」
「あ、こっちこそすいません。そっちの事情も聞かずに誘った上に色々言っちまって」
が、誘っておいて悪いのだが、今日の私は『岩山駆ける鉄の箱』を攻略する気はない。
と言う訳で、私はザリア分隊の面々に別れを告げると、ダンジョンの外へと向かって飛んでいく。
「いいんでチュか?」
「あれだけ報酬が美味しいと言うのなら、潰さずに残すでしょうから、後回しでも大丈夫よ」
ダンジョンの入り口に着いた。
此処までは岩の足場で、少しの明かりしかないが、外は強烈な日差しが射すと共に、渇いた砂が風に吹かれて舞っている。
『砂漠のお守り』をきちんと持っている事を確認。
では、外に出よう。
「うーん、砂漠ねぇ」
「砂漠でチュねぇ」
どうやら『岩山駆ける鉄の箱』の入り口は、砂漠の真ん中で砂の中から突き出ている高さ3メートル、幅5メートルもないような岩山にあるらしい。
ザリア分隊の話では、これが急に砂の中から出て来たそうで、実に不思議な物である。
「ちょっと飛びましょうか」
「大丈夫なんでチュか?」
「短時間なら大丈夫でしょう。たぶん」
自分の周囲の呪詛濃度を高め、地面を強く蹴り、最高点で羽ばたく事によって、私は高く飛び上がる。
ザリチュの化身ゴーレムも同様に動いて、私に続く。
そうして高さ数十メートル程度にまで飛び上がったところで、周囲を観察する。
「んー……皆乾かしの砂漠のどの辺なのかしらねぇ」
「かなり進んだ先っぽいでチュけどねぇ」
東の方には『試練・砂漠への門』と思しきものの陰が見える。
いや、砂漠と言う環境を考えると、蜃気楼の可能性もあるだろうか?
まあ、それは置いておくとしてだ。
「北、南はエリアの境界が見えない。やっぱり広いのね」
「まあ、当然と言えば当然でチュよね」
北と南はどこまでも砂漠が見えている。
いや、微かだが、南の方に火山が沸き起こっているであろう煙が見えるか?
となると、僅かにだが南に寄っているかもしれない。
「西は……んー? 壁? 山? よく分かんないわね」
「なんなんでチュかね?」
西の方は……本当に微かだが、山の陰のようなものが見えなくもない。
どうやら何かはあるらしい。
とは言え、そちらの方へ進むのであれば、今の私ならば地上を進むのではなく、『理法揺凝の呪海』経由で進んだ方が早いし、楽だし、確実だと思うので、進む時が来たら、そちらを利用して進むが。
「む、そろそろ降りた方がよさそうね」
「でチュね」
周囲に不穏な空気が漂い始めている。
どうやらお仕置きモンスターの類が接近してきているようだ。
と言う訳で、とっとと地上に降りる。
だが、ただ降りるのでは勿体ないので、情報収集は継続。
「プレイヤーも居る。モンスターも居る。ダンジョンもある。けれど一部のダンジョン周囲の呪詛の流れが少しおかしいわね」
「おかしいんでチュか?」
「呪詛を一切吐き出していないダンジョンがあるのよね。それなのに呪詛濃度が上がっていないと言う事は、何処かに呪詛が流れていると言う事。たぶん、レイドボスの居る領域に繋がっているダンジョンね」
まず、呪詛の流れがおかしいダンジョンを確認した。
とは言え、これはあって当然のものと言える。
「不審な動きをしているプレイヤーも居たわね」
「居たんでチュか?」
「ええ。微かに影が見えただけなんだけど、やけに周囲を気にしているなと感じるプレイヤーの集団があったわ」
着地成功。
さてここからどうするか。
「モンスターは?」
「変なのは居なかったわね。と言う訳で、周囲を気にしている感じのプレイヤーを追ってみましょうか。何かあるなら確認したいわ」
「分かったでチュ」
まあ、不審なプレイヤーを追ってみよう。
とは言え、呪詛濃度5の地上で、装備と呪詛支配によって呪詛濃度20前後の霧を纏っている私に隠密行動は不可能なので、正面から堂々と追う事になるが。
さて、何があるか楽しみだ。
02/02誤字訂正