410:ジュゲムオーシャン-3
「ログインっと」
『でチュねぇ』
「そして、『化身』っと」
「おっ、早速でチュね」
水曜日。
ログインした私はいつもの確認と今日の準備をしつつ、化身ゴーレムも作成する。
「じゃ、『理法揺凝の呪海』に行くわよ」
「分かったでチュ」
そうして準備が完了したところで、転移扉を通って『理法揺凝の呪海』に入った。
「異常は……現状ではなさそうかしらね?」
「見た感じに変化はないでチュよね」
『理法揺凝の呪海』は一言で言えば宇宙である。
極彩色の境界は現実にはないが、無数に輝く星々を見る限りでは、一番近い表現になるのはそれだ。
しかし、この場所の表現はやはり難しい。
どこまでも深く潜っていけそうな深淵の領域、簡単に上がれそうだが実際にはそうではない天上の領域、地上を歩く数百倍の速さで流れつつも複雑に離散集合する無数の海流、通常世界と深い関わりを持つ星々。
あまりにも要素が多すぎて、語り切るのが難しいのだ。
まあ、鑑定結果では呪限無-浅層を名乗っているが、実際には浅層から深層までの全ての呪限無に繋がる、ある意味では呪限無そのものの領域であるし、今の私では語り切れないのは当然なのかもしれない。
「でも、何がどうなったら、変化があると言えるんでチュかね?」
「それを確かめるなら、他のエリアも一度見ておくべきね」
そんな『理法揺凝の呪海』の中を私とザリチュは羽ばたいて飛んでいく。
いや、海流の速さを考えると、流されていくと言った方が正しいかもしれない。
とりあえずルートとしては、『ダマーヴァンド』を出発して、火山、海、雪山、第一エリアに対応するエリアを見つつ、砂漠のエリアに向かうものにした。
「火山エリアは泡沫の世界がやけに多いわね」
「でもそれと同じくらい砕け散る世界も多いでチュね」
火山エリアは泡沫の世界が多くて、星々が輝いていると言うより、泡の柱が立ち上っていると言う感じだった。
だが大半の泡は天上に着くよりも早く弾けてしまうようだ。
火山のダンジョン密度が高いと言う話も聞かないので、通常空間を知っているだけでは分からない話か。
「一番大きいのは……何と言うか、頑丈な膜みたいなので覆われているわね」
「でチュね」
火山のレイドボスが居るであろう領域は現状沈黙中。
赤い光を放ちつつ、静かに佇んでいる。
クカタチの話でも、そこまで攻略が進んでいるわけではないので、当然の光景か。
「海エリアに入ったけど……海月呪が多いわね」
「でも、ざりちゅたちと敵対と言うよりは、何か底の方で仕事をしている感じでチュかね?」
海エリアは他のエリアよりも海月呪が多いようで、何匹も漂っている。
そして時折だが底の方へ沈んでいき、何かをしているようだった。
海のレイドボスが居るであろう領域は、火山と同様に沈黙中。
一番進行していないらしいので、当分は静かな状態と言う事だろうか?
異様なまでに底へ向かう速度が速い海流もあるので、注意して進む。
「雪山エリアは……泡沫の世界が安定しているわね」
「代わりに数も少ない感じでチュかね」
続けて雪山エリア。
此処は火山エリアの逆のようで、泡は少ないが、その少ない泡は殆どが天上まで登っていき、安定しているようだった。
レイドボスは……火山、海と比べると、少しばかり活性化しているだろうか?
レイドボスが居る領域は少しばかり緩んでいるようにも思えた。
「あ、たぶんだけどアレがマントデアのダンジョンね」
「分かるんでチュか?」
「何となくだけどね」
そうして雪山エリアを見ていると、見知った気配としか言いようのない感覚を漂わせる星を発見した。
強烈な電気を纏っているようにも見えるそのダンジョンは極めて安定しているようで、近づく星を静かに跳ね除けている。
あの電気を無視してダンジョンに侵入する事は……不可能ではないが、大変そうだ。
それにマントデアから敵判定を食らいそうだし、止めておこう。
「第一マップのエリアは……目立っているわね」
「目立っているでチュね」
第一マップと第二マップに対応するエリアの間にあるブイの下を潜り抜け、私たちは第一マップに対応するエリアを入る。
まず目に入るのは、サクリベスに相当する位置にあるブイと、サクリベス地下の領域に当たるであろうブイの下部。
それに『蜂蜜滴る琥珀の森』に……旧『ダマーヴァンド』の地下、アジ・ダハーカが居る領域か。
この三つがとにかく目立つ。
「こうして見ると、結構個人所有のダンジョンってあるのね」
「みたいでチュね」
他の見所としては、個人所有のダンジョンか。
立ち入り禁止にしているダンジョンはそうであると分かるように、そういうマークが出ている……と言うか海月呪がそういうマークを星々に貼り付けている。
泡沫の世界は見当たらない。
そう言うのが生じないように、海月呪が何かしているのかもしれない。
「さてそろそろ砂漠に向かいましょうか」
「でチュね」
では最後に砂漠エリア。
ほぼ昨日見た光景と変わらずで、泡沫の世界は程よく発生し、割れている。
レイドボスが居る領域はだいぶ浮上し、膨らんでもいるが、その領域と天上の間に幾つもの星が挟まれているおかげで、通常空間に出て来ることが叶わないようになっているようだ。
「……。あの星が割れたら強制的にボス戦開始と言うか、たぶんだけど超大型ボスが地上に出て来るんでしょうね」
「まあ、そうなると思うでチュ」
この空間で状況を確認する際に厄介なのは、通常空間のダンジョンの位置と『理法揺凝の呪海』の星の位置の位置関係は一致しないと言う事。
『理法揺凝の呪海』がメインで映し出しているのは、どちらかと言えば周囲のダンジョンとの関係性。
だから今ここで見て取れることと言えば……砂漠には幾つものダンジョンが存在しているが、超大型ボスに繋がるダンジョンは限られていると言う事か。
「で、今日こそは砂漠のレイドボスが居る領域に直接乗り込むでチュか?」
「しないわよ。刺激したくないもの。今ここで外から乗り込んだら、それだけで戦闘開始になりそうだし」
「まあ、そうでチュよね」
私は『岩山駆ける鉄の箱』の結界扉をイメージしつつ、脱出のための扉を作り出す。
そして私たちは『理法揺凝の呪海』を抜け出し、五体無事なまま『岩山駆ける鉄の箱』の結界扉から通常空間に姿を現わした。
02/01誤字訂正