409:トランスファーアイアン-3
「どんなに掻き集めても5,000。実際には調整に調整を重ねても1,000に達するかどうかでしょう」
1,000人。
さて、どういう根拠の下にザリアがこの数字を出したかだな。
「1,000人ですか。先日の悪夢ではそこの呪限無の化け物が籠る砦に仕掛けた時は1,500人ほどが動けていたと覚えていますが?」
「そうですね。あの時は1,500人ほど動けてました。ですが、戦う場所が砂漠であり、砂漠と言う特殊な環境に対応できている人間の数、対応できている上に戦力となる数、活動できる時間帯が合う者と絞っていくと、その程度の数になるのです」
なるほど納得。
砂漠の乾燥、昼の灼熱、夜の極寒、この三つだけならば砂漠のお守りがあれば大丈夫だが、砂漠の厄介さはそれだけではない。
足場が砂であると言う事は、それだけでも踏ん張りがしづらく、立ち回りが難しくなる。
これに対応できるプレイヤーは限られるだろう。
いや、もしかしたらだが……砂漠のお守りを無効化される可能性もあるか?
カース相手なら、想定しておいても無駄ではない気もする。
一応言っておくか。
「実際はもっと絞られそうね。砂漠のお守り無効化とかカースならあり得そうじゃない?」
「それはこっちも想定済みよ。想定した上で出した数が良くて1,000人なの。そして、だからこそタルの『熱樹渇泥の呪界』で素材を集めて、呪詛濃度低下装備の充実を図ると共に、乾燥と高温の対策も一緒に進めているんだから。低温も……たぶん何とかなるわ」
「そう、ならいいわ」
「それは良い事です。そこの呪限無の化け物を見れば分かりますが、十分な想定をしてもなお、想定外になるのがカースと言う存在ですから」
「それはよく分かっています。ええ本当によく……」
それにしても1,000人か。
ズワムとの戦いを考える限り、戦力になるのが1,000人も居るなら、何とかはなると思うのだが、それなのに何故延期になったのだろうか?
と言うか、このぐらいの情報はブラクロも持っていたはずで、ブラクロもザリアも結論が同一と言う事は、結論が同じになるだけの理由があると言う事。
となれば、考えられる理由としては……質の問題と、私が知らない情報か。
話を進めよう。
「ザリア。さっき言った1,000人の実力ってどれくらいなの? ザリア分隊ぐらいのが1,000人も居るなら、十分戦えると思うんだけど」
「ザリア分隊って……いやまあ、タルなら見ていたんでしょうけど。と、そうじゃないわね。実力についてだけど、彼らで1,000人の中では上位層から中位層ね。で、初見殺し込みでも、確かに1,000人で適切に動けば勝てるとは思うわ。絶対ではないけれど」
ふむふむ、ザリアの表情からして、その1,000人については本当に問題がなさそう。
じゃあ、何で挑まないのかだけど……。
「問題は戦力外の人間が紛れ込む事ですか」
「一つはそうです。聖女様が先ほど仰られたとおり、カースとの戦いは生き返ると言っても、死者を出来るだけ少なくするべき戦いです。ただその……私たちの中には最低限以下の装備で突っ込んできて、餌になりそうなものも居るので、彼らも戦えるようにするべきだと判断しました」
まあ、一つはそれか。
なお、ザリアの言うプレイヤーは、鍛えれば戦力になる、鍛えるだけの価値があるプレイヤーだと思う。
実際にそう言うのが居るのかは分からないが、討伐の邪魔を意図的にするプレイヤーが居る可能性だってゼロではないだろうし。
「他の問題は……ああそうか、さっき聖女様が言っていたわね。カースの力が増せば、地上に姿を現わすって。もしもそうなってしまえば、現状だと一気に死者数が増えるのか」
「ええそうよ。実を言えば、私たちはあの悪夢前は地上にわざと砂漠のカースを出して、呪詛濃度不足による弱体化を狙えないかなんて考えていたのよ。でも、あの悪夢での状況を考えたら……まあ、そんなことをしたら一気に敗北に繋がるでしょうね」
底上げが必須な理由はこちらもか。
戦力にならなくてもいい、しかし、避難ぐらいは出来るだけの力は持っていてくれないと、討伐に失敗した場合は、大惨事待ったなしになるかもしれない、と。
なるほど、延期も止む無しである。
「分かりました。やはり延期は妥当なようですね。そして、きちんと前線にいる者は、現状での討伐は妥当ではないと理解している、と」
「他にも火力不足や物資不足などの問題もありますが……とにかく、そういう事です。討伐はこちらの時間だと一月近く先になるかもしれません」
「そうですか。物資不足ですか……」
あ、たぶんだけど、聖女ハルワから何人かのプレイヤーに対する好感度が消し飛んだな。
なんかそんな感じの表情をしている。
まあ、自業自得っぽいけど。
「ところでそこの呪限無の化け物?」
「何かしら?」
「砂漠のカースとの戦いに参加する意思は?」
「勿論あるわよ。ただ、流石に眠っている時間帯や、他に手が離せない案件とかあったら、参加できないけど」
参加の意思はあるが、それはそれとして保険はきっちり張っておく。
流石にログアウト中に事が進んだら、対応するもクソもない。
「分かりました。参加できるなら参加するように。それと異常があれば、直ぐに周囲へ知らせるように。貴方しか得られない情報もあるかもしれませんから」
「んー……分かったわ」
これは『理法揺凝の呪海』に毎日入って、砂漠の状況を確かめろ案件かな?
何かしらの異常が起きれば、あそこから見えるだろうから。
『チュアアアアッ!? この糞ビッチ淫乱放蕩似非聖女がアアァァぁ!! よくもざりちゅのゴーレムを壊してくれたでチュねえええええぇぇぇぇ!!』
「ふふふふふ、ナンセンス汚物キモ帽子の分際で随分と手間取らせてくれましたわぁ。ですが! 私の手にかかればこんなものです。本体の処分が出来ないのは残念ですが、今回は私の勝利です!」
「「「……」」」
あ、ザリチュ対聖女アムルに決着が着いた。
私たちの方に水が飛んでこなかった事含めて、どうやら聖女アムルの勝利のようだ。
「アムル」
「なんですか? ハルワ姉さま」
「後始末は貴方が、自分で、やるように」
「……。はい」
まあ、あの罵倒が会話に紛れ込まなかったので、ザリチュの勝利でもあるのかもしれないが。
「さて、私たちはそろそろお暇するべきかしら?」
「そうね。そうしましょうか」
「今日は貴重なお話ありがとうございます。ザリアさん。あ、そこの呪限無の化け物はきちんと箱に入って帰るように。間違っても爆散して帰るなんて真似はしないように」
「分かっているわよ。それぐらい」
「こちらこそ貴重なお話ありがとうございました。それでは」
「ええでは。貴重な話の報酬はいずれ届けますので、楽しみにしててくださいね」
そんなわけで私、ザリア、聖女ハルワによる思わぬ会談は終わりを告げた。
そして『ダマーヴァンド』に帰ってきた私は、一応『理法揺凝の呪海』から砂漠の方を見て、異常がない事を確かめてからログアウトしたのだった。




