408:トランスファーアイアン-2
「ふふふ、汚物が汚物らしい姿で汚らしい言葉を口にしていますね。早く掃除をしなければいけませんね」
「チューチュッチュッチュッ、言ってくれるでチュねぇ。そっちがその気ならこっちも正当防衛の範疇に留めて反撃をしてやるでチュよ」
さて、ザリチュと聖女アムルの会話は流しておいてだ。
まずはとっとと渡すべきものを渡してしまうとしよう。
「聖女ハルワ。此処に渡したい物を出してもいいかしら?」
「いいわよ。何を持ってきたのかは知らないけれど、先日の悪夢の中で受け取った土といい、こちらに害があるものだとは思っていないから」
「じゃあ遠慮なく」
と言う訳で毛皮袋から鉄骨を取り出し、置く。
「……」
「呪いを弾く性質を持っている鉄骨よ。溶かして成型すれば、色々と使い道はあるんじゃないかしら?」
「そうね。使い道は色々とあるわ……それにしてもこんな物を一体どこで手に入れてきたの?」
「とあるダンジョンとだけ言っておくわ。ちなみにダンジョンそのものはもう崩壊して跡形もないし、もう一度手に入る保証もないからそのつもりでいて」
「分かったわ……」
鉄骨を見た聖女ハルワは一度頭を痛そうにし、目を瞑って、それから口を開いた。
ザリアのインベントリだと厳しいサイズの鉄骨と言うのは、やはり希少な品になるのだろうか?
「それでそっちの話したい事って言うのは? 伝言の感じからして、話って言うのはザリアと私、両方に対してじゃないの?」
「そうね。そちらの話に移りましょうか。ザリアさんもどうぞ席に。呪限無の化け物は適当に飛んでいなさい」
「……。分かったわ」
「はいはい、分かったわー」
聖女ハルワ、ザリアが席に着き、私はザリアの頭の横辺りに飛ぶ。
なお、ザリチュ操るネズミゴーレムは、両手に水差しを持った聖女アムルと睨み合いをしている。
放置しておこう。
「話と言うのは砂漠のカースについてです。ザリアさん、まずはそちらの現状を教えて貰えますか?」
「現状ですか?」
聖女ハルワの言葉にザリアは微妙な不信感を抱いたらしい。
表情にそんな感じが現れている。
まあ、ザリアにしてみれば、何故このタイミングでとか、自分たちの方から出している伝令はどうしたのかとか、何で私なのかとか、そんな感じの思いがあるのだろう。
「はい。現状についてです。お願いできますか?」
「……」
だが、聖女ハルワにしてみれば……正確な情報を得ると言う意味で、今これ以上のタイミングはないのだろう。
普段受けているのとは別ルートからの報告で、最前線にいると明言出来る相手、性格的にも嘘を吐いたり探り合いの類をする可能性は薄い。
私が居るのは……たぶん関係ないか。
話を挟めるなら挟むが。
「現状は討伐を一度延期して、挑める人間を増やす為の活動をしているところです」
「挑める人間を増やすですか。理由は……先日の悪夢ですね。あの時の光景は酷い物でしたから」
「その通りです」
「実際、酷かったわよね。あの時は。私が呪詛濃度をちょっと上げただけでバタバタ倒れていったし」
ザリアと聖女ハルワから、お前が言うのか、と言う感じの視線が向けられるも、私はそれを受け流す。
「そこの呪限無の化け物の言葉は無視するとして。ザリアさん、貴方たちの判断は正しい判断だと思います。悪夢の中の出来事ではありますが、あの悪夢は現実のルールと限りなく近しいルールで動いていました。もしも、あの悪夢での実力のままに砂漠のカースに挑めば、あの悪夢以上に見るに堪えない光景が広がる事になったでしょう」
「そう……ですね」
「貴方たちは不老不死の呪いを持っている。故に死んでも生き返ることが出来る。しかし、たとえ生き返っても死んだことに変わりはなく、貴方たちがカースの手にかかって死ぬほどに、カースはその力を増していくでしょう。そうして力を増していけば……地上に姿を現わす事も、西の守りを打ち破る事も容易になっていくでしょう」
ああなるほど。
これ、超大型ボスの敗北条件説明でもあるのか。
糞雑魚海月でも、ズワムでも、全滅か一定数以上の死者で敗北すると言っていたし。
理屈としてはこういう事だったのね。
「ちなみに西の守りとやらを打ち破られたらどうなるのかしら?」
じゃあ折角なので追加質問。
「サクリベスは確実に滅びます。いえ、サクリベスだけでなく、守りの内側にある大半のものは滅びる事になるでしょう。残る可能性があるとすれば、女王蜂が治める琥珀の森か、そこの呪限無の化け物が拠点としている山ぐらいでしょう」
「!?」
「ふうん……それはちょっとつまらないわねぇ……」
サクリベス崩壊……その後の生き残りを集めて復興ルートもありそうではあるが、失われるものがあまりにも多そうだし、このルートに入らないように動いた方がよさそうだ。
後、『琥珀化の蜂蜜呪』ムミネウシンムが治める『蜂蜜滴る琥珀の森』があそこにある理由は、復興ルートに入った時の拠点候補とか、そんな感じか。
砂漠のカースの実力は分からないが、ムミネウシンムを倒せるほどとは思えないし。
「話を戻しましょう。ザリアさん。先ほど言った討伐延期は貴方方の総意でいいのですか?」
「総意と言われると悩ましいですが……少なくとも私と私の友人たち、『光華団』、『エギアズ』、他にも最前線にいる者たちではだいたい共通認識になっていると思います」
「なるほど」
「その、そもそもとして、どうしてこのような事を聞くのですか? 情報のやり取りは他の方としていると思うんですけど」
今更だが、目上の人相手だとザリアも丁寧な言葉遣いになるらしい。
「していますよ。ただ、時折居るのです。私の関心を惹くためなのか、事実と異なる報告をするものや、自分の能力や成果を誇張する不届き者が」
「それって……」
「そこの呪限無の化け物は忌々しい事に、そういう話については真逆の立ち位置です。本当にっ、忌まわしい事にっ! なんで変な連中よりもアンタの方が情報源や実力と言う意味では信用できるのよ!? ああもう、本当に忌まわしい! カースならカースらしくしなさいよ!! 一般市民を気遣って目につかないように行動してくれるのは好ましいけど、行動原理が意味不明すぎて、私の胃と頭が痛くなるのよ! アンタは!!」
「嫌よ。カースらしいカースだなんて、先々の展開に含まれる未知が、どう倒されるかぐらいじゃない。そんなのはどうでもいいわ」
「ええぇぇ……友人と聖女様の関係が意味不明すぎる……何これ……」
聖女様が突然叫び出したのはさておきだ。
とりあえず話を進めよう。
なお、ザリチュ操るネズミゴーレムと聖女アムルの戦いは、互いに罵倒をしつつ、聖女アムルが水芸のごとく水をばら撒き、ネズミゴーレムがそれを避けると言う流れになっている。
一応こちらを気遣っているのか、水を撒く範囲は控え目だし、ザリチュもこちらには来ないようにはしているが、発言内容は……もはや放送禁止レベルである。
まあ、無視しよう。
「はいはい、今は砂漠のカースについてなんでしょ。話を戻すわよ」
「コホン。そうですね。そうしましょう」
「……。分かりました」
では、聖女ハルワが表情を取り繕い、ザリアが色々ツッコミたいと言う顔をしているが、話を戻そう。
「では聞きましょう。ザリアさん、現状で用意できる戦力はどの程度になりますか?」
「戦力ですか……」
さあ頑張れザリア。
ザリアが提供する情報によって、聖女ハルワから引き出せる情報の量が変わってくる展開なのだから。
少しでも多くの未知を引き出すためにも頑張るんだザリア。
場合によってはリアルでちょっと奢ってもいいから。
「現状だと……」
そして、少し悩んでからザリアが口を開いた。
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