407:トランスファーアイアン-1
「待たせたわね。ザリア」
「殆ど待ってないから大丈夫よ。タル」
はい、ザリアと合流。
シロホワたちは『熱樹渇泥の呪界』を探索中なのか、姿は見えない。
「で、呪いを弾く鉄骨とやらを聖女様に渡してほしいと言う話だったわよね」
「ええそうよ。こっちにあるから来て」
「こっちって、セーフティーエリアには……まさか」
まあ、シロホワたちが居ない方が都合がいいか。
ちょっとした実験も兼ねているわけだし。
と言う訳で、第四階層に結界扉を設置、開けて、ザリアを中に招く。
私のその姿にザリアも察したのだろう。
何かを覚悟するような顔をしつつ、結界扉の中に入り……私のセーフティーエリアに入る。
「私のセーフティーエリアの倍以上の広さがあるわね……自分以外をいれられるようになる事含めて、ズワム討伐の報酬と言うところかしら」
「正解よ。どの素材で強化できるかまで話す?」
「いいえ、そこまでは必要ないわ。素材のスペックを考えたら、どの道一通りの素材が手に入って、装備が整うまでは周回する事になりそうな相手だし」
ザリアは一瞬頭を抱えるも、直ぐに立ち直って、私の方を向く。
ちなみに、掲示板情報だが、現状では飛行能力持ちのプレイヤー含めて、ズワムに辿り着いたプレイヤーは居ないらしい。
砂漠のカースとの戦いまでに討伐者が出て来るかは怪しいところである。
「それで例の鉄骨は?」
「これがそうね」
では本題。
私は毛皮袋から鉄骨を取り出して、ザリアに見せる。
ザリアの反応は……頬を引きつらせている。
「あー、もしかして大きすぎて運べない?」
「ちょっと私のインベントリだときついわね……まさか鉄骨一本丸ごととは思ってなかったわ。と言うか、熱拍の幼樹呪を丸ごと納めていた時から思っていたけど、タルのインベントリって、何で出来ていて、どういうリスクを背負ってるの? 明らかに普通の容量じゃないわよね」
「私のは毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮をメインにしたものね。リスクは……入れてからゲーム内で24時間経つと消滅。それと有毒じゃない回復アイテムをいれると汚染されることかしら」
「素材の一時保存に特化と言う感じかしら。知り合いの生産職にそう言うことが出来るか、今度聞いてみるわ」
今更な話になるが、私のインベントリの容量はだいぶ大きいものだったらしい。
ただ、掲示板でも特に騒ぎになっていた覚えはないので、持っている人は同じ程度の物を持っているのではないだろうか?
とりあえず熱拍の幼樹呪を丸ごと回収する事を考えたら必須だろうし、今後の為にもザリアも作っておくべきだとは思う。
「で、話を鉄骨に戻すけど、ザリアのインベントリだと厳しいのよね」
「そうなるわね」
「しょうがない。じゃあ、私のインベントリに入れるから、ザリアには私自身を運んでもらっていいかしら」
「それはどういう……ああ、そういう事。分かったわ。ただ、きちんと外から見られても大丈夫なようにするための容器は準備しておいて。タルもそれは嫌でしょう?」
「勿論よ。と言う訳でcitnagig『小人の邪眼・1』」
私は鉄骨を毛皮袋に戻すと、呪法込みの『小人の邪眼・1』を自分に斉射して小人を付与。
そうして小人状態になった私を熱拍の幼樹呪の木材製の箱に入れる。
ついでにネズミの着ぐるみと、ネズミゴーレムも納めておく。
「じゃあ転移するわよ」
「分かったわ」
この状態で通常の転移を開始。
どうやら転移に伴う支払うDCはセーフティーエリアの所有者である私の異形度に依存しているらしく、普段と変わらない。
「タル、運ぶわよ」
「分かったわ」
サクリベスに到着したら、ザリアに箱を持ってもらい、運んでもらう。
なお、箱の中の呪詛濃度は21だが、箱の外には一切漏らさないように注意は払っている。
「おや、ザリア殿。その箱は……」
「聖女様へのお届け物です。ただ、少々問題がある品なので、安易に中身を見せることは出来ません。どうすればよいでしょうか?」
「それは……正直困りますね」
神殿に到着したらしい。
箱の外からザリアと衛視と思しき男性の声が聞こえてくる。
「ザリア殿。聖女様との面会のご予約などは?」
「そう言うのも取っていないんですよね。本当に急に頼まれたので。人目に付かない部屋を一つ用意してもらえれば、目的の品だけ取り出して、問題のある部分を見せないと言う事も出来るのですが……」
「ふうむ……ますます困りますなぁ……中身の察しと言いますか、誰からなのかが分かってしまうだけに」
「まあ、そうですよね……」
「ザリア殿。聖女様から伝言です」
おや、人が一人増えた。
どうやら私のサクリベス侵入に気が付いて、聖女様が手を打ってきたようだ。
「『話もありますので、誰にも中身を見せず、直接私たちの部屋にまで持ってくるように』との事です」
「……。まあ、聖女様自身の指示ならば、問題はないでしょう。ただ、中身は本当に誰にも見せないように。貴方がたや聖女様と違い、私たちには彼女がこちら側であると理解していてもなお、恐れずにはいられないのです」
「分かっています。無理を言ってすみませんでした」
「ではこちらへどうぞ」
まあ、入れたから問題はないか。
と言う訳で、ザリアの手によって私は神殿の奥の方へと運ばれていく。
途中で以前にはなかった呪詛濃度を強制低下させようとする仕掛けの類も通ったが、私の呪詛支配能力以下の制御能力だったので、問題はない。
目的地に着いたのか、箱が何処かに置かれた。
で、部屋の扉が閉まる音と共に聖女様の声が聞こえてきた。
「ちょうど良いところに来てくれましたね。ザリア。で、なんで貴方まで居るのかしら? 呪限無の化け物」
「先日の悪夢以来になるのでしょうか? カースタル。あ、箱は開けなくて結構です。閉じられているこの状態でも、あの汚物が操っている糞ネズミの匂いが漂ってきて、鼻が曲がりそうな感じがして仕方がないのです。そういう訳で、替えの帽子が……」
「チュアアアアアァァァァァ! いい鼻をしているでチュねぇ! オスの匂いを逃さないためでチュけど、本当にいい鼻をしているでチュねぇ! お礼に下着を完全乾燥してやるでチュよ。糞ビッチ似非聖女の下着でチュからガビガビになる未来しか見えないでチュがねぇ!?」
「えぇ……」
「あ、そう言えばザリチュと聖女アムルが直接言葉を交わせる状況って今回が初めてになるわね」
そして、これまでは私にしか聞こえていなかったザリチュと聖女アムルの罵倒が、私以外の耳にも入った。
なお、箱の外に出た私が見たザリアの表情は、色んな意味で引いている感じだった。
01/28誤字訂正




