406:タルウィスタン・2-2
「よく来……」
「ニセムラード、説明」
「前振りぐらいさせろでチュ! この羽虫!!」
まさか一口食べただけで試験開始とは……『気絶の邪眼・2』のチャージ時間の短さや、雷の速さを現わした結果だろうか?
とりあえずニセムラードに説明を求めるとしよう。
「今回の試験は簡単に言えばチキンレースでチュ」
さて、周囲の状況は……レモン色の電気の塊がニセムラードの背後で輝いており、周囲へ電撃を放っている。
だが、その電撃は私やニセムラードに届くことなく、電気の塊の周囲に描かれた、白色の線の内側に留まっているようだった。
此処にニセムラードのチキンレースと言う言葉を加味すると……まあ、だいたい分かった。
「ルールは簡単で、そこの白線の内側に全身が入ったら試験スタート。終了条件は全身が白線の外に出る、雷に打たれて死ぬ、諦めるの三つでチュが、試験に成功した扱いになるのは白線の外に出た場合のみでチュ」
つまり、『気絶の邪眼・2』をただ習得したいだけならば、白線の内側に入った直後に後ろへ跳び、白線の外に出てしまえばいい。
「勿論、白線の内側に長く留まり続ければ、それだけ習得する呪術の性能は良くなるでチュ」
しかしこれはチキンレース……雷に何時撃たれるか分からない恐怖に打ち勝って、限界ギリギリまで白線の内側に居なければ、本当の意味で『気絶の邪眼・2』を習得する事は出来ないと言う事だ。
「では、試験開始でチュ。後は自分で調べるでチュよ」
そうしてニセムラードは消え去った。
「さて、色々と調べるべきね」
うん、ニセムラードはチキンレースだと言った。
それは間違いではない。
だがチキンレースとは、本気で勝つのであれば、度胸よりも事前の調査が物を言うものである。
「雷の頻度は……3±0.5秒と言うところかしらね」
私は白線の外側から、電気の塊から周囲へと落とされる雷を見る。
頻度、落ちる方向の傾向、落ちた後の周囲への影響、色々と見ていく。
すると頻度は3±0.5秒。
方向はほぼランダムだが、一度落ちた場所に続けて落ちる可能性は極めて低い。
落ちた後に地面などを電撃が伝う事がない事が分かった。
「ほぼ本物の雷通りっぽい感じね……」
で、どうやらこの雷だが、きちんと先駆放電、先行放電、主雷撃の三段階を踏んでいるようだ。
なので、避ける事は不可能だが、何処に落ちるかは見れそうだし、予測も出来る……と言うか、雷が落ちる方向として定められた方にある中で、一番電気の塊に近い場所に向かって落ちると言う当たり前の動作をしてくる事だろう。
となると雷が直撃した場合の被害についても、ほぼ本物通り……電撃そのものの破壊力に、体内の水分が蒸発する事による爆発などが予想され、ぶっちゃけ普通の人間なら確定で死ぬ。
「んー……『遍在する内臓』は……多分生きているわね」
では私自身の状態の確認。
今の私は低異形度アバター……鎖骨の間の目、『遍在する内臓』、『不老不死』以外の呪いを失った状態かつ装備品なし。
異形度は上げられないし、呪詛支配も受け付けない、邪眼術の使用も不可。
この状態で雷を受けたら……まあ、普通に受けたら死ぬか。
「うん、よし。方針は固まったわ」
軽く準備運動をして、素早く立ち回れるようにしておく。
その上で電気の塊をよく見て……
「今!」
空気の破裂音と同時に、私の目の前に閃光が生じる。
そのタイミングで私は動き出し、白線の内側に入る。
そして素早く仰向けになり、電気の塊から距離を取るように片足を上げておく。
「1発目……」
雷が放たれる。
まったく別の方向だ。
だが、その方向に急いで移動するような真似はしない。
間に合わないし、移動の途中で雷が落ちるエリアに複数同時に入る事になってしまい、移動中のリスクが跳ね上がると言う判断だ。
「2……3……4……5……」
ここまでくれば後は二つの運ゲーだ。
一つは勿論雷に打たれないと言う幸運を得られるかと言うもの。
「6……7……8……9……10……ぎぃっ!?」
11発目の雷は直撃した。
私の頭を直撃し、胸を通過し、四肢を駆け巡り、上げていない四肢から地面へと抜けていく。
結果は……HPの減りは80%以上、気絶(15)、恐らくだが全身の皮膚が裂けて酷いことになっているだろう。
「ふんぬうっ!」
だが生きている。
『遍在する内臓』の効果によって、雷の被害を免れ、生きている細胞が内臓となり、神経となり、筋肉となる事で、気絶が解けると同時に私の体を無理やりに動かして、白線の外側へと飛び出させる。
特に上げておいた脚のダメージが他の部分より少ないのが大きいか?
ぶっちゃけ、全身にまんべんなくダメージを受けるよりは程度の思い付きだったのだが、上手くいって何よりだ。
≪呪術『気絶の邪眼・2』を習得しました≫
≪タルのレベルが26に上がった≫
「ふ、ふふふ……」
そうして雷に打たれると言う現実では味わえない未知を堪能しつつ、試験終了のアナウンスを私は確認。
私の精神は通常の空間へと引き戻されていった。
「ふぁい!」
『え? もう、試験終了なんでチュか?』
と言う訳で、無事に戻ってきたところで性能の確認……の前に大学芋を食べきってしまおう。
折角美味しく出来たのに残すのは勿体ない。
で、食べきったところで性能を確認。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル26
HP:322/1,250
満腹度:27/150
干渉力:125
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の達人』、『灼熱の名手』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖の名手』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『魅了使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『3rdナイトメアメダル-赤』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』、『呪海渡りの呪人』、『泡沫の世界の探索者』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・2』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『重石の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『不老不死-抑制』、『風化-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』、『化身』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2
▽▽▽▽▽
△△△△△
『気絶の邪眼・2』
レベル:25
干渉力:115
CT:0.2s-30s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象に電撃属性1ダメージ(固定)+気絶(1)を与える
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
雷の鉾が数多の守りを食い破るだけでなく、相手の守りの内からも外へと雷を生じさせるのだから。
注意:使用する度に満腹度が現在値の5%(最大5、最低1)減少する。
▽▽▽▽▽
「やっぱり飢渇芋を食べると腹が減るわね」
『そりゃあそうでチュよ……』
満腹度の減りに気づき、斑豆を食べつつ性能を確認していたのだが……うん、結構強化されていると思う。
威力はそのままだが、使用後のクールタイムが半減している。
コストも現在値の5%になったと言う事は、満腹度が少ない時ほど消費も少なくて済むと言う事だ。
「で、文面の変化はどう見る?」
『どうと言われても……何ともでチュね?』
分からないのは文面の変化だが……こちらについてはよく分からない。
とりあえず適当に撃ってみたが、いつも通りにレモン色の光が目から発せられるだけで、目から雷が放たれるようになったわけではないし。
「あり得そうなのは邪眼の耐性減算効果の強化とか?」
『それ、意味あるんでチュかね? 今だって抜けない相手なんて、ゴーレムみたいにかかる状態異常に伴う現象が生じても意味がない相手ぐらいでチュよ。『呪法・貫通槍』の強制変換だってあるでチュし』
「うーん……まあ、無意味ではないと思っておきましょう」
まあ、その内分かるだろう、たぶん。
「あ、ザリアからメッセージ来てるわ。第四階層に居るらしいから会いに行きましょうか」
『でチュね』
と、ここでザリアから呪いを弾く鉄骨を受け取る旨のメッセージが来たので、考察は終了。
掲示板に動画を投稿すると、私は『ダマーヴァンド』の第四階層に移動した。