404:ラントロッコ-2
「あらあらまあまあ、でいいのかしらね?」
『何故、その反応なんでチュかねぇ……』
ダンジョンの外に繋がっている方、曲がり角の先から複数人のプレイヤーたちが姿を現わす。
どうやら何かしらの遠距離知覚の方法を彼らは持っており、私を見つけた事で思わず叫び声を上げてしまったようだ。
で、肝心の複数人のプレイヤーだが……
「こんにちは。ザリア分隊の皆さん」
「お、おう……」
「俺らの事を知っているのか……」
「ま、まあ、知っていてもおかしくないのは分かるが……」
第三回イベントでザリア分隊と言う通称が付けられていたプレイヤーたちである。
ただ、イベントの時とは一部プレイヤーの装備や容姿が微妙に変わっている。
具体的に言えば、大多数が左肩に棘付きのパッドを身に着け、一部が髪型をモヒカンに変えている。
まだイベントから二日目だと言うのに、随分と手早い事である。
「とりあえず全員で結界扉に入って、転移や死に戻りのポイントとしての登録を済ませましょうか。何をするにしてもそれからにするべきです」
「そうね。私もそうするべきだと思うわ。と言う訳でお先に失礼」
「まあ、それはそうだよな……」
「何があるか分かったものじゃないしな」
「だな」
杖を持ち、ローブを身に着け、目の下の隈が特徴的な女性……確かイベントでゾンビを使役していたプレイヤーの言葉で私たちは順に結界扉に入り、登録を済ませる。
さて、彼らは私に何かを聞きたいようであるし、私も彼らから何かしらの情報を得られるかもしれない。
と言う訳で、情報交換タイムである。
「さて、情報交換がお望みでいいのよね?」
「そうですね。ただ、こちらがそちらの求めるような情報を出せる保証はありませんが」
「その辺は別に構わないわよ。ぶっちゃけ、私が一方的に出してもいいし」
情報交換をするのは、ネクロマンサーの女性と、モヒカンに肩パッドの男性……推定だがこのザリア分隊の隊長らしき人物である。
他のメンバー数人はトロッコが向かう先であろうレールの先と、何故か入り口の方を気にしているようだ。
外で何かあったのだろうか?
「えーと、それじゃあ質問なんですけど、どうやってこのダンジョン『岩山駆ける鉄の箱』の中に? このダンジョン、3時間ほど前に俺らの視界内で発生して、俺らが辿り着くまで誰も入っていなかったはずなんですが」
「特殊な方法。とは言っておくわね。知れば、いずれは誰でも使えるようになるだろうけど」
「なるほど……あ、詳細は話さなくても大丈夫です。下手に話すと禁則事項に触れるかもしれないですから」
「そうね。話さないでおくわ。まあ、私のやり方をそのまま真似たら、よくてミンチだけど」
「文字通りにですか?」
「文字通りにね」
見た目は完全に世紀末なモヒカンなのだが、実に礼儀正しい男性である。
口調がとても丁寧だ。
なお、私のミンチ発言にちょっと口の端が引きつってる。
ちなみに周囲からは『それはただの自殺なのでは……?』『胴体着陸的な?』『やっぱタルウィってヤベえわ』と言う感じの感想が聞こえてきている。
「そっちはどうして此処に? 後、外の状況もお願い」
「どうしてについては普通にレベル上げです。イベントでこいつらとフレンドになりましたんで、一緒に行動する事にしたんです。外の状況は……何か変な事はあったか?」
ザリア分隊はレベル上げのために来たと。
彼らの顔ぶれを見て、イベントでの動きを思い出す限り、彼らは呪詛濃度24でも戦えるはずだ。
となると、他プレイヤーの底上げは『エギアズ』、『光華団』に任せて、自分たちは自分たちの実力と連携を高める事を選んだ感じか。
「外なぁ……イベント前と変わらず熱いよな」
「まあ、いつも通りの昼の砂漠だよな。イベントを挟んだから昼夜の時間がひっくり返ったくらいか?」
「なんかコソコソと動き回っている奴らは居たけど、それくらいだよな」
外は普通に昼の砂漠なのか。
「コソコソ?」
「距離が近づいたので、こちらに敵意がないと示すべく声を掛けようとしたのです。が、こちらの姿を認識すると同時に、まるで人目を避けるように去っていった集団が居たのです。早い話が不審者の集団ですね」
「ふうん……」
不審者の集団ね。
イベントが終わったばかりのこのタイミングで現れたのは少し気になるところであるが……。
「その話、掲示板やザリアたちには?」
「まだ話していないで……」
「あ、掲示板にはさっき俺が上げておきました」
「『光華団』とザリア隊長にはこっちでメッセージを送っておきました」
「『エギアズ』にも個人的に付き合いがあるんで、連絡済みです」
『優秀でチュね。ザリア分隊……』
「いい事ね」
流石のザリア分隊である。
報連相がしっかりしている。
「不審者の集団と言う事は、良ければイベントの始まり、悪ければ厄介事の開始。注視はしておいた方がいいですかね?」
「しておいてもいいと思うわよ。挨拶も嫌がる辺り、きな臭い感じはあるから」
そして私にも相談が来たので、ネクロマンサーの言葉には怪しいと返しておく。
最悪のパターンは……超大型ボスを刺激して、予期せぬタイミングで戦闘を発生させる事だろうか?
いや、流石にそこまで変な事はしないか。
イベントの私との戦闘で、カースとの戦闘がどれだけ厄介なのかは知れているだろうし。
「そう言えばタルさんはどうしてこのダンジョンに?」
「理由の方?」
「そうです」
「さっき言った特殊な移動方法の先が偶然此処になっただけよ。そんなわけだから、攻略したいのならお好きにどうぞね。私は今日のところはもう『ダマーヴァンド』に帰る予定だし」
「なるほど」
「あ、転移先として確保しておきたいから、出来ればダンジョンを崩壊させないでくれた方が私としては嬉しいわ」
「そこについては何ともです。攻略が上手くいくか、何が得られるか、その辺次第なんで。まあ、俺たちとしても残す方針にはなるでしょうね。場所がいいんで」
まあ、不審者の集団は『光華団』、エギアズ、ザリアたちにザリア分隊と言った砂漠をメインにしているプレイヤーに任せればいい。
イベントの横取りは私の趣味ではない。
「そう言えばそっちはザリア分隊を名乗ってるの?」
「流石にそれは名乗ってないです。ザリア隊長に申し訳ないんで。名前は……まあ、追々考えますよ。肩パッドもまだ揃ってませんし」
「そう」
「それと、ウチはエンジョイ勢ですが、規律はきっちりしておくつもりです。この見た目で好き勝手するとザリア隊長に迷惑がかかるんで」
『本当に優秀でチュね!? ザリア分隊!?』
なんだか本人たちが何かしらの名前を名乗っても、ザリア分隊と言った方が良く通じる気もするが……流しておこう。
「さて、情報交換はこれぐらいかしらね?」
「ですかね」
「ありがとうございます。タルさん」
「こちらこそよ」
と言う訳で情報交換終了。
私は結界扉に入って、『ダマーヴァンド』に転移した。
ザリア分隊は……結界扉には居る直前に見えた光景からして、ダンジョンの攻略をとりあえず始めたようだった。
隊長がやけに長い舌で武器の刃を舐めているようだし、やる気満々のようだ。
さてどうなるか……後でもう一度訪れてみようか。