403:ラントロッコ-1
「う……ぐ……」
『死ぬかと……思ったでチュ……』
門の外に勢いよく流された私はどうなったのか?
「と言うか、『遍在する内臓』がなければ即死だったわよ……」
五体バラバラである。
文字通りの意味で。
どうやら超高速で地面に叩きつけられた結果として、関節部のような強度が低い場所で体が千切れてしまったらしい。
『遍在する内臓』があるので死んではいないが、HPは残り10%以下であるし、ちょっと拙い。
「えーと、周囲の状況は……」
とりあえず状況確認。
どうやら、泡沫の世界ではない普通のダンジョンに出たようだ。
周囲は岩場だが、トロッコあるいはジェットコースターのレールのような物も張り巡らされている。
天井がないタイプのダンジョンらしく、空は雲一つない青空。
敵影は見える範囲にはなし。
植物の類も雑草含めてなし。
私が開いた門はそういう仕様なのか、自動で閉じたらしい。
「体を回収して……仕方がない。『不老不死-活性』」
『まあ、止むを得ないでチュね』
バラバラになった四肢と翅に這い回って貰い、断面を合わせていく。
その上で『不老不死-活性』を使って、体を繋ぎ合わせ、消失してしまった部分の肉体を補っていく。
「ちょっと休憩ね」
『でチュね』
体の再生は無事に完了。
続けて斑豆を食べる事で満腹度を回復し、休憩をする事でHPを回復していく。
で、この場の鑑定も済ませておく。
△△△△△
岩山駆ける鉄の箱
人を乗せた鉄の箱が荒野の岩山の間をすり抜けていく。
行き着いた先で得るのは喜びか、悲しみか。
呪詛濃度:11
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『岩山駆ける鉄の箱』を認識しました≫
「本当に普通のダンジョンに出たみたいね」
『見たいでチュね』
呪詛支配領域の精査を開始。
呪詛の流れ的にどちらが奥で、どちらが入り口の可能性が高いかを確かめる。
同時にモンスターの位置や、だいたいのマップ構造も把握していく。
と思ったが……。
「何これ……私の呪詛支配領域より一階層が広いんだけど」
『たるうぃの呪詛支配領域と言うと……』
「2キロメートルはあるわよ」
『何処かの蜂蜜の森並みの広さでチュねぇ……』
どうやらこのダンジョン『岩山駆ける鉄の箱』はかなり広いダンジョンであるらしく、一階層全てを把握する事は叶わなかった。
『でも方角は分かるんでチュよね?』
「それは分かるわね。このレールを遡っていけば、脱出は出来るわ」
『なるほどでチュ』
まあ、どちらに向かうかは分かった。
と言う訳で、私はレールに沿って移動を始める。
『ちなみにレールから外れて移動するとどうなるんでチュか?』
「大きく外れると、何かしらの呪いが発動する感じはあるわね」
さて、ここ『岩山駆ける鉄の箱』はどうやら、レールの上を移動するトロッコか何かに乗って攻略するダンジョンであるらしい。
その為か、レールを無視して地上を移動し続けると、何かしらの罠が発動するようだ。
幸いなのはレールに沿ってさえいればいいので、今の私のようにトロッコなどの乗り物に乗らずに移動する事はペナルティの対象外になっている事か。
『ここ、たるうぃのように飛べなかったら、酷いことになりそうでチュね』
「そうね」
レールに沿って移動していると、レールが地上を離れて、岩山の壁に作られた最低限しかない足場の上で伸びて行くようになる。
また、一組だけだったレールが複数組になって、ポイントを適宜切り替える事で、別ルートに行けそうな雰囲気も出している。
「おっ、あったわね」
『よかったでチュ』
そうこうしている内にトロッコのような物が止まっている、発着場のような場所が見えてくる。
そこにはトロッコのレールだけではなく、普通の人が歩くことを想定した木製の足場も設置されており、どうやらその木製の足場から外に出る事が可能なようである。
『そう言えば、此処に来るまで敵に出会わなかったでチュね。現状を考えたらいい事でチュけど』
「そう言えばそうね。不正規入場、特殊な移動方法、逆走と言った要素が重なったからかしら?」
私はレールから木製の足場へと上がる。
で、折角なのでトロッコのような物をちょっと鑑定してみる。
△△△△△
『岩山駆ける鉄の箱』のトロッコ
レベル:10
耐久度:100/100
干渉力:110
浸食率:100/100
異形度:7
『岩山駆ける鉄の箱』で移動に用いられる特殊なトロッコ。
乗ると自動で動き始め、目的地に着くまで止まる事はない。
乗っている人間が上で飛ぼうが跳ねようが戦おうが、トロッコの呪いの領域外に出ない限りは風圧の影響は受けない。
▽▽▽▽▽
「あ、はい。トロッコに乗ると強制戦闘が始まるんですね。分かります」
なお、このトロッコは一辺が5メートル程ある正方形で、端の方に多少の出っ張りはあるが、壁や座席の類はない。
ぶっちゃけ、トロッコと言うよりは、でかい皿が動いていると言ってもいいかもしれない。
後、風圧の影響は受けないとあるが、慣性の法則は受ける気がするので、カーブなどで飛んだりすると、そのまま壁に叩きつけられたりするのではないかなと思う。
『どうするでチュか?』
「流石に今は乗らないわよ。結界扉は……あったわね」
いずれにせよ今は脱出を優先。
私はターミナルに設置されている結界扉へと近づいていく。
そうして結界扉に手をかけた時だった。
「んな!? タルウィ!?」
『チュ?』
「ん?」
私でもザリチュでもない人物の声が、ダンジョンの外に繋がっていると思しき方から聞こえてきた。




