400:サンダーアンドアイアン-4
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「死ねぇ!!」
速い。
動きの軌道は稲光の残光と言う形で、移動が終わった後に認識出来ているが、移動そのものは一瞬も目に映らなかった。
まさか会話をする時間どころか、鑑定を行う時間すらないとは思わなかった。
防御、回避は不可能。
ならば答えは一つ。
「っう!?」
「目があぁ!?」
カウンターだ。
ウナギカースの攻撃が私の体を切り裂き、電気が迸り、痙攣すると同時に、戦闘前からチャージをしておいた『暗闇の邪眼・2』を発動。
私の目から殆ど黒の青紫色の光が放たれ、ウナギカースの体が黒雲に包まれて火炎属性と呪詛属性の複合ダメージと暗闇が与えられる。
「おおぉぉううぅぅおおぉぉよおおぉぉくもおおぉぉ……」
『たるうぃ!』
「分かってるわ」
私はウナギカースから距離を取りつつフェアリースケルズを使って、コストと合わせて4割近く削れてしまったHPを回復する。
そして『鑑定のルーペ』を向けて、鑑定を行う。
△△△△△
変電の鰻呪 レベル25
HP:119,325/120,472
有効:恐怖、質量増大
耐性:毒、気絶、出血、干渉力低下、乾燥、暗闇、魅了、石化、重力増大
▽▽▽▽▽
「暗闇に耐性? でも効いて……」
「そこかああぁぁ!」
鑑定結果を認識した私は変電の鰻呪の様子を窺おうとした。
だがその時には既に変電の鰻呪は私に向かって移動し、爪を振り上げていた。
「死ねぇ!」
「っ!?」
『チュア!?』
私は辛うじてネツミテを振り上げ、攻撃を受け止めようとした。
だが、相手が電気であるためか、ネツミテをほぼ無抵抗ですり抜け、先ほどよりも多少は少ないダメージを受ける。
なるほど、防御は可能だが、効果は低い、と言うところか。
そしてなぜ暗闇状態なのに、私の位置が分かっているかと言えば……
「ロレンチーニ器官!」
『なんでチュかそれ!?』
本来は鮫が持っている器官であり、極めて微弱な電流を感知する事が出来る器官の事である。
鮫じゃなくてウナギだろうとか、海中じゃなくて空中だろうがと言う無粋なツッコミはするだけ無駄である。
カースにそんな常識は通用しないのだ。
そして、ロレンチーニ器官があるおかげで、目が使えなくても私の位置を認識できたのだろう。
「手応えがぁあぁ……あさあああぁぁぁいいいぃぃ……」
いや、それよりも今気にするべきは此処からどうやって変電の鰻呪を倒すかだ。
「evarb『恐怖の邪眼・3』」
「!?」
『呪法・増幅剣』、『呪法・方違詠唱』込みの『恐怖の邪眼・3』が変電の鰻呪に当たる。
与えた恐怖のスタック値は1,598。
変電の鰻呪が複数の腕で複数の頭を抱え、その上で全身が震え出し……
「あああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「つうぅ!?」
『チュアァ!?』
まるでスーパーボールのようにマップ中を高速で跳ね回り始める。
変電の鰻呪の動きはこれまでの攻撃とは比較にならないほど早く、もはや私の目でも今何処に居るかを認識できない。
幸いにして直撃しても受けるダメージは微々たるものだが……これでは反撃すら出来ない。
『たるうぃ!? これどうするんでチュか!?』
「さて、どうした物かしらね……」
私はダメージの積み重なりを防ぐために地上に降りると、暴れる変電の鰻呪から離れる。
残り時間は……58分ほどか。
毒も与えていないし、この動きでは『灼熱の邪眼・2』、『暗闇の邪眼・2』を当てるのも厳しいか。
まさかここで、目で追えないほど早く動けば、私の邪眼術で対処できないをされるとは……。
「この手のは何処か狭い所に誘い込むか、罠を張るのが鉄板の対処法なんだけど……」
私が距離を取っても構わず変電の鰻呪は電撃スーパーボールの状態で跳ね回り続けている。
やはり、その動きは目で追えるような速さではない。
恐怖が有効だからと入れたら、とんでもない罠だったようだ。
「んー……」
とりあえず思いつく対処法で一番マシなのは、どうにかして軌道を読むか、何処かに誘い込んで動きを制限。
その上で、『灼熱の邪眼・2』か『暗闇の邪眼・2』を置いて、ダメージ判定が発生している所に突っ込んでもらう形か。
「いえ、まずはこれね」
『何をするきでチュか?』
私は敢えて全方位を見る。
やはり動きは見えないし、呪法も『呪法・方違詠唱』以外は使えないだろう。
レベル上げを諦めていないので、原始呪術を使うのも却下。
と言う訳でだ。
「thgil『重石の邪眼・2』」
「!?」
私は9の目を使って全方位に向けて灰色の光を放つ。
そう、位置を追いきれず全ての目で狙えないのであれば、全ての目で狙わず一つの目でいいから当てればいい。
私の狙いは当たり、変電の鰻呪に目の一つから放たれた灰色の光が注がれた。
直後、変電の鰻呪の動きが大きく変わった。
「おっ、ごっ、なんだ……なにが……なにがああああぁぁぁぁぁぁ!!」
与えた状態異常は質量増大(1)と重力増大(1)。
数字としては微々たるものであるが……全身が電気で構築されている変電の鰻呪にとって質量増大と言うのは、極めて強力な状態異常であったらしい。
電撃スーパーボール状態が解除されて、地面に這い蹲っている。
「すぅ……追撃よ。thgil『重石の邪眼・2』!」
「!?」
そこへまだ使っていなかった3つの目による『重石の邪眼・2』を『呪法・破壊星』も乗せて撃ち込む。
与えた状態異常は質量増大(8)、重力増大(4)にまで伸び、未だに1,500以上残っている恐怖の効果も相まって、変電の鰻呪はその場でただ震えるだけになった。
『急いで仕留めるでチュよ! たるうぃ!』
「言われなくても!」
「あああああぁぁぁぁぁ!!」
だが、効果時間とCTの都合的に質量増大の延長は出来ない。
私は急いで接近すると、ネツミテを全力で振り下ろした。