399:サンダーアンドアイアン-3
「さて、此処には何があるかしらね?」
『時間は……まだまだ余裕があるんでチュよね』
さてここは……変電所の類だろうか?
配電盤のような大型の装置が設置され、鉄塔に繋がっていない送電ケーブルが何本も転がっている。
「ん? 鉄製の檻に……テレビ?」
電気が流れていないので、配電盤を弄っても反応はない。
配電盤そのものにも異常は見られない。
きちんと解体すれば何かしらの希少金属や、電子回路の類が手に入るかもしれないが、興味は薄い。
送電ケーブルについては……鉄塔についていたのを切り落とされた感じか。
後で回収すればいいだろう。
今はそれより、配電盤の位置からでしか見えないようになっている檻とテレビだ。
『檻に電気が流れる仕組みになっているでチュね』
「鉄塔による送電で送られる電気は、それだけ高圧の物だったわよね。それを直接流すと言う事は、それだけ危険な生物を入れておける檻と言う事になるわね」
檻と配電盤は直接繋がっていて、恐らくだがかなりの高圧電流を流せるのではないかと思う。
普通の人間が檻に触れたら、その瞬間に感電死するのではないのだろうか?
対するテレビは普通のものだ。
逆に不自然なぐらいに普通のテレビだ。
「呪いはどうかしらね?」
私は檻とテレビに少量の呪詛を放ってみる。
「かかっているわね。妙なのが」
『一瞬電気が走ったでチュね』
すると動きがあった。
檻の中に呪詛が入った途端に檻に呪詛が吸われ、直後に少量だが電気が檻に流れたのだ。
「……」
『どうしたでチュか?』
「いえ、かなり嫌な想像をしちゃっただけよ」
その反応で私はこの施設の使い道に思い至ってしまった。
出来れば外れて欲しいのだが……たぶん当たっているだろう。
「まあ……」
私は改めて檻、テレビ、配電盤を見る。
位置関係としては、配電盤の位置からは檻もテレビも見れるが、檻の中から配電盤の位置を見るのは難しい。
代わりに檻の中からテレビを見る事は簡単……と言うより、ほぼ強制的に見させられるだろう。
檻の中で呪いが生じれば、檻に電気が生じ、檻に生じた電気はケーブルを通して鉄塔へ、鉄塔から……何処かへ送られる。
稲妻を走らせる先はもうないのにだ。
そう、走らせる先、なのだ。
「外れてはいないんでしょうね」
『チュ?』
たぶん此処は変電所ではなく発電所だ。
それも呪詛を利用した発電所。
檻の中に人間を入れ、テレビで何かしらの映像を見せ、それによって生じた呪詛を電気に変換、取得する、非人道的な行為が行われていた可能性が極めて高い発電所なのだ。
「こういう場所を見ると、『CNP』の昔の文明が滅びたのは極めて妥当としか言いようがないわよねぇ」
『……。ああ、そういう事でチュか。ざりちゅも理解したでチュ』
確たる証拠はない。
が、サクリベス地下の聖浄区画を作り上げた人間たちは、呪詛をエネルギーに変換する手段を有していた。
その技術の一種と考えれば、何もおかしくはない。
「さてそうなると、此処の支配者の正体と位置も読めて来るわね」
『そうでチュか?』
私は配電ケーブルの状態を改めていく。
鉄塔と繋がっていた部分の大半は、噛み切られる形で破壊されている。
途中部分にも噛まれた跡もある。
だが、金属の粉やケーブルの欠片はない。
風化の呪いでなくなった可能性はあるが、別の可能性も考えておいていいだろう。
「うーん、これかしらね」
さて、ケーブルの中には噛み切られておらず、自然に落ちたか壊れたかしたような物もある。
それらのケーブルの繋がる先は……一か所だ。
「さて、残り時間が何時間短縮されるかしらねぇ……」
『1時間か2時間か……とりあえず縮むのは確実でチュよねぇ』
私たちはまだ生きていたケーブルを再接続し、配電盤を弄ると、鉄塔の傍を飛んで、その頂上へと向かっていく。
残り時間は9時間ない程度で、それに合わせてかマップ自体の広さも少しずつ狭まっているし、崩落も所々で起きている。
この後を考えると、少し急ぎたいところだ。
「此処かしらね」
『厄介なことに見た目には何も居ないように見えるんでチュよねぇ。匂いもないでチュし』
「呪詛を吸われていないし、支配に干渉されている感じもないのよね。面倒なことに」
鉄塔の頂上に着いた。
私は目の前の空中を見る。
ザリチュの言う通り、見た目には何も居ないように見える。
匂いもないし、音だってない。
手を伸ばしても触れることはないし、呪詛支配に伴う感覚にも異常は見られない。
だが、送電ケーブルの位置と想像される相手の性質を考えると、此処でいいはずだ。
「じゃ、始めましょうか」
『チュッ』
私はマップ内の呪詛を操作して、檻の中へと注ぎ込んでいく。
すると檻に電気が生じ、送電ケーブルを通じて私の近くまで流れてきて……
「ーーーーー!!」
目の前の空間に全身が稲妻で構築された呪いの塊が姿を現わし、咆哮を上げる。
「ビンゴ」
そう、こいつが此処、『稲妻走らせる鉄塔の森』のボスであり、大量の呪詛を元にした電気を食らうせいで、ダンジョンの維持を出来なくした大喰らいのカース。
電気切れでさっきまでは不活性状態にあったくせに、その状態でもダンジョンの脱出だけは邪魔してくるとかいう面倒くさいやつ。
「憎い! 妬ましい! 羨ましい! 俺の心から生み出された稲妻で楽しく遊ぶアイツらが……許せないいいぃぃ!!」
頭は複数の禿頭の人間。
胴体はウナギ。
だが大型肉食獣のような手足を十数本持っている。
そして、それらのパーツ全てが稲妻で出来ていて、電気の供給がなければ直ぐにでも実体をなくす。
そんなカースが嫉妬の声を上げつつ、手の一つを振り上げながら私に襲い掛かってきた。