397:サンダーアンドアイアン-1
「此処は……」
周囲の光景が変わっていく。
『理法揺凝の呪海』の宇宙のようにも思える光景から、天を衝くような鉄塔が何本も聳え立つ夜の何処かへと。
どうやら無事に星の中へと入れたようだ。
「っ!?」
『これはヤバいでチュねぇ……』
「そうね……」
だが入れただけだ。
直ぐにここがどれほど危険なのかが分かった。
「ここはもう潰れる寸前よ」
『理法揺凝の呪海』で星々を見ていた時、星々の中には底から上がってくる途中で弾け飛んでしまうものもあった。
だから私は星々を最初は泡だと称していたわけだが……なるほど、泡のように潰れる直前の星の中はこうなっているのか。
「本当に何時潰れてもおかしくない」
まるで世界全体が怨嗟の声を上げているようだった。
全てのもの……鉄塔、地面、空、あらゆる場所から軋む音が聞こえてくる。
生けるものの気配は一切ない。
世界は断末魔の呪いで満たされている。
「おっと」
『チュアッ!?』
私の背後で突如として鉄塔の一つが崩れ落ちた。
崩れ落ちた鉄塔はアスファルトの地面を打ち砕き、打ち砕かれて現れた穴の中へと、鉄塔もアスファルトも消え去っていった。
他の鉄塔たちもミシミシと言う音を上げ始めており、何時砕け、崩れ落ちてもおかしくはないだろう。
「とりあえずは鑑定しましょうか」
『でチュか』
私は『鑑定のルーペ』を目の前の空間に向ける。
△△△△△
稲妻走らせる鉄塔の森
無数の鉄塔がそびえる大地。
稲妻を走らせる先はもうない。
どちらにもなれなかったのだ。
呪詛濃度:13 呪限無-浅層
[座標コード]
▽▽▽▽▽
≪ダンジョン『稲妻走らせる鉄塔の森』を認識しました≫
「ふうん……」
多くの違和感を覚える表記だ。
呪限無にあるのに呪界でも呪海でもなく、地上のダンジョンのようだ。
呪詛濃度は13しかなく、実情として、この世界は維持できず、壊れかけている。
「地上に上がるには世界の強度が足りなかった。この地に留まるには呪いに対する強度が足りなかった。呪界にもなれず、地上のダンジョンにもなれず、想いの海で潰れて終わる世界。と言うところかしらね」
『悲しい話……でチュかね?』
「悲しい話ではあるのでしょうね。けれど、きっと今までの私たちが気づいていなかっただけで、この世界ではこれまでに何万何億と繰り返されてきた事なんでしょうね」
しかし、近くの鉄塔に触れて呪詛干渉した感じでは……呪界並の素材であるようにも感じる。
やはり、どちらにもなれなかったと言うフレーバーテキスト通りなのだろう。
≪注意! このダンジョンは崩壊直前です! 崩壊に巻き込まれた場合、このダンジョン内で得た全てのものはなかったことになります! 残り時間は10:35:47です≫
「まあ、こう言うのは来るわよね」
と、ここで注意アナウンスが入る。
どうやら10時間と少しで『稲妻走らせる鉄塔の森』は無くなってしまうらしい。
それにしても得た全てのものはなかったことになる、か。
失ったものは帰ってこないんだろうなぁ、これ。
気を付けておこう。
気を付けるついでに、まずは退路を……
「む……」
『弾かれたでチュね』
私は呪詛濃度を20に上げて、そこに呪限無に繋がる門を開くための詠唱をする事で撤退の為の門を作ろうとした。
今の私ならば、それぐらいは出来るからと思ったからだ。
だが弾かれた上に、弾かれた手が痺れた。
どうやら一定量と密度以上に呪詛を集めようとすると、電撃で邪魔されるようだ。
≪残り時間が9:35:32に短縮されました≫
「うげっ」
『マジでチュか』
おまけに、内部の呪詛が消費された為か、制限時間が短くなる、と。
こうなると迂闊な真似は出来ないし、脱出のためには……。
「出口を探すか、このダンジョンのボスを倒すしかないわね」
まあ、二択か。
『ボス、居るんでチュかね?』
「何処かには居ると思うわ」
私は周囲を見る。
世界の直径は既に300メートルほど。
今も少しずつ世界は狭くなっている。
私以外に動くものは……見える範囲では見当たらない。
とりあえず雑魚敵については考えなくていいようだ。
「あ、称号の詳細を見ておかないと」
『今ここでやる事でチュか?』
「何処にヒントが隠れているか分からないし、万が一消えても嫌じゃない」
と言うわけで、自分に『鑑定のルーペ』を使う。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル25
HP:1,220/1,240
満腹度:139/150
干渉力:124
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の達人』、『灼熱の名手』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『魅了使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『3rdナイトメアメダル-赤』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』、『呪海渡りの呪人』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『重石の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『不老不死-抑制』、『風化-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』、『化身』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2
▽▽▽▽▽
△△△△△
『呪海渡りの呪人』
効果:『理法揺凝の呪海』に繋がる門の作成難易度低下(中)、呪限無へ侵入する際の選択肢として『理法揺凝の呪海』が選択可能になる。
条件:『理法揺凝の呪海』に生きたまま侵入し、生きたまま脱出する。
汝は観測者であるが、干渉者でもある。
流れに乗って何処までも行くがいい。
果てとは観測者が定めるものである。
▽▽▽▽▽
「んー、やっぱり妨害さえなければ、今の私なら脱出は容易そうね」
『まあ、『理法揺凝の呪海』に限定すれば、何時でも門を作れそうではある感じでチュね』
うん、見ておいてよかった。
やっぱり今の私なら、退路の生成自体は問題なく出来る。
妨害要因を探し出して、排除するのが正解のようだ。
「じゃ、脱出のためにも探索と行きましょうか」
私は呪詛支配領域を広げつつ移動を開始。
何処かに私の呪詛の支配が及ばない場所がないかと探し始めた。
01/18誤字訂正