390:ニューヒートサースト-1
「ログインっと」
『よく来たでチュ。たるうぃ』
さて、自宅に帰って来た私は『CNP』にログインした。
うん、久しぶりに聞いた気がする。
『イベントで獲得したポイントが余っているでチュよ』
「それはDCに変換しちゃうわ。イベントマップにばらまいたDCは、殆ど回収出来なかったし」
『分かったでチュ』
まずはイベント後の処理。
と言うわけで、イベントで獲得したポイント残りをDCに変える事で、『ダマーヴァンド』に貯蔵されているDCの量をイベント前と同じ程度にまで戻す。
次に第五階層を弄って、ポイントで回収した各種機材を設置していく。
素材を消費する事でアップデートをするかと言う表示が出てきたが、ズワム素材を使ってのものは拒否して、ズワム以外のカース素材を使うものは受け入れる。
が、やはり量が量だけに全ての機材のアップデートは出来なかった。
やはりレベル上げを兼ねて、素材を回収してくる必要があるようだ。
「次は呪詛貯蓄ツールの調整ね」
『チュ? 必要なんでチュか?』
「『熱樹渇泥の呪界』の入り口が、攻撃の範囲内に入っているらしいのよ。だから一応ね」
私は新第四階層に移動すると、山頂にある偶像ライムの木へと近づいていく。
偶像ライムの木の近くには山の底に向かっていくかのように深い穴が開いており、呪詛貯蓄ツールから吐き出される炎を防ぎつつ、何人ものプレイヤーが穴の中へと入っていく。
どうやらあそこが『熱樹渇泥の呪界』に繋がるゲートであるらしい。
「おい、あれ……」
「うおっ、タルだ!?」
「一体何をしに……」
さて、プレイヤーたちが警戒感を露わにしつつもざわついているので、とっととやるべき事はやってしまおう。
と言うわけで、呪詛貯蓄ツールの設定を調整。
特定ルートで穴に近づけば、以前の条件外のプレイヤーでも炎を吐き出されないようにしておく。
同時に第四階層自体も少し弄って、その特定ルートを挟むように少しだけ地面を盛り上げておく。
「えーと、これでどうかしら?」
「あ、ルート設定か。これ」
「おー、ありがたいな。焼かれずに済む」
「サンキュータル!」
設定後、しばらくプレイヤーたちの動きを見ていたが、特に問題はなし、と。
何故か特定ルートを外れて、列に割り込もうとしたプレイヤーへの攻撃の威力が上がったが、きっと制限をした影響か何かだろう。
「ちょっとタルさんに質問いいかな」
「何かしら?」
と、ここで一人のプレイヤー……槍を背負った、おっさんっぽい顔のプレイヤーが手を上げて、私に質問をしてくる。
よく見たら私が七日目のラスト近くで河の中に落としたプレイヤーだ。
「俺らとしては『熱樹渇泥の呪界』解放は嬉しい事だけど、タル的にはこんなことしていいのか? と言うか、解放のメリットって何なのかな? こちらが世話になってばかりはよくないと思うんだ」
「ああその事」
これは当然の質問とも言える。
まあ、今後憂いなく活動してもらうためにも、話しておくべきか。
「一つは未知のため。同じ素材でも、私の使い方と他プレイヤーの使い方は別でしょう? 私はそれが見たい」
「なるほど、道理だねぇ」
『ブレないでチュねぇ』
一つ目の理由は言わずもがなである。
質問したプレイヤー以外のプレイヤーたちも納得顔である。
「もう一つはDCの為ね。一般的に知られているかは分からないけど、ダンジョン内でプレイヤーが活動すると、多少ではあるけれど収益があるのよね。まあ、私はDCには困ってないから、副産物に近いけど」
『副産物と言うかおまけでチュよね』
「なるほど。そう言うのもあるんだねぇ」
二つ目の理由は……まあ、ついでに近いものである。
「それと、運営がわざわざ開放するように言ってきたのよ。なら、そこに思わぬメリットの類があるかもしれない。狙ってみるのはありでしょう」
「ほうほう。それは気になるねぇ」
『しかし、酒臭いおっさんでチュね』
三つ目の理由はある意味一つ目の理由と被っている気がするが……まあいいか。
「ま、そんな訳だから、変なプレイヤーが来ない限りは開放し続けるわ。中で得たアイテムの持ち出しにも必要な制限はかけてあるし」
「そう言えば、検証班のストラス君が言っていたね。毒頭尾の蜻蛉呪を狩る事に成功したが、肉を持った状態では外に出れなかったそうだ」
「あ、なんで制限があるかは自分で調べて頂戴ね」
「分かっているとも」
ああ、このプレイヤー、もしかしなくても検証班の人なのか。
あの時、最前線に居た事からして、ストラスさんと同じかそれ以上の実力者なのかもしれない。
「さて、私もそろそろ『熱樹渇泥の呪界』に行きますか」
『でチュねー』
もう質問はなさそうなので、私はゲートに近づく。
そして観察。
このゲートは常時開放型のゲートだが、呪限無の呪詛が外に漏れ出ないようになっているようだ。
ゲート内部の呪詛濃度は20で、急な下り坂のようになっている。
「……。へぇ」
壁や天井は最初は土、次に岩だったが、次第に木製になっていく。
それと同時に次元が切り替わっていく感覚とでも言えばいいのだろうか?
違う位相に移動していくような感覚がある。
時折、『熱樹渇泥の呪界』から引き揚げようとする他のプレイヤーとすれ違うが、この変化に気が付いている様子は見られない。
「到着ね」
『着いたでチュ』
そして下る事約100メートル。
床、壁、天井が完全に木製になったところで、視界が開け、見慣れた……けれど普通のプレイヤーのための足場が用意されたために少し様子が変わった『熱樹渇泥の呪界』の光景が私の前に広がった。