389:現実世界にて-15
「ザリチュが優秀なんてレベルじゃないわね……」
「そうですね。今回のイベントの戦果は8割くらいザリチュのおかげだと言っても過言ではないと思います」
本日は2019年8月12日、月曜日。
要するにイベントが終わった次の日である。
そして、私とザリア……芹亜は夏休み中であるが、大学に来て雑談をしていた。
話題は勿論イベントについてである。
「渇砂操作術それ自体がザリチュの呪術ですし、ゴーレムの制御もほぼザリチュがやっていた。私がやったことと言うと、全体の筋道の立案と視覚情報の処理くらいでしょうか」
「PVを見る限り、超遠距離の邪眼術を使ったりもしていたみたいだけど?」
「やっていましたが、ザリチュの働きに比べたら嫌がらせレベルでしょう」
「……。まあ、否定は出来ないわね」
改めてイベントの内容を思い返してみれば、ぶっちゃけタルと言うよりはザリチュが活躍し続けた七日間だった。
確かに呪詛の星と種を赤の本営から戦場まで放ったのは私の技術であるが、それだってザリチュの渇砂操作術で生み出される眼球ゴーレムが居なければ、実現不可能な行為であるし、ザリチュの活躍と言っても過言ではないだろう。
「うーん、私もゴーレムの一体くらい作ろうかしら? ザリチュほどの性能でなくとも、背後から迫ってくる敵を感知してくれる装置とかあったら、強いと思うのよね」
「ありだと思いますよ。私としては未だにザリチュのようなゴーレムを他のプレイヤーが作っていない事を不思議に思っていますから」
「んー……。掲示板を見る限り、作ろうとはしたけど、上手くいかないって感じみたいね」
「不思議な話ですね。ザリチュの元になった帽子そのものはサービス開始直後くらいに作った覚えがあるのですけど。ザリチュそのものにしたのも、第一回イベント前でしたし」
「確かに不思議な話ね」
割と謎の話である。
『CNP』のシステム的に、作り方が分かっていて、素材的にも問題がなければ、確実に作れると思うのだが。
「ちなみに今のザリチュはカース以外が着用すると体の制御権が奪われるので、私以外が被ると大惨事になります」
「怖っ!? 羽衣はよく被っていられるわね……」
「そこは相棒としてのこれまでの積み重ねがありますから。それにほら、私はカースですし」
「まあ、そうだけど……」
ザリチュの現在の仕様に芹亜が大げさなリアクションをする。
実際、私は私以外の誰かにザリチュを被せる気はないので、問題は起きないだろう。
「それで『熱樹渇泥の呪界』についてはどうですか?」
「『ダマーヴァンド』の新第四階層、偶像ライムっていう果実がある木の近くにゲートがあるのは見つけたわ。ただ、私以外……いえ、羽衣のフレンド以外かしらね。とにかく迂闊に近づくと、木の根元にある卵みたいなオブジェから火が噴き出すせいで、近づくのに苦労しているわね」
「あ、あー……」
「心当たりがあるのね」
「まあ、一応。後で設定を弄って、もう少し入りやすくしておきます」
「助かるわ。まあ、ゲートの近くで吐き出される程度の熱にも耐えられない装備で行っても、碌な事にならない気もするんだけどね」
どうやら『熱樹渇泥の呪界』の入り口は少々厄介な場所に出来てしまったらしい。
芹亜の言う卵みたいなオブジェとは、呪詛貯蓄ツールの事だろう。
私のフレンドではないプレイヤーやモンスター、カースには反応するようになっていたはずだ。
「そうそう『熱樹渇泥の呪界』で思い出したんだけど、ブラクロ、私の方で一度シメておく? イベントで手に入れたポイントについて尋ねるのは本人たち同士で了承すれば構わない事だと思っているけど、だまし討ちの類は駄目でしょ」
「ああ、あの件ですか。別に明かしたところで困るものではないので、気にしなくても大丈夫ですよ。ただまあ、やるなら『ダマーヴァンド』内でお願いします。DC的にそっちの方が美味しいので」
「分かったわ。一度やっておく」
ポイント関係でのブラクロの話はどうでもいいとしてだ。
「それでザリアは何と交換を? 私が異常なだけで、ザリアの稼いだポイントは結構な額だと思うんですけど」
「汎用かつ変な呪いが入っていない、ちょっとした素材を幾つか手に入れたぐらいね。殆どはDCにしたわ」
「勿体ない」
「勿体ないと言われても、羽衣のように生産関係一通り揃えたって、普通は使わないわよ……」
ザリアがポイントで何を交換したのかは気になる。
気になったから聞いてみたのだが、そんなに珍しい物にしようとは思わなかったようだ。
「そう言えばポイントでの交換品でスーパーコンピュータがあったって聞いたんだけど。ゲーム内でスーパーコンピュータって何に使うの?」
「さあ? ただ、処理については運営側がゲームの計算に使っている機器の計算機能を極一部だけ取得者に開放するとか、そんな感じじゃないでしょうか?」
「処理についてはまあそうなんでしょうね。でも何に……と言うか、ポストアポカリプス系とは言え、よくゲーム内で出したわね」
「案外、スーパーコンピュータを取得した上で、色々と弄れば、何かあるのかもしれませんね」
「例えば?」
「呪限無のさらに深いところに潜れるようになるとか」
「レベル30である私にはまだまだ遠い話ね」
「あ、私はイベントでレベルが上がって、ようやくレベル25ですよ。おかげでズワム素材の加工がまだ出来ていないんですよね」
「!?」
何故か、芹亜が今日一番のリアクションをした。
いやまあ、驚かれてもこれが事実である。
とりあえず原始呪術の使用を控えて、レベル上げに勤しまなければ。
そんなことを考えつつ、情報交換も含んだランチタイム中の雑談は進んでいったのだった。
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