386:3rdナイトメアアフター-1
「ふぅ、際どい所だったが、何とか終わったか」
「どうにか凌ぎきれたようだな」
「つ、疲れました……」
「……」
「チュー……」
「みんなごめん。押し込み切れなかったー」
マントデアたちが赤陣営の待機部屋に現れる。
どうやら閉会式が終わるまでは、この部屋が使われるようだ。
「クカタチ、謝るべきは私よ。私が落ちたせいで、クカタチにも他の皆にも迷惑をかけてしまったのだから。ごめんなさい。不甲斐ない姿を見せてしまって」
私は立ち上がると、スクナたちに向かって頭を下げる。
『楽しんだかああぁぁ! 化け物共おおおぉぉ!!』
「迷惑ねぇ。ぶっちゃけ俺としてはタルもクカタチもよくやったと思うんだが。むしろ不甲斐ないと言ったらなぁ……」
「まあ、俺なんて初日に一デスだしなぁ。しかも最後の最後で2デス目だし」
「タル。ハッキリ言わせてもらうが、タルの工作がなければ、七日目は一日目よりもさらに短い時間で倒されて、赤陣営全滅もあり得ただろう。レライエ以外の男三人組が謝るのはともかく、それ以外のメンバーは全員よくやったと俺は思うぞ」
「とは言えね……」
「うんうん……」
「……。ここらへんで切り上げるべきだ。この手の話に結論など出ない」
「そうですね。そもそも赤陣営なのに三陣営全体での引き分けにまで持ち込めている時点で、大勝利だと思います」
『ま、切り上げておくでチュよ。たるうぃ』
うーん、まあ、これ以上頭を下げ続けるのはただの自己満足でしかないか。
そう判断して、私は頭を上げる。
『はい。と言う訳で運営の万捻です。さて、今回のイベントはどうだったでしょうか』
「それよりも問題はイベントの成果で何を交換するかだな」
「おっ、もう交換できるようになってるじゃん」
「より取り見取りって感じですよね。今回」
テレビでは閉会式の様子が流れている。
が、どうやら私含めて、興味があるメンバーは居ないようで、手元にポイント交換用の半透明の画面を出現させてうんうん唸っている。
なお、ポイント交換の期限は一週間後までであるが……まあ、欲しいものをガンガン貰っていけば、直ぐにポイントは尽きるだろう。
と言うわけで、私も予定通りに交換をしてしまう。
「そう言えばタルさん。タルさんってどれぐらいのポイントを稼いだんですか?」
「どれぐらいって言われてもねぇ……」
と、ここでクカタチが質問をしてくる。
表情からして、どうやら純粋に気になったらしい。
らしいが、具体的な数字を上げるのはちょっとアレな気がするので、どうにか誤魔化したいのだが……。
「俺はこんなところだな」
おっと、嬉しい事にブラクロが数字を出してくれたか。
ふむふむ……うーん、ブラクロがこの数字なら案外稼げていないのかもしれない。
「私はブラクロの100倍ね」
「100!?」
「ほう」
「……。これがフィクサーの力か……」
「え、ええ……」
「流石はタルさんですね」
「ほうほう100倍ねぇ」
『あ、やられたでチュね。これは』
ん? 何か反応が妙な気が……。
「すまないな。タル。今見せた数字は俺のじゃなくて、ザリアの数字だ。ちなみに俺はザリアの3分の1くらいしか稼げてない」
「……。見事に嵌められたわね……まあ、明かしたところで別に困る数字じゃないんだけど」
そうかー、ザリアのポイントの100倍かー。
ちなみにザリアのポイントはほぼ間違いなく白陣営トップクラスのポイントである。
「これは実入りがいいのか悪いのか悩ましいところだな」
「まあ、あれだけやって100倍、とも言えるからなぁ」
「でも、お姉ちゃんの100倍もポイントがあれば、ほぼ何でも交換できますよね」
「でも、もう8割方使ったわよ」
「「「!?」」」
全員の顔が再び私の方へ向けられる。
「え、あの……何に使ったんです?」
「一言で言ってしまえば色々ね。具体的に言うなら、鍛冶用アイテム一式とか、木工用アイテム一式、調合用アイテム一式とかの生産用アイテム群ね」
「生産用アイテムってそんなに高かったか?」
「いや、見た限りではそんなに高い感じではないが……」
「普通のはそうだけど、精密な天秤、オートクレーブ、恒温槽、遠心分離機、エバポレーター、3Dプリンター、条件付き無限液体窒素、業務用冷凍庫、その他諸々、呪いにも対応したこれらの品を買い集めて行ったら、あっという間に消し飛んでいったわよ。しかも特に高額な奴については初めから買えなかったし」
「「「……」」」
「ああなるほど。大学の実験室並みの設備を整えようと思ったのか……それなら確かにザリアの100倍のポイントがあっても足りないか。と言うか、そういう超高額商品まで用意してあったんだな。流石は此処の運営……」
とりあえずこれで基本的な製造設備は一通り揃ったので、後はカース素材によるアップデートさえ行っておけば、今後は大抵のものが自作出来るようになるだろう。
なお、私が買えなかった品とは、要するに電子顕微鏡とか、超大型望遠鏡とか、大学にあってもおかしくないレベルのスーパーコンピューターとか、そういうものである。
なんで用意してあるんだと言いたいが、逆に言えば、ゲーム内で作ろうと思えば作れると言う事でもあるのかもしれない。
『では、各陣営に記念の称号を授与させていただきまーす!』
≪称号『3rdナイトメアメダル-赤』を獲得しました≫
「ふむ、この場に居る七人しか持っていない称号か」
「これはレア称号ね」
と、いつの間にか閉会式がだいぶ進んでいる。
とりあえず称号を確認しておこう。
△△△△△
『3rdナイトメアメダル-赤』
効果:効果なし
条件:第三回公式イベント『呪われた戦場の悪夢』赤の陣営所属。
赤の陣営として戦い抜いたものに与えられる称号。
『見事な戦場の掻き乱し方であった。その実力をここで称えたいと思う』
▽▽▽▽▽
「ふむふむ」
まあ、この辺はいつも通りか。
で、後はアイテム交換……あ。
『では続けて、アイテム交換の方も一挙にやってしまおうと思います。あ、今は目録だけで、実体化はメンテナンス終了後になりますので、ご了承ください』
「お、来たな」
「結構これ楽しみですよね」
「思わぬ出会いがありますからね」
『これは……やらかしたでチュね。たるうぃ』
ああうん、アイテム交換の方にアイテムを出すのをすっかり忘れていた。
いやでもまあ、今の私が出すとなったらほぼカース素材であり、取り扱い注意の物品ばかりになるから、出さなくて正解だったかもしれないが。
『さて、これにてイベントは終了ですが、メンテナンスが明けるまで、もうしばらく時間があります。ですので、それまでは交流マップ及び掲示板をお楽しみください。どうかこれからも『CNP』をよろしくお願いします』
とにもかくにもこれにてイベントは終了である。
掲示板にズワム専用掲示板と『熱樹渇泥の呪界』についての掲示板も出来たのが確認できたし、余ったポイントの処理は次のログイン後でいい、今日はもうログアウトして休む事にしよう。
流石に七日間ぶっ続けは疲れた。
もう寝よう、そうしよう。