381:3rdナイトメア7thデイT-10
本日一話目です
「アハハハハッ!」
私の笑い声が中央砦の中に響き渡る。
それと同時に、私の周囲で適宜作成されて漂っている呪詛の剣が近くに居るプレイヤーの体を切り裂き、『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『暗闇の邪眼・2』が強化された状態で撃ち込まれていく。
ネツミテが振り回されて、プレイヤーの頭を防具の上から叩いて、昏倒させる。
『風化-活性』によって砦そのものの風化が進んで脆くなり、時々撃ち込む『出血の邪眼・1』による爆発で、砦そのものが壊れていく。
『呪圏・薬壊れ毒と化す』によってプレイヤーたちの所有するアイテムが破壊されて、追い詰められていく。
クカタチが縦横無尽に暴れ回っている事もあり、中央砦の戦いの流れは確実に赤陣営側に寄ってきている。
「おらぁっ!」
「ぶっ飛べ!」
「おぐふっ!?」
「まだまだぁ!」
「硬すぎんだろうがよぉ!」
だが白陣営もただやられるわけではない。
私に向かって槍を振るい、剣を投げ、呪術を飛ばし、攻撃を行うものがいる。
盾を構えて私の邪眼を受け止めるも、倒れるのをこらえる事で他のプレイヤーへの視線を遮るものが居る。
高速移動を可能とする異形を利用する事で、私が対処対象として見ていなかった位置から奇襲を仕掛けて来るプレイヤーも居る。
中にはFFによるポイントへのマイナス補正上等と言わんばかりに、範囲攻撃によって仲間ごと焼き払おうとしてきたプレイヤーも居た。
攻撃の密度はズワム戦、最終版の密度3倍光球と同等かそれ以上。
その為、私も全ての攻撃を避け切る事は叶わず、幾つかの攻撃は受ける事になっている。
「殴り込みをかけるなら、相応の準備があって当然でしょう?」
「剣を素手で受け止めんな! このカース!」
「人間辞めんじゃねえよ!!」
「どういうペースのリジェネしてんじゃお前はぁ!!」
「あははははっ! 雑兵の悲鳴が気持ちいいわぁ!!」
だが問題はない。
私の装備には垂れ肉華シダの繊維由来の周囲の呪詛濃度に応じて強度が向上する効果と、その効果が私の体そのものにも及ぶ効果がある。
これのおかげで、最前線組のしっかりと腰が入った攻撃ならばともかく、遠距離からただ投げられた剣ぐらいならば、直撃してもダメージは微々たるもので済んでいる。
そして、僅かなダメージならば、『不老不死-活性』の効果によって問題なく回復が出来る。
周囲のプレイヤーからは非難するような視線が殺到しているが、これぐらいは知れば経験値獲得と引き換えに全員出来る事だから安心していただきたい。
「さあ、そろそろ行くわよ! ezeerf『灼熱の邪眼・2』!」
「やばっ……」
「逃げろ! 範囲攻撃だ!!」
「クソッタレがぁ!」
「死なば諸共ぉ!!」
よし、前回使用から12分。
私は『呪法・感染蔓』と『呪法・増幅剣』を乗せた『灼熱の邪眼・2』を、近くに居たプレイヤーの胸に呪詛の剣と種を突き刺した状態で発動。
種に込める共通イメージは人間の心臓。
起点となったプレイヤーから紅色の蔓が伸びて、周囲に居るプレイヤーの心臓を焼いていく。
『不老不死』の呪いがあるプレイヤーなので、この程度では即死してくれないが、確定でクリティカルとなれば、そのダメージは無視できない。
「コケエエェェコオォォ!!」
「っ!? 黒陣営!」
「やってやるのです!!」
と、ここで黒陣営のプレイヤー……オンドリアと熊ですが砦の中へと突っ込んでくる。
オンドリアのラリアットを屈んで回避したところへ、熊ですの振り下ろしが来たので、横に跳んで避ける。
感染蔓は……オンドリアは耐えた後に突っ込んできて、熊ですは元々心臓がなかった感じか。
黒陣営はちょくちょく割り込んできては、漁夫の利を狙ってきたり、こっちが動けなくして放置してた白陣営にトドメを刺しやがったり、『魅了の邪眼・1』の条件達成を妨害されたりと厄介なのだが、この二人はちょっとまずいか。
出来れば外に行って、白陣営と潰し合っていて欲しいのだが、うん、無理か。
「無視してんじゃねぇ!」
「うおりゃあぁっ!」
白陣営のプレイヤーが攻撃を仕掛けてくる。
私はそれを跳んで、飛んで、蹴り飛ばして、避けられる攻撃は普通に避けて、避けられない攻撃はそうなる前に潰してで凌いでいく。
「我が鳩胸の輝きを見るがいい!! コッケコッコオオォォ!!」
「あはっ」
「「「お前はニワトリだろうがああぁぁ!」」」
オンドリアの胸が輝いたと思ったら、口から風か音のブレスのようなものが吐き出され、何人ものプレイヤーが吹き飛んで、中央砦の崩壊が一気に進む。
此処までの六日間であんな攻撃は一度も使っていなかった。
ふふふ、あんな隠し玉を持っていたとは驚きであるし、ああいうのが見れると、やはり笑みが浮かんでしまう。
直撃は御免だったので、オンドリアの胸が輝いた時点で壁の陰に隠れさせてもらったが。
「熊まぁ! グマァ!」
「おっと、『淀縛の邪眼・1』」
「おらぁ!」
そうして攻撃を回避した私を見逃すプレイヤーたちではない。
熊ですが背中の口からも手を出し、三本の手による乱舞を放ってくるのを『淀縛の邪眼・1』とネツミテの柄でいなしていると、白陣営のプレイヤーが槍を突き出してくる。
それを跳んで避けつつ熊ですの相手を押し付けたと思ったら、全身金属肌の恐らくは『エギアズ』のプレイヤーが仕掛けてきたので、毒縛のボーラを投げつけて抑える。
「グルアアァッ!」
「せいっ!」
「コケッコオオォォ!」
そうしていると今度はカーキファングが噛みつきを狙ってきたので、巴投げの要領でお帰りいただくが、この一動作の間にオンドリアが跳び上がってアームハンマーを仕掛けてくる。
が、これは翅を動かす事で跳ね飛んで、避ける事に成功、適当な瓦礫に着地。
近くに倒れているプレイヤーも居るが、身動きは取れないようなので無視。
「あはははっ! 楽しいわ! 予想はしていたけど予想以上に楽しいわ!!」
「確かに! 愉快よなぁ!! ぬおらぁ!」
「ザリア隊長! 早く来てくれー! 狂人がああぁぁ!」
正に乱戦! それも私が見た事の無いものが何十と使われている乱戦だ! これが楽しくないなどありえるだろうか? いやない!
私に賛同するような声を上げるのが、周囲にはオンドリアしか居ないのは残念であるが、それ以上にこの日この場まで温存されていたそれぞれの切り札が次々に切られていく光景は素晴らしいとしか言いようがない。
「さあ! もっと上げて……」
私は上がったテンションのままに次の相手に襲い掛かろうとした。
だがそこで私は見た。
動けなくなっていると思っていたプレイヤーの体が跳ね上がるのを、その手にいつの間にか呪詛を纏った細剣が握られているのを。
「咲き誇りなさい!」
細剣が私の体を通り過ぎる。
傷はない。
だが、細剣に宿っていた呪詛が私の体に染み込んで来ている。
「ザリッ……!?」
そう、倒れていたのはザリアだった。
だが装備品はおろか、化粧によってか顔の印象もまるで違う。
この奇襲の為に変装した状態でリスポーンして、備えていたのだ。
「アッ……!?」
私はザリアの攻撃を阻止するべく『気絶の邪眼・1』を撃ち込もうとした。
だが、それよりも早く右手は茨の鞭で弾かれ、左手は強風によって指を合わせるどころではなくなっていた。
前者はライトローズさん、後者はストラスさんかカゼノマの呪術によるものであるのは間違いないが、どのプレイヤーの姿も私はこの砦内に認識していなかった。
つまり、全員が変装して、いつの間にか潜んでいたのだ。
私を倒す為だけに。
「ブラッディフラワリング!」
何度も私の体をザリアの細剣がすり抜けた後に、トドメの突きが私の体に突き刺さる。
私の体に付与された出血の状態異常が発動して、大量の血が噴き出すと共に、内側から引き裂かれていく。
体が十を超えるパーツに分けられていく。
「……」
だが、だがしかしだ。
私には『遍在する内臓』がある。
HPもまだ尽きていない。
ならばここから復活する事は『死退灰帰』の効果を発揮するまでもなく可能である。
そこまで考えた時だった。
私の目の一つとザリアの目が合う。
バレている。
私がそう直感したタイミングで、ザリアが両手で持った細剣を天高く掲げる。
「結実せよ! ブラッディフルーツ!」
「!?」
ザリアの細剣が振り下ろされた瞬間。
周囲に飛び散った私の血が全て気化、同時に生じた強烈な熱によって、ザリアの体ごと私の体が焼き払われていく。
私の火炎耐性はかなりのものではあるが、それでも防ぎきれず、HPは減っていき……0となった。
「はぁはぁ。これならラストアクションがあろうが……『虹瞳の不老不死呪』タル! 討ち取ったわ!」
そう、0となったのだ。
周囲の呪詛濃度が低下していく。
「さあ、後は黒陣営の掃討を……」
「待て! 何かおかしいぞ!」
「アナウンスが……流れない?」
低下して、21で止まる。
「まさ……っ!?」
まずはラストアクション発動。
千切れた私の手がザリアの頭に伸びて、掴む。
もう一方の手が袋の中から熱黒煙手榴弾を幾つも取り出して、周囲が高熱の黒煙で包まれる。
続けて『死退灰帰』発動。
熱黒煙手榴弾、ザリアの呪術、ザリア自身の体温と言った、周囲に存在する熱を取り込み、『不老不死-活性』の効果も合わせる事で、反撃を行わせる暇もなく体を再生、HPは『死退灰帰』の効果による最大値の20%を超過して、全回復まで持っていく。
「素晴らしい未知だったわぁ……」
「「「!?」」」
その上でザリアの心臓目掛けて呪詛の種を飛ばし、私に出来る最高の動きで『風化-活性』を練り込んだ呪詛の剣を動かして、『灼熱の邪眼・2』を発動。
自傷ダメージを負っていたザリアを葬りつつ、周囲のプレイヤーたちを紅色の蔓によって焼いていく。
「さあ、第二ラウンドよ」
「「「……」」」
そうして、周囲のプレイヤーに相応のダメージを与えて、ある程度の隙を作ったところで、体を勢いよく回転させる事で風を生み、すっかり冷えてしまった熱黒煙手榴弾の煙を吹き飛ばし……宣言してやる。
まだ終わっていないと。
もっと楽しませろと。
私に出来る最高の笑顔でもって。
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