377:3rdナイトメア7thデイT-6
本日三話目です
「あー、素晴らしいとしか言いようがないわねぇ」
カタパルトはカタパルトでも、人間カタパルトとは。
しかもそこで利用している呪いには射程延長だけではなく、私の目を誤魔化すための物や、着地の衝撃を緩和するための物も混じっているに違いない。
未知だ。
これは正しく未知だ。
私はこういうのを待っていたのだ!
「せいっ!」
「あはっ」
着地の衝撃で舞った砂ぼこりの向こうからザリアが細剣を突き出してくる。
私はそれをネツミテの持ち手でガードしつつ後退して、距離を取る。
その上で状況を確認。
「木製じゃないの、そのフレイルは……!」
「カース製よ。堅いわよ」
まずザリア。
腰には以前にも見た人形のような物が下がっているので、邪眼術を撃ち込んでも数秒間は無効化されてしまうだろう。
武器は予備の物であり、ネツミテの持ち手を傷つけられるほどではない。
他にも手はあるだろうし……倒すには短くても数分はかかるか。
「『灼熱の邪眼・2』」
「っ!?」
やっぱり持っていた。
私の詠唱キー始動と同時に、ザリアの手元から木製の壁のような物が生じて、私の視線を遮る。
使い捨ての壁生成アイテムと言うところか。
だがザリアに私が向けた目は一つだけ、他の12の目はザリアに続いてこの砦に飛来しつつある、カタパルトの砲弾複数個に向いている。
そして燃やしたわけだが……読まれているか。
どれも中身はプレイヤー以外だったようで、燃えたまま砦に着弾、砦を破壊すると共に、燃やしていく。
『うおぉい! タル! 砦が酷いことになっているんだが!?』
『あちゃぁ、これは見事にやられたでチュねぇ』
「分かってるわ。ザリチュ、プランCの説明をしておいて」
「ふんっ!」
ザリアが自分で生成した壁を私に向かって蹴り飛ばす。
そしてザリアは私がどの方向に逃げてもいいように、壁の後ろで剣を構えている。
「ほいっと」
「受けてたまるものですか!」
ではこうしよう。
私は後退しながら毛皮袋から取り出した毒縛のボーラを投擲。
毒縛のボーラはザリアの作った壁を粉砕して、そのまま真っ直ぐに飛んでいくが……弾かれた。
打撃部を正確に叩いて軌道を逸らし、逸れた分を生かして、避けて見せた。
『分かった。プランCに従って動き始める』
『ざりちゅも動き始めるでチュよ』
「それにしてもザリアは単独なのね。味方はどうしたの?」
「その味方を連れて来たら、魅了して自分の手駒にするでしょう? タルなんだし」
うーん、それは読まれているのか。
時間制限があるとはいえ、カタパルトで突っ込んでくるようなメンバーを魅了出来れば、だいぶ楽になるのだが。
「『暗闇の邪眼・2』」
「……」
再びの壁生成。
ただこちらもザリアに向けるのは目一つで、他は砦周囲のプレイヤーにばらまく。
「タル。随分と余裕ね。私以外のプレイヤーを妨害する事を優先するなんて」
「余裕なんてないわよ。数の差は歴然だもの」
壁の向こうからザリアが話しかけてくる。
ただし、呪術の準備を消費アイテム込みでやっているのが見えている。
「よ……っ!?」
「『淀縛の邪眼・1』よ」
そう、見えていると言う事は、邪眼術で狙えると言う事だ。
眼球ゴーレムはザリアの背後に5体ほど居た。
それを使う事で与えた状態異常は干渉力低下(95)。
動作キーでの発動である事もあって、ザリアは一切反応できなかった。
「体が動かな……」
「じゃ、私は退かせてもらうわ」
「っう!?」
そしてこの場でザリアを倒さない。
重症化はしていない、だが身動きは碌に取れない、そういうレベルの状態異常に罹っているのが今のザリアだからだ。
「よし逃げ……」
これで後はプランC通りに川上の砦に逃げて、態勢を立て直すのみ。
そう判断した私が城壁の上から飛び立とうとした瞬間だった。
「ふんっ!」
「!?」
『たるうぃ!?』
何もない場所から私の足首に茨の鞭が伸びて絡みつき、城壁の下に引きずり降ろされ、さらに顔へと剣が迫ってくる。
いや、何もなかったのはついさっきまでだ。
そこに居たのは髪の毛の代わりに光り輝くバラを咲かせているプレイヤー、『光華団』団長のライトローズさんだ。
「くっ……姿を消す呪術、アイテム、と言うところかしら?」
「ええ、その通り。高価な上にかなりのデメリット付きですが。まさか、足一本で凌がれるとはね」
咄嗟に体を回転させ、鞭で絡め取られた方の足を斬らせる事には成功した。
しかしまさか、周囲の呪詛濃度の異常含めて、姿を消せる何かとは。
ライトローズさんの本気で悔しそうな顔からして、『光華団』のとっておきと言うところだろうか。
うん、未知なるものが見られて、思わず笑みを浮かべてしまう。
「この場で仕留めさせてもらうわ!」
ライトローズさんが私を拘束するべく鞭を振り上げようとする。
「お断りよ」
「なっんっ!?」
が、切り離された私の足が地面を全力で蹴って飛んでいき、ライトローズさんの顎を蹴り上げて、その行動を強制中断させる。
「『出血の邪眼・1』」
「!?」
その上で13の目による『出血の邪眼・1』を『呪法・破壊星』込みで撃ち込む。
与えた状態異常は出血(650)。
そこに顎を蹴り上げた私の足が落下してきて、踵落としを決めて起爆。
ライトローズさんは全身から血を吹き出し、その場で倒れ、爆散はしなかったが、死に戻りする。
「まったく、私でなければ大惨事だったわね」
『全くでチュね』
私は踵落としの反動で飛んできた足を、断面を合わせ、『不老不死-活性』を使用する事で接着すると、その場から離脱し始める。
うん、意外と状況は不味い。
カタパルトの砲弾は私が手を加えなくなってからも飛んできていて、砦を破壊していっている。
『遍在する内臓』のメリットもこれでバレた。
残り時間はまだまだある。
さて、どこまで未知を引き出せるだろうか?
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