376:3rdナイトメア7thデイT-5
本日二話目です
「さて、敵の配置もいい感じね。では……」
私は砦の城壁の上に移動すると、右腕の上に眼球ゴーレム8体、左腕の上に眼球ゴーレム8体、頭の上に眼球ゴーレムを1体乗せて、両腕を広げた上でつま先立ちのようなポーズを取る。
その上で右手に呪詛の星を、左手に人間を対象としてイメージした呪詛の種を生み出し、両者を重ね合わせた上で射出する。
「eruc、laeh、yfixoted、etoditna」
狙うのは見るからに装備が貧弱で、呪詛濃度過多によって現在進行形で苦しんでいるプレイヤー。
囮として来たのだろうから、望み通りに狙い撃ちにするのだ。
「『毒の邪眼・2』」
呪詛の星と種が対象プレイヤーの体に重なった瞬間に、私の13の目と、体に乗っている眼球ゴーレム17体、合計30の目から深緑色の光が発せられて、毒が与えられる。
結果は毒(3,738)。
もはや重症化と言うレベルですらないが、重要なのはここからだ。
『どうし……』
『蔓だああぁ!?』
『ゲボアッ!?』
普通のプレイヤーなら30人程度が即死するような毒を受けたプレイヤーの体から、深緑色の蔓が周囲のプレイヤーに向かって伸びていく。
そして、蔓に触れたプレイヤーもスタック値が3,000を超えるような毒を受けて、倒れていき、倒れたプレイヤーからは次の獲物を求めるように再び深緑色の蔓が伸びる。
『逃げ……』
『早過ぎっ……!?』
『距離を取れ! タルの範囲攻撃だ!!』
攻撃に気づいたプレイヤーたちは直ぐに蔓から離れるように逃げ出そうとする。
だが、今回の蔓は1秒で30メートル伸びるのだ。
場合によっては呪詛の霧によって見えない場所から伸びて来る蔓など、避けようと思って避けられるものではない。
それでも、攻撃を受ける前に声を上げる事で、自分から先へと被害が及ばないように努力をする。
その努力は実るだろう。
私たちが何もしなければ。
「ザリチュ!」
『分かってるでチュよ!!』
『なっ!?』
『腕!?』
私は眼球ゴーレムだった砂を振り払いつつ、ザリチュにプランBの本格化を命じる。
そしてザリチュは私の声に応じて、この戦場に仕込んだ腕ゴーレムを動かして、適当なプレイヤーの脚を掴む。
そうして脚を掴まれたプレイヤーは蔓から逃げられず、感染し、そのプレイヤーから伸びた蔓が他の逃げようとしたプレイヤーを襲っていく。
だがこれは一番大人しいパターンだ。
『人が飛んで……なっ!?』
『そんなんありかぁ!?』
『フライングゥ!?』
ザリチュの操る腕ゴーレムがプレイヤーの脚を掴んで投げ飛ばし、次の獲物に届くか怪しい蔓に空中で衝突させて中継させる。
あるいは感染直後のプレイヤーを投げ飛ばして、未感染プレイヤーの集団のど真ん中へと投げ込む。
そうする事で、30本全ての蔓が最後まで効果を発揮できるようにしていく。
「さてこれで……」
とは言え、『呪法・感染蔓』の効果は徐々に落ちて行き、ある程度から先は最初の1%しか効果が発揮されなくなる。
そうなると与える状態異常は毒(37)前後。
『呪圏・薬壊れて毒と化す』、『風化-活性』、呪詛濃度過多のコンボと合わせてギリギリ倒せるかどうか。
さてどの程度削れるか……。
「あ、駄目ね。これは」
『毒ならこれで治る!』
『あっちいが死ぬよりはマシだ!』
などと思っていたら、一部のプレイヤーが何かしらの副作用を持った毒回復薬を使う事で、毒状態を治した上で突っ込んでくる。
今回感染したプレイヤーたちは90分間『呪法・感染蔓』の対象に出来ないし、これはプランB-サブの起動が必要そうだ。
「マントデア、しくじったわ。出来るだけ数は削るから、適宜対処して」
『分かった』
『ざりちゅも頑張るでチュよ』
と言うわけでプランB-サブを開始。
展開している呪詛の霧をかき混ぜる事によって方向感覚を乱す。
同時にザリチュが腕ゴーレムを動かす事で、時には転ばせ、時には進む方向を少しだけ変えさせ、方向感覚をさらに狂わせていく。
だがそれでも一部のプレイヤーは砦に近づいてくる。
「『暗闇の邪眼・2』」
『ぐおっ!?』
『なんだこれ!?』
『目が、目が見えねぇ!?』
だから、『暗闇の邪眼・2』をバラまいて、視覚を奪っていく。
倒す事は……プレイヤー一人につき目一つなので、よほど弱っているプレイヤーでないと厳しいか。
『よし、砦が見えたぞ!』
『このまま攻め込め!』
そして、私の妨害もむなしく、砦に到達したプレイヤーが出て来る。
とは言え、彼らが砦の中にまで入ってくることはない。
と言うのもだ。
『行く……』
『ウェルカムスティックだ。遠慮なく受け取ってほしい』
『ぎゃああぁっ!?』
『マントデアアアァァッ!?』
『普段より生き生きしてんだけどぉ!?』
たかが数人のプレイヤーなど、マントデアが武器の棒を一振るいすれば、それだけで吹き飛ぶのだから。
『よし、誰も……』
『チュラッハァ!』
『黒タルだあぁ!?』
『ザリチュだ! 間違えんな!!』
『お前、妖精スレの住人だったの……あびゃあっ!?』
マントデアとはぶつからない方向から接近できても、そちらにはザリチュの化身ゴーレムが居る。
こちらも不意を突かれた数人のプレイヤーでどうにか出来るような相手ではない。
『川の方からなら……!?』
『は?』
『どこから矢が……』
『まさかレラ……いべっ!?』
なお、中央砦に近い側だと、レライエによる狙撃が飛んでくる。
私が見ている限りでは、今のところ全弾命中である。
死に戻りした後のプレイヤーたちを見る限り、アレも使っているようだ。
「さて、死に戻りからの即突撃を繰り返されるのが一番厄介なのだけど……いくつか気になる点があるわね」
プランBは上手く回らなかったが、何とか戦線は五分に持っていけているか。
だが厄介なことに、今突撃している面々に光華団の面々とザリアたちの姿が見当たらないし、白の本営の中で何かをやっている感じがある。
ネズミゴーレムも眼球ゴーレムもだいぶ数が削られて、私の情報収集能力に支障が出てきているため、白の本営の中で何をやっているかは分からない。
潜り込ませたいが……徹底的に水浸しにされているので、厳しいか。
「これは……カタパルト?」
そうして対処をしていると、白の本営から何かしらの球体が飛んできて、砦近くの地面に着弾した。
どうやら何かしらの呪いによって射程を大幅に伸ばしたカタパルトのようだ。
今の状況で処理能力を割かれるのは少々痛いが、これならば『重石の邪眼・2』を撃ち込めば問題はない。
そして、射程が延長された以外は古典的で既知なカタパルトを受けてやる義理もない。
「来たわね。『重石の邪眼・2』」
白の本営からカタパルトによって球形の物体が放たれた。
私はその物体に対して呪詛の槍を放ち、『重石の邪眼・2』を放った。
「え?」
『重石の邪眼・2』は放たれた物体に命中。
だが、その後の現象に私の口からは思わず声が漏れた。
「ははっ、なるほどね」
軌道が変わって落ちたのは球形の物体の半分だけ。
「行くわよ! タル!!」
「来なさい! ザリア!!」
もう半分、そして中身であるザリアはそのままの軌道で飛び続け、砦に着弾した。
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