373:3rdナイトメア7thデイT-2
本日一話目です
「せいっ!」
「おっとでチュ」
ザリアの攻撃をザリチュが盾で弾く。
だが弾かれ方が良かったようで、ザリアはすぐに再度攻撃。
ザリチュはそれを落ち着いて捌いていく。
そんなザリアの背後にはオンガ、オクトヘード、カゼノマ、ロックオ、シロホワと言ったいつもの面々に加えて、呪詛濃度20の領域でもちゃんと戦えるように備えたプレイヤーたちの姿が見えており、直ぐに私への攻撃を開始するだろう。
「うんうん、これなら楽しめそうね。だからこそ……」
「っ!?」
ザリチュがザリアの攻撃を弾いて大きな隙が生じたタイミングで、私はザリアに接近。
「esipsed『魅了の邪眼・1』」
「なっ!?」
「ハート!?」
呪詛の剣をザリアの胸に突き立てて『呪法・増幅剣』の効果を満たし、『呪法・方違詠唱』も乗せて、13の目で『魅了の邪眼・1』を撃ち込む。
桃色のハートが飛び散ると言うエフェクトについては置いておくとして、ザリアに与えた状態異常は魅了(畏怖)(185)。
おおよそ30分ほど効果が持続するスタック値である。
「まさ……」
「全員逃げなさい!」
「ぎゃああっ!?」
ザリアが声を上げると同時に、体の向きが180度回って、丁度真後ろに居た白陣営のプレイヤーを切り殺す。
そして、その事に逡巡することなく、ザリアの体は次の獲物を求めて味方である白陣営に切りかかる。
「魅了ならぶん殴れば止まるだろうよ!」
「お願い!」
「……」
とは言え、そこはザリアたちと言うべきか、魅了対策の鉄板である衝撃によって正気を取り戻す手段を取るべく、ザリアの攻撃をロックオが止めた上で、オンガがザリアの頭目掛けて拳を突き出し、いい音を鳴らしつつザリアは仰け反る。
「なっ!?」
「マジかよ……」
「……!」
「私を恐れるが故に魅入られた。そんな精神状態の人間が殴られた程度で戻るわけないじゃない」
が、ザリアの体は正気に戻ることなく、仰け反った事を利用するように体を動かして、治ったと誤認して、油断したオンガとロックオを切り殺す。
「気を付けろ! ただの魅了ではなく上位状態異常だ!!」
「殴って治らない魅了とかマジかよ!!」
「一度倒して! 自然回復を待つには効果時間が長すぎる!!」
まあ、通用するのは一度だけか。
直ぐに別の盾役が出てきて、ザリアを倒す事で止める方向で動き出す。
こうなればザリアが倒されるまでにそう長い時間は……
「私の体の動きのキレが良すぎる!?」
「待て!? 魅了時操作のAIレベルってどうなってんだ!?」
「まさかこれ魅了の重症化に伴う仕様か!?」
いや、案外保ちそうだ。
どういう理屈かは分からないが、ザリチュの化身ゴーレム並みに良い動きをしていて、攻めかかってくる白陣営をいい感じに捌いている。
なお、ザリチュの化身ゴーレムは逆方向から迫ろうとしていた白陣営相手に無双中である。
「くそっ、こんなものどうすれば……」
「倒すのが無理なら逃げて! とにかく時間を……」
おっとそろそろか。
私は南の方向に向けて手を伸ばし、呪詛の槍を超高速で飛ばす。
各地に配置した眼球ゴーレムの視界をリレーする事で正確さとスピードを併せ持った呪詛の槍は、此処から真南の位置にある砦から放たれた、巨大な光輝く呪術の塊に衝突。
「thgil『重石の邪眼・2』」
そのタイミングで私は詠唱キーを発し、一部の眼球ゴーレムの目が灰色の光を発して、呪術の塊に光を届けた。
直後、この砦にまで放物線軌道を描いて飛んでくるはずだった呪術の塊はその軌道を大きく捻じ曲げる。
具体的に言えば、私たちが居る北東の砦と呪術が放たれた東の砦の間に落ちた。
「「「!?」」」
そしてそこで大規模な爆発を起こし、東の砦から北東の砦へと救援へ向かおうとしていた白陣営のプレイヤーを焼き払った。
「ザリアたちによって私をこの場に足止めし、対レイドボス用に開発した、複数人で行使する大型呪術によって仕留める。いい作戦ね。今回のイベント中にザリアが普段よりも猪突猛進気味になる事で、その手の大規模攻撃がないから個人技でどうにかするしかないと注意を反らしていたことも含めて」
「くっ……非常識も大概にしなさいよ! タル!」
「嘘だろ……おい……」
「呪いを撃ち落とすとか……」
おっと、黒陣営からも同様の攻撃が飛んできている。
と言うわけで、そちらにも呪詛の槍を飛ばして、同様に落としておくとしよう。
動作キーで『重石の邪眼・2』を発動して、叩き落しておく。
眼球ゴーレムそのものの消費も、満腹度の消費も激しいし、実はぶっつけ本番だったのだが、そう言うのは表情に出さないように気を付ける。
その上で、悔しそうにしているザリア、それと呆然としている白陣営の面々に向かって堂々とした顔で言う。
「非常識? それならこう言いましょう。見えているならば落とせる。それの何処がおかしい!」
「「「……!?」」」
なお、私がやったのは、『呪法・貫通槍』の強制付与によって『重石の邪眼・2』の効果を、本来は重量が0である呪術の塊に与えて、その軌道を捻じ曲げると言う行為である。
まあ、重量0だった物体が10キログラム程度増えた上に、2Gの環境に置かれたら、そりゃあ軌道も捻じ曲がると言うものである。
落ちた先でFF扱いにならなかったのは、私の行動によるものと判断された為だろうし。
「と言うわけで貴方も私を恐れなさい。esipsed『魅了の邪眼・1』」
「あっ……ぎゃあああっ!? 体が勝手にいぃ!?」
「ごぶっ!?」
「げほぁ!?」
はい、そうこうしている間に私自身のCTが明けたので、これまでの六日間で割と動きが良かった方と言う覚えがあるプレイヤーを魅了して、同士討ちしてもらう。
「モグモグ。さあ、かかってきなさい。私は未知が欲しくて仕方がないんだから。それとも白陣営は腰抜けのチキンばかりなのかしらぁ?」
私は毛皮袋から斑豆を食べつつ、白陣営を大声で挑発。
魅了された二人が切り開いた階段を下りて、私とザリチュは砦の中へと入っていく。
ザリチュのゴーレム対策で床が水浸しだが、眼球ゴーレムやネズミゴーレムならばともかく、化身ゴーレムならば乾燥能力が高いので、これぐらいなら大丈夫だろう。
「ならば望み通りにしてくれる!」
そして、砦の中に入った私に向かって、呪詛支配が及ばない領域からドージと数名のプレイヤーが通路の角から飛び出してきて……
「ボルトハンマー!!」
「っ!?」
砦の外から城壁を破壊するように放たれたマントデアの呪術によって消し飛んだ。
「まったく、俺が間に合わなかったらどうするんだ?」
「間に合うと知っていたから問題はないわね。あ、esipsed『魅了の邪眼・1』」
「でチュね。ざりちゅのゴーレムを貼り付けてあったとは言え、タイミングバッチリだったでチュ」
そして私たちは魅了されたプレイヤーによる惨劇が広がっていく砦の中心部に向かって移動を始めた。
倒されたプレイヤーが復活するまで24分。
それまでに戦況を五分五分にはしておかないと、詰むのはこっちなのだから、余裕の無さを悟られないようにしつつ急がなければ。