371:3rdナイトメア7thデイ-1
ザリア視点です
年末年始と言う事で、本日よりしばらくの間、複数話更新をさせていただきます。
こちらは一話目です。
『諸君、私は未知が大好きだ』
「っ!?」
「なっ!?」
「なんだ今の声は!?」
七日目、ベッドで寝ていた私は耳元から聞こえてきたタルそっくりの声に跳ね起きた。
だがそこに居たのはタルではなく、砂で出来たネズミ型ゴーレムだった。
『見た事がないものが好きだ。聞いた事がないものが好きだ。嗅いだ事がないものが好きだ。触れた事がないものが好きだ。味わった事がないものが好きだ。感じた事が無いものが好きだ』
「潰して……」
「待って、待つのよ。これは……宣戦布告よ」
直ぐに私たちの部屋にはプレイヤーが集まってきて、タルのゴーレムを叩き潰そうとする。
だが、砦中から同じような声が聞こえてきている事からして、此処で一匹潰しても無駄だろう。
それよりはきちんと声を聞いて、少しでも情報を得た方がいい。
だから私は他のプレイヤーを手で制して、止めた。
『知らない土地へ行くのが好きだ。知らない敵と戦うのが好きだ。知らない素材を手にするのが好きだ。知らない呪術と呪法を知るのが好きだ。知らない称号を得るのが好きだ。知らない道具を作り出すのが好きだ。知らない理に触れるのが好きだ』
「何処の少佐よ……」
『ビル街で、沼地で、森林で、草原で、地下で、砂漠で、火山で、雪山で、海で、呪限無で、この世界のあらゆる場所に潜んでいる未知に触れる事が大好きだ』
声の主がタルである事は間違いない。
いや、正確にはネズミゴーレムが話している内容の元を作ったのがタルである事は間違いない。
『さて、白と黒陣営の諸君。諸君らはこの六日間よく戦った。あらゆる場所で、あらゆる手段を用いて、切り結び、刺し合い、拳を交わし、呪い合っていた。戦場に出ないものもまた己の領分にて戦いを続けていた。その姿を一部ではあるが私はずっと見させてもらっていた。だから称賛しよう! 賛美しよう! その誇りある諸君らの姿に!』
「……」
『本当に素晴らしい! 予期せぬ赤陣営との戦いに全力を以って当たり、後の戦いの橋頭保を築いた一日目! 互いの実力を探り合いつつも戦線が前後し続けた二日目! 山が燃え上がるほどに激しい戦いをした三日目! 赤の洞窟に勇気をもって踏み込み散った四日目! 飢えに苦しみつつもなお明日を見据えた動きをした五日目! 草を食む事になっても生き続ける事を選んだ六日目! いずれも未知に満ちた素晴らしき姿だった! その場に一緒に居られない事に私は悲しみを覚えるほどだった!!』
「誰のせいだよ……」
「どの口が……」
「雑草汁食わせんぞテメェ……」
本当に全部見ていたらしい。
称賛の気持ちは本物なのだろうが……完全に煽りである。
『ああ分かっている。分かっているとも。白の諸君も黒の諸君もきっとこう思っている事だろう。どの口がそれを言っている。誰のせいだと思っている。お前がやったことだろうが、と。いや、倒したい、潰したい、殺したい、這いつくばらせたいとも思っている事だろう』
「「「……」」」
『正しい。それは実に正しい。そう、おおよそは私がやったことだ。私は赤陣営の諸君に呪われた武具を供与した。私はこの地の全てに私の手先と目を配した。天を呪いで満たし、食料に毒を混ぜて火を焚き、壁向こうの会話に疑惑を与え、山を崩し、地に毒を混ぜる事もした。そうだいたいは私の仕業だ』
「「「……」」」
『だがまだ足りない。まだ私は語る事も許されぬほどの存在に出会った時のような絶頂は感じていない。諸君らの示した未知は未知ではあれど、既存の知より知れる範囲でしかない未知であり、私が満足するほどではない』
「「「……」」」
『故に私は求めよう。諸君らが魔性を狩る時に用いる技を見せる事を。呪いを狩る時に示す力を。諸君らの知る全てを、諸君らも知らぬ全てを、文字通りの全力を見せる事を私は求める。私たち赤陣営9名は求める』
「9!?」
「は? 赤陣営は7人じゃ……」
「え? あ?」
9名!? いやまて、タルの事だから、ザリチュを頭数に数えているのかもしれない。
いや、そうだとしても一人足りないが、まさか黒陣営が人数を偽っていて、検証班も把握していないような実力者が隠れていた?
うっ、情報が足りない。
嘘である可能性も考慮しないといけないし……。
『何、心配はしなくてもいい。実のところ、諸君らがやることに変わりはない。ただただ全力で……抗え。迫る赤に呑まれまいと抗え。それで私は楽しめる。なぜならば私は未知を知る事も大好きではあるが、私だけが知る何かを知らない誰かに見せつけ、驚き慌てふためく姿もまた大好きだからだ。そう、例えば、今、各地のゴーレムの目を介して伝わってくる諸君らの姿など、実にそそる』
「っ!?」
「この……」
私を含め、全員の頭に血が上る。
挑発であると理解していてもなお、怒りを覚えずにはいられない。
『よろしい。それでは最終日を始めよう。まずは号砲だ! エゼールフ! エゼールフ! エカフルスカラエゼールフ! エシ ドロク ウォンス リィアッ レイカルグノゴトク!』
「なんだこれは!?」
「なっ!? 詠唱!?」
「ヤバいぞ!!」
『エフィル イム エヴァス タルウィスコド!』
その瞬間、幾つもの出来事が起きた。
まず、東西の遠くの方、恐らくは本営の方から爆発音と思しきものが轟いた。
空を覆っていた呪詛の霧が地表にまで降りて来て、周囲が霧に包まれた。
西の方、橋の上にある砦の辺りから、霧越しでも分かるような赤い閃光が何十回と輝いた。
≪白の本営を赤の陣営が獲得しました。赤の陣営が拠点内に居ません。10分以内に赤陣営のプレイヤーが拠点内に居なければ、拠点は無所属になります≫
≪黒の本営を赤の陣営が獲得しました。赤の陣営が拠点内に居ません。10分以内に赤陣営のプレイヤーが拠点内に居なければ、拠点は無所属になります≫
『さあ、抗え! 不老不死の呪いを持つ呪人たちよ!!』
≪サプラアアァァイズ!! 赤陣営、『虹瞳の不老不死呪』タル、『渇鼠の帽子呪』ザリチュが地上に姿を現わしました。カースですがプレイヤーであるため、倒す以外に消える事はありません≫
「完全にレイドボス扱いじゃないのよおおおぉぉ!!」
そして、私は思わず絶叫しつつ、目の前のネズミゴーレムを細剣で突いて倒した。
12/31誤字訂正




