369:3rdナイトメア6thデイT-2
タル視点です
「じゃあとりあえずは私の情報、呪詛薬についてからね」
「最初でいいんですか?」
「工程の一部に、話すとペナルティが飛んでくる部分があって、全部を話せないのよ。だからちょうどいいわ」
と言うわけで、情報交換開始。
まずは私が呪詛薬について……特別な『ダマーヴァンド』の毒液や、『熱樹渇泥の呪界』に生息するカースの素材を基に作り上げたことを話す。
とは言え、この辺は既に効果内容やフレーバーテキストから全員察している事だろう。
だから重要なのはこの先。
「重要な事としては、カース素材の中には食べる事で異形度を上げる可能性がある素材がある事かしらね。たぶんだけど、殆どのカースにはそういう部位があって、それを利用する事によって特別に強力な呪詛薬と命名されるようなアイテムを作れるんじゃないかしら」
食べると恒常的に異形度を上げる可能性があるアイテムが存在する事だ。
この情報の有無によって、今後の呪限無探索における準備の内容はだいぶ変わると思う。
「食べると異形度を上げるアイテムか……」
「そう言うのもあるんだな……」
「あ、私は気を付けないとヤバいかも」
「クカタチは呪術の習得で食べる可能性があるからな」
「……。なるほど」
「今後、増えそうですね。この手の危険なドロップアイテムは」
「あ、一応言っておくけど、取り扱いには細心の注意を払いなさいよ。カース化に伴うキャラロストの可能性はもう示したけど、カース化以前の異形度をただ上げるだけでもキャラロストに繋がる可能性は十分にあるんだから」
とりあえずこれで呪詛薬……と言うよりはその素材であるカース素材についての話は出来たか。
まあ、知らずに食べるなどして呪いを受け、痛い目を見ると言うのも、それはそれで美味しい気がするけれど。
「ちなみにイベント終了後に『熱樹渇泥の呪界』が普通のプレイヤーも行けるように手を加えた上で部分開放されるから、行く気があれば行ってもいいと思うわよ。あ、入り口は『ダマーヴァンド』の第四階層の何処かね」
「「「!?」」」
あ、呪詛薬の話をした時よりも驚いている。
どうやら、こちらは想定外だったらしい。
じゃあ、これ以上は話さないでおこう。
初見の楽しみは奪うべきじゃない。
「……。最後にとんでもない情報が出たせいで、同じレベルの情報を出せるか不安になって来た……」
「運営が公式に言うのでなければ、気づくのに数日はかかりそうな情報が……」
「スクナさん。イベント後の予定は変更で」
「そうだな」
では私の話はここまで。
と言うわけで、私はレライエに目配せをする。
そしてレライエは頷く。
「では次は自分だな。タルが察したとおり、この灼熱の魔眼持ちのネズミは『ダマーヴァンド』でテイムした」
「それだけじゃないわよね」
「そうだな。まず前提として普通のテイムモンスターは死んでしまえばそれまでだ。現状では復活させる方法はない。だがこいつはこいつが特別だったのか、使った契約書が特別だったのか、自分の不老不死の一部を得て、復活できるようになっている」
「チュー」
復活できるテイムモンスター。
その価値については計り知れないと言っていいだろう。
現状ではゴーレムにしろ、アンデッドにしろ、テイムモンスターにしろ、死んだり破壊されたらそれまでなのだから。
「呪術については?」
「そちらについては自分は関与していない。テイムした時点で覚えていた。タルが何かをしたんじゃないのか?」
「私は何もしてないわよ。他人に邪眼術を覚えさせる方法は知っているけど、それは一度も利用したことがないわ」
「つまり天然ものだったわけか……」
おまけにレライエのテイムしたネズミは、何かしらの手段か、あるいは元から持っていたかで、呪術が使える希少個体、と。
うん、色々と奇跡的な確率で事が進んだのかもしれない。
「チューチュー」
「ふむふむ。たるうぃ、このネズミがたるうぃに邪眼術を教えて欲しいと言っているでチュが?」
「却下。レライエに手伝ってもらって、自分の体や戦術に合わせたものを習得しなさい。私が習得用のアイテムを作成すると、生死の境を彷徨えたならまだマシなんて代物になるわ」
「チュー……」
「それは嫌なので、諦めるそうでチュ」
私は大切にするようにと言う意思を込めつつ、再びレライエに目配せ。
対するレライエは言われるまでもないと言わんばかりに、深くうなずく。
まあ、これなら大丈夫だろう。
「じゃあ次は俺な。釣り合えるかどうか怪しい気がするが」
「その次は私で!」
「俺もその次だな。ここ三人はまとめた方がいいだろう」
さて、ブラクロ、クカタチ、マントデアの情報は第二マップについてだ。
内容は……まあ、詳細は割愛しておく。
だが、この場に見合うだけの情報はちゃんと出てきた。
現在の最前線が何処にあるかや、それぞれのマップの裏側に何があるかと言う情報だ。
これらの情報はそれぞれのマップでカースと戦う時に役立てる事も出来るだろうし、世界観の考察や、新たな呪術や呪法に繋がる可能性もある。
ちゃんと有用な情報である。
「私からはダンジョン周りの情報ですね」
アイムさんからはダンジョン関係の小ネタを中心に、検証班らしい細かい情報が色々と提出された。
知らなくてもなんとかなるが、知っておくと便利と言う程度のネタでも、数が集まればこの場に相応しい情報となるだろう。
それにしても聖女様と言うかサクリベスNPCの友好度が低い上に危険な行いをしているダンジョンは潰されるのは知っていたが、いつの間にか結構な数が潰されていたらしい。
どうにも、一部のプレイヤーが潰されるのを承知でやっているようだが……何が目的なのだろうか?
「最後は俺だが……サクリベス及びその周囲の社会に属さない人間のNPCたちを発見している。少々訳アリと言うか厄介な話になりそうな雰囲気だったがな」
「え!? いつの間に!?」
「へぇ……」
最後はスクナの話。
その内容は……確かに厄介な物だった。
何せスクナが発見した人間と言うのは、食料などに問題がなければキャラバンや遊牧民の類として扱えるが、それらに問題が生じたりすれば、あるいはサクリベスと言う安定した地に目を付ければ、簡単に野盗の類に成り下がる事が容易に想像できる集団だったからだ。
その集団の存在は、今回のイベントが何故開かれたのかを暗に語っているかのようでもあった。