368:3rdナイトメア6thデイT-1
タル視点です
「パンがなければケーキを食べればいいじゃないか。と言う奴だな」
「マリー・アントワネットだったか」
「懐かしいセリフだな」
「あれ、実際には言ってないらしいわよ」
「最近の研究だとマリー・アントワネットはそういう事を言う性格ではなかったらしいですね」
「……。後世のプロパガンダか。次の政権を考えると納得は行くな」
「革命でチュからねぇ。前政権の王妃を悪く言うのは当然でチュね」
イベント六日目である。
六日目であるが、拠点には何故かまだ復活待ちであるアイムさん以外の赤陣営プレイヤーが揃っていた。
そして、私が作った微弱な毒が入ったケーキを前に、談笑をする事になっている。
「で、どうしてブラクロ以外も来ているの? 七日目の午前中に復活と言う話だったじゃない」
私は小さめのショートケーキを食べつつ話をする。
なお、ザリアたちと言うか、白と黒の陣営は雑草を煮て食べては、毒に当たって苦しんだり、食中毒になってゲロったりしている。
両陣営の有志による洞窟掘りは……まあ、頑張れ、地獄にしか繋がっていないが。
「暇を持て余した」
マントデアは特製のホールケーキを、これまた特製のフォークで少しずつ食べながら、どこか遠い目でそう言う。
まあ、一日目で落ちて、今日まで待機部屋に居たらそういう感想にもなるか。
「タルさんの視界を借りて色々なところを見てましたけど、今日の動きはつまらなかったんですよ」
クカタチは香辛料をたっぷり使った真っ赤なケーキを嬉しそうに食べつつも、不満そうな声を上げる。
私的には慣れない事をして七転八倒しているザリアたちは見応えがあるのだが、クカタチ的にはつまらないらしい。
「流石に体が鈍ってきてな。最終日に備えて準備運動をしたかった」
スクナは甘さ控えめのビターチョコレートのケーキを食べつつ、使っていない腕をゆっくりと回す。
これはまあ、納得。
「……」
「チュー」
レライエは黙秘。
ナッツ入りの堅めのケーキも食べているのはレライエではなく、懐に居たネズミだ。
「ま、丁度いいんじゃね? タルも居た方が最終打ち合わせとかしやすいだろうし」
ブラクロはそう言うとチーズケーキを手づかみで美味そうに食べつつ、私の方へと目を向けてくる。
なお、アイムさん用にはロールケーキを用意してある。
そして、赤陣営は時間経過による満腹度消費がないので、今私達が食べているのはほぼ完全なる嗜好品である。
うん、食糧問題で苦しんで、未知なる食に挑まなければいけなくなっている他プレイヤーたちを眺めつつ食べるケーキは普段よりも甘くて美味しい。
ザリアたちが食べているものと同じものがこの場に並んでいれば、なお良しだったかもしれないが。
「最終打ち合わせねぇ……具体的には?」
「何処から攻めるとか? 誰が守るとか? イベントで勝ちを取りに行くなら、何処の砦を誰が担当するかぐらいは決めておいた方がいいだろ」
「まあ、それはそうね。とりあえず砦の奪取については目標は砦5つの確保ね。陣営勝利をするなら、これが最低ラインよ」
「だろうな」
私たちは話を進めていく。
と言っても決める事などそんなに多くはないのだが。
なにせ、この場に居るのは赤陣営。
一人で何十、何百と言うプレイヤーを相手に出来るものたちであり、全員がそれなり以上に戦い方を理解しているのだから。
そんなわけで、決める事は早々に決まり、補充も砦の中にある資材であっさりと行われた。
「タルさん。相手に動きはないんですか?」
「無いわね。まあ、あの洞窟を掘り返して進もうとする時点で当然なのだけど」
「と言うと?」
「あの洞窟、倒される前にアイムさんが罠を仕掛けていた上に、私とザリチュも色々と仕込んでいるのよ。具体的に言えば……」
クカタチの質問に私は答える。
その答えを聞いた面々はクカタチ以外も「そりゃあ無理だ」と言う感じの顔になっている。
まあ、当然だろう。
まず洞窟全体にアイムさんが持ち込んだ呪術的な罠……敵対者の接近に応じて呪術を放つ塔などがあって、洞窟が崩落した今もしっかり機能している。
崩落した入り口付近には毒炎の望遠鏡が仕掛けられており、洞窟の入り口を掘り返せば望遠鏡に日光が射し込み、起爆する事になる。
洞窟を進めば……詳細は省くが、ザリチュが仕掛けたとある凶悪な罠と言うか待ち伏せがある。
これを正面から真面目に打ち破ろうとすれば、それだけで数日がかりになるだろう。
侵入できる可能性があるとすれば、七日目に私たちが使う予定で作っている裏口からだが、現状では発見された様子はないので、考える必要はないだろう。
「うーん、折角だしイベント後も見据えて、情報交換でもしておく? 私、レライエのテイムしたネズミとか気になっているのよねぇ……その子、『ダマーヴァンド』のネズミでしょう?」
と言うわけで話題変更。
私はレライエに、正確にはケーキを食べ終わってレライエの懐に戻ったネズミに目を向ける。
なお、私は三つ目のケーキに手を出し始めている。
「……。こっちでも聞かれることになるのか」
「話したくないなら話さなくてもいいわよ?」
「情報“交換”なのだろう。それならば、全員がこれはという情報を持ち出すのなら、応じなくもない」
「あ、それなら私は呪詛薬についてタルさんに聞きたいです! 代わりに南の進行状況を話します」
「お、いいなそれ。となると俺は砂漠の件についてか」
「この流れなら俺は北の雪山について話すべきか? まあ、話すこと自体はあるか」
「俺とクカタチの話す情報が被るな……いや、あの件があったか」
「わ、私も混ぜてください! と言うか何で検証班が居ない時に限ってこういう話題になるんですかぁ! あ、ロールケーキありがとうございます。こちらはお返しになるか分かりませんけど、検証班で作ったブランデーです。情報も勿論出せますよ」
「おっ、I'mBoxも復活でチュか。うーん、誰か聖女アムルの弱点とか知らないでチュか? ザリチュも情報持ちでチュよ」
「チューチュー」
「うん、皆情報はありそうだし、それぞれ答えていきましょうか」
うん、これはいいブランデー。
私は未成年なので飲めないが、香りづけには使えるだろう。
そして、突発の情報交換が始まった。