362:3rdナイトメア5thデイT-1
タル視点です
「こうでチュか?」
「うーん、もう少し手の位置を調整して。そうそうこんな感じ」
イベント五日目。
自作の洞窟を無事崩落させ、元からあった出入り口も塞ぎ、大規模な土木工事をしなければ侵入できなくなった赤陣営の拠点。
その拠点にあるベッドの上で、私とザリチュ操る化身ゴーレムは天井に貼り付けた眼球ゴーレムに向けてポージングをしていた。
「はい、ポーズ」
「チュッチュー」
「何をやっているんだよお前ら……」
「え? サービスシーン? どうせ此処の運営の事だから、各陣営で映像のピックアップとかダイジェストとか、そういう事をすると思っているのよね。だから撮れ高をあげようかなと」
「抱き枕とかで使われそうな感じのポーズでチュねぇ。あ、商業利用するならたるうぃとざりちゅに払うものを払うでチュよ」
「私はともかく、ザリチュに報酬ってどうやって払うのかしら……」
と言うわけで撮影完了。
眼球ゴーレムの視界を録画するぐらいの事は運営ならしているだろう。
なお、本日五日目は再び裏方に徹して、白陣営と黒陣営の極限状態での戦いを楽しませてもらいつつ、最終日に向けての準備をするだけと言う、私的にはあまり動きがない日になる予定である。
「で、ブラクロは何で此処に? 拠点と外部を繋ぐ通路なら崩落していて通れないわよ」
と言うわけで、裏で色々とやりつつ、何故か赤陣営の拠点に復活する事を選んだブラクロの話を聞くことにする。
「俺はメッセンジャーだな。と言うわけで、タル以外の赤陣営の総意として、俺以外のメンバーの復活は七日目の午前中に、此処で復活する。復活後は全力で攻撃を仕掛けて行き、勝利をもぎ取るつもりだ」
「なるほど。まあ、私も最終日は攻撃を仕掛ける予定だし、その時には外に出られるようにするから、それで問題ないわ」
最終日に全員で攻撃に出る。
うん、これだけでも最終日を楽しめる事が決定した気がする。
まあ、その為には今日明日は洞窟を掘り返されないようにしないといけないわけだが……眼球ゴーレムを介して外を見る限りでは、大丈夫そうだ。
昨日と違って、北の山にはほとんどプレイヤーが来ておらず、来ているプレイヤーも私を倒す為ではなく、敵陣営に抜けるための道として使っているようだ。
「で、イベントとは関係ないんだが、ちょっとタルに聞きたいことがあってな」
「聞きたいこと?」
ブラクロの話はまだあるらしい。
おっ、黒陣営が中央の砦を一つ取り返した。
ザリアたちは……敵陣深くで派手に戦っているようだ。
うん、こちらが気になるので、ブラクロの話は話半分で聞くとしよう。
「前提から話す。イベント終了後。俺たち、『光華団』、『エギアズ』は西の砂漠で蠍型の巨大カースを討伐する予定だ。敵のサイズと周囲の環境から考えて、戦場は狭くても巨大カースが居るダンジョン全域。場合によってはW2マップ全域が戦場になると思っている」
「ふむふむ」
ブラクロたちによるカース討伐。
次の土曜日にやるとか、何処かの掲示板で書かれてた気がする。
「で、確認なんだが。タル、お前は戦闘に参加するつもりはあるか?」
「んー、参加できるならしたいわね。ただ、私は通常マップについては四方の試練を終わらせただけだし、プレイ時間が合うとも限らない。参加できないならそれはそれで諦めるわね」
「なるほど。まあ、日時についてはザリア経由で後で伝えておくから、それで判断してくれ」
「分かったわ」
出来ればライブで見たいし、戦闘にも参加したい。
が、カロエ・シマイルナムンとミミチチソーギ・ズワムの件から考えて、超大型ボスならば討伐後に掲示板が出て来るだろうから、それを見るだけになっても悪くはないだろう。
「それで此処からが聞きたいことなんだが、今回のイベントに参加しているプレイヤーたちが巨大カースに挑んだとして、勝つことは出来ると思うか?」
「……」
ブラクロの質問に私は体を起こし、目を戦場全体へと向けて、最新の情報を確認。
同時に頭の中でこれまでのプレイヤーたちの戦いぶりを思い出す。
その上で二体のカースとの戦闘を思い出し、想像をしていく。
結論は?
「欠けている情報が多すぎて不正確な予測になるわよ。相手の情報に至ってはほぼ無いも同然だし」
「別に構わないぞ」
まず予測は不正確な物になる。
肝心な情報が一切ないのだから。
その上で言うならばだ。
「ザリアたち、『光華団』、『エギアズ』、検証班、それにこの4グループが直接見知って、参加しても大丈夫だろうと判断したプレイヤーたち。と言う集団なら、苦戦するし、壊滅もしかけるでしょうけど、でも勝機はあると思うわ」
「なるほど」
まあ、勝ち目がないわけではない。
たぶん、何とかはなる。
だがしかしだ。
「でも、有象無象を呼び込んで、烏合の衆で挑んだら、あっという間に討伐失敗になるでしょうね」
それは最低限以下のプレイヤーが混ざらなければと言う話だ。
「根拠は?」
「昨日の私たちに挑んできたプレイヤーの実力。あまりにもカースと言うものを甘く見ている気がするわ」
「呪詛濃度20への対策すらなかったでチュからねぇ」
「なるほどなぁ……となると、あの書き込みは失敗だったか……」
カロエ・シマイルナムンの件から考えて、超大型ボスでの敗北条件は一瞬でもプレイヤーが一人も居なくなるか、プレイヤーの死亡回数が一定回数以上になる事だろう。
そういう戦いに最低限以下のプレイヤーが居ると、後者の条件を満たす可能性が一気に高くなる。
そして、此処で言う最低限とは、呪詛濃度20の環境で戦える事である。
地上に出てこれるカースなら、私のように周囲へ高濃度の呪詛を纏うことぐらいは出来て当然なのだから。
「ちなみにだけど、理想を言わせてもらうなら、呪詛濃度25ぐらいまでは対処できるようにしておくべきだと思うわよ。私だって呪詛濃度24の霧までは出せるわけだし」
「……。イベントが終わったら改めて討伐メンバーで確認しておく。なんか嫌な予感がしてきた」
「まあ、イベント終了と同時に公開される情報もあるはずだし、土曜日に挑むかどうかはそれが明らかになってから議論するべきだと思うわ」
「分かった」
具体的に言えばズワムの情報が公開され、『熱樹渇泥の呪界』が部分開放される。
議論をするのは、これの存在が明らかになってからでいいと思う。
「じゃ、俺は向こうで素振りでもしてるわ。復活待ちの間に色々と見させてもらったしな」
「分かったわ」
そうしてブラクロは拠点の中庭へと向かっていった。
では、私も小細工と観戦に専念するとしよう。
いやー、時間経過だけでは満腹度が減らないから、見ることに専念できるのが素晴らしいわ。