36:ゴーヘッド-2
「アハハハハッ!!」
「「「チュウッ!?」」」
逃げ遅れた子毒ネズミがフレイルの打撃部に潰されて床のシミになり、後にはドロップ品と思しき尻尾だけが残される。
「いいわっ! 実にいい!」
「「「チャアアァァッ!?」」」
床に当たったフレイルの勢いを生かすように、私は身体を横倒しにしつつ跳んで回転。
宙に居る私の周囲を一回転したフレイルの打撃部は、床を舐めるように飛んでいき、ドロップ品の尻尾を齧ろうとした子毒ネズミたちを薙ぎ払い、彼らもドロップ品に変えていく。
「一気に吹き飛ばすこの快感! 実にいいものね!」
「「「チュゲエエェェ!?」」」
もう一度床を蹴って今度は宙で逆立ちの状態になり、フレイルの打撃部を床を舐めるように振り回し続ける。
ただそれだけで、子毒ネズミが吹き飛んでいく。
「で、やっぱり貴方たち、命令以外の事は出来ないみたいね」
「「「チュッ……チュチュ……」」」
どちらが優勢なのかは既に定まっている。
しかし子毒ネズミたちに逃げる様子は見られず、垂れ肉華シダの蔓に掴まって宙に居続けている私の事を遠巻きに睨み付けている。
そして、隙があればドロップ品である尻尾に齧りつこうとしている。
どうやら、最低限の回避行動は別として、とにかく齧って食べれる物があれば、それに齧りついて食べる以外の行動を子毒ネズミたちは許されていないらしい。
ある意味哀れでもある。
「ま、それなら殲滅するだけだけど。『毒の魔眼・1+』」
「「「チャアアァァッ!?」」」
私は何度もフレイルを叩きつけ、邪眼を放つ。
その度に子毒ネズミは吹き飛び、あるいは毒に侵されて倒れていく。
HPが減って来れば、垂れ肉華シダの蔓に掴まって休憩。
それから再び攻撃を仕掛けていく。
今の状況で私が一番に警戒するのは援軍の類なのだが、それが来る様子も見られない。
なので、私は時間をかけて子毒ネズミを殲滅した。
「はい、お終いっと」
「ヂュアッ……」
で、殲滅が終わったところで毒殺した子毒ネズミの死体を五つ、子毒ネズミの尻尾を10本ほど回収。
死体の一つはこの場で早速解体して、鑑定をしていく。
すると子毒ネズミの身体の大部分は価値がなさそうな物だったが、呪いなしで倒した際のドロップ品でもある尻尾は少し違うようだった。
△△△△△
子毒ネズミの尻尾
レベル:1
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:1
子毒ネズミの尻尾。
これからの成長に必要な栄養分と毒を蓄えていると言われているが、真偽は分からない。
▽▽▽▽▽
「ふうん……」
まあ、ネズミの尻尾と言えば、怪しげな儀式や魔法における重要な素材と言うイメージが無くもない。
ならば、何かしらの力を含んでいてもおかしくは無いのだろう。
「とりあえず食べてみますか」
私は尻尾の一本を食べてみる。
すると毒噛みネズミの肉よりはマシな味と共に、毒(10)と表示された。
どうやら栄養分と毒が蓄えられているのは本当であるらしい。
「んー……何十本か集めて、まとめて呪えば『毒の魔眼・1+』の強化に繋がるかしら」
積極的に集める価値があるかは怪しい。
が、機会があれば回収はしておいてもいいだろう。
私はそう判断すると、移動を再開した。
「む、呪詛濃度が上がった」
『チュッ?』
暫く歩いていると、呪詛濃度が上がった感じがあった。
一応『鑑定のルーペ』でも確認してみて、呪詛濃度が12になっているのも確認した。
同時に複数のネズミの鳴き声も捉える。
「さて、この先は……ネズミの繁殖場所と言う感じかしらねぇ……」
私はいつものようにして曲がり角の向こうを確認する。
するとそこには大量の垂れ肉華シダがぶら下がっていると共に、無数のネズミたちが屯し、鳴いている広間が見えた。
子毒ネズミの数は1,000匹以上、毒噛みと毒吐きと思しきネズミだけでも50は確実に居る。
うん、流石にこれを私の手持ちで相手するのは無理だ。
「他の通路は……呪詛濃度が下がってる。つまり、呪いの中心に行きつくためには、あの群れをどうにかしろと」
よく見れば、広場の向こう側には更に奥へと続く通路が見えている。
『ネズミの塔』の第三階層もだいぶ奥まで進んだことであるし、そろそろ終わりが見えてくる頃合いでないかとも思うから、あの先にボスが居ると思いたいところではある。
「……」
私は垂れ肉華シダの密集具合を見る。
それとこの辺りにある垂れ肉華シダと違いが無いことも確かめる。
「バレれば集中砲火だけど、正面から挑むよりは可能性がありそうね」
私は何本かの垂れ肉華シダを落とすと、葉が付いたままの蔓を体に巻き付けていき、私の体を出来るだけシダのような葉で隠していく。
そうして十分に隠せたところで呪詛濃度12の通路の天井付近にまで飛んでいき、ネズミたちの様子を伺いつつゆっくりと移動を始める。
「「「チュウチュウチュウ……」」」
「……」
本当に恐ろしい数のネズミである。
私の眼下はネズミたちで埋め尽くされており、時折100匹ちょっとの集団が護衛を連れて、通路から外へと出て行く。
恐らくは第三階層の何処かで垂れ肉華シダの花が咲いたのだろう。
「天井が高いのはいい事なのか悪い事なのか……」
「「「チュウチュウチュウ……」」」
広間の天井は通路よりも2メートルほど高かったので、私も天井に合わせて移動する。
ネズミたちに気付かれた様子はない。
どうやらネズミたちはそれほど上を警戒していないようだ。
「ん? へー……そう言う増え方をするの」
天井を移動している私の視界に不思議な物が映る。
それは黒い光と共に数十匹の子毒ネズミが生じる光景だった。
流石に繁殖や出産回りを全年齢対象のゲームで描けなかったのか、あるいはこのネズミたちが根本的には呪いから生み出されたものである事を示しているのか、ゲーム的なモンスターのリポップと言うのを見せられているのか。
なんにせよ、虚無から生じた子毒ネズミたちは直ぐに他のネズミたちに混じって、見分けは付かなくなった。
「ボス戦には塀の一つでも用意しておいて、増援を呼べないようにするぐらいは考えた方がいいかも」
広間の端、通路の入り口の上に着いたので、私はゆっくりと下降を始める。
ネズミたちに気付かれている様子はない。
「ああそうか。第二階層と第三階層の間にある塀は子毒ネズミが階下に行って、無駄に命を散らさないようにする意味もあるのか。外よりは第三階層の方が成長出来る可能性は高いでしょうし」
広間から通路へと慎重に、音を立てずに移動していく。
うん、無事に切り抜けられたようだ。
そして、僅かではあるが、こちらの通路の方が呪詛濃度が濃い。
なので私は広間のネズミたちから認識されない程度に距離を取ったところで、身に纏っていた垂れ肉華シダの蔓を外す。
≪称号『かくれんぼ・1』を獲得しました≫
「あ、何か来た」
と、何か称号を獲得したようなので、私は周囲に脅威が無いことを確認した上で、自分のステータス欄を確認する。
△△△△△
『呪限無の落とし子』・タル レベル6
HP:829/1,050
満腹度:52/100
干渉力:105
異形度:19
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・1』、『毒を食らわば皿まで・1』、『鉄の胃袋・1』、『呪物初生産』、『毒使い』、『呪いが足りない』、『暴飲暴食・1』、『呪術初習得』、『かくれんぼ・1』
呪術・邪眼術:
『毒の魔眼・1+』
所持アイテム:
鼠のフレイル、毒噛みネズミの毛皮服、毒鼠の三角帽子、鑑定のルーペ、鉄筋付きコンクリ塊、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミのトゥースナイフ、毒噛みネズミの毛皮袋、ポーションケトルetc.
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△△△△△
『かくれんぼ・1』
効果:効果なし
条件:他生物の近くに居ながら気付かれなかったと言うのを一定時間、一定回数行う。
もういいかい? まーだだよ。 もういいかい? もういいよ。
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「どう考えても広間の影響ね」
数をこなす系の称号はネズミたちを利用すると、獲得が容易なのかもしれない。
まあ、範囲攻撃が無いと数に圧し潰されて死ぬのだろうけど。
「あら優しい」
と、ここで私は割と見慣れた金属製の扉が通路の壁に設置されているのを確認。
罠の可能性も考えて、念のために鑑定も行ったが、予想通りに『ネズミの塔』の結界扉だった。
どうやら此処まで切り抜けたプレイヤーへのご褒美のようだ。
「そうね。そろそろ休んでおきましょうか」
『チュー』
私は扉を開けると、セーフティーエリアの中に入った。
そして、中の光景に少し驚かされつつも、ログアウトした。