359:3rdナイトメア4thデイ-2
ザリア視点です
「ま、そこで何も出来ずに転がっている連中に比べればよくやった方でチュよ。ザリア」
「くっ……」
彼我の実力差は明らかだった。
ザリチュの体はまるで全身が筋肉であり、骨であり、神経であるようで、私はザリチュの攻撃に反応して凌ぐことは出来たが、反撃を当てることは殆ど出来ず、当てられた攻撃も殆ど効果がないようだった。
恐らくだが、タルの尋常ではない目のよさと言うか視覚処理能力に、AIとゴーレムの組み合わせだからこその超反応、それに単純な技量差によって、この実力差が生じたのだろう。
「もうHPが……」
「チュッチュー」
しかしザリチュの恐ろしさはこれだけではなかった。
戦っているだけでも毒と何かしらのデバフを受けてHPが削れ、そこにこの洞窟の奥に居るであろうタルの能力によって回復の水に毒が含まれて回復が出来なくなり、結果として私のHPは尽きようとしている。
他にも情報操作が行われている疑惑や、何かしらの方法でタルの支援が行われている疑惑もあるが……いずれにせよ、私はザリチュに敵わず、倒れようとしている。
それがこの場での戦いの結果である。
「ぐっ……体が……」
「おごぉ……ぐげぇ……」
「と言うか、本当に何でこいつらは高濃度の呪詛に対して何の対策もしていないんでチュかね?」
「それについてだけは私も同感よ……」
後、この場の推定呪詛濃度は18なのだが、この濃度の呪詛への対策もなしに踏み込んできては、呪詛濃度過多によって倒れるプレイヤーが多すぎる。
しかもそうやって倒れたプレイヤーは即死じゃないので、その場に転がり続けて邪魔なのだ。
もしかして呪詛濃度過多(1)や(2)と同じ程度で、ちょっと酔っぱらうぐらいだと思っていたのだろうか?
だとしたらその認識は少々どころでなく甘いと言う他ない。
とりあえずタル……いや、カースと戦うなら、呪詛濃度20の空間で戦えるだけの備えをしてきてからにして欲しい。
「ああそうだ。何時もたるうぃが世話になっているから、少しだけ情報をあげるでチュ」
そんな愚痴のような事を思いつつ、遂にHPが尽きて、私の体は倒れ始める。
そこへ小さなネズミ型のゴーレムと思しきものが駆け寄り、私の耳元で囁く。
「復活するなら本営で復活するでチュ。黒は南からの大回りで直接仕掛ける気でチュよ」
「!?」
私は死に戻った。
----------
「こんなに長いと感じた復活までの時間は初めてね……」
主観時間で24分後。
リアル時間で1分後。
私は白の本営をリスポーン地点に選んで復活した。
「居た。えーと、アカバベナさん」
復活した私は『光華団』の面々を探そうとし……アカバベナさんを発見、声をかける。
「ザリアさん。どうしてこちらに?」
「出所が極めて怪しいけど、確認しておきたい情報を得たのよ」
「聞きましょう」
私がタル討伐に向かっていたことはアカバベナさんも知っているはず。
その私が此処にいると言う事は、私が倒されたと言う事、ではその私が得たであろう情報の出所は?
そこまで考えが及んだのか、アカバベナさんの表情は真剣な物である。
「黒陣営が南からの大回りで白の本営に直接仕掛けるつもりだと言う情報を得たわ。出所はタルの保有する装備品型ゴーレ……ム? いえ、カースね。カース、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ。今回のイベントマップ全域を把握している相手からの情報だから、無視はしない方がいいと思うの」
「南から……中央南砦は今、こちら側が攻めていて、先ほど奪取したと言う報告があったはず。他の中央砦もこちら側。となるとマップの南端で河を越えてと言う事になりますね。少し待ってください。警戒しているプレイヤーは居るはずです」
さて、今の白陣営の動きは?
一部は北の山に向かって、あのキルゾーンに誘導され、タルにカモられている。
だがこれは黒陣営も同じこと。
と言うわけで、白陣営はここで攻勢に出て、中央砦三つを白陣営にした上で、それらの守りを固めることに成功したらしい。
なるほどおかしい。
こんなに上手くいくはずがない。
「応答がありました。南側に異常はないそうです。北側も同様。他、渡河を試みているプレイヤーは確認できないようです」
「おかしいわね」
「ええ、その通りです。数も理屈も合いません。至急、入念な調査を……」
白陣営と黒陣営の戦力バランスがイコールなのだ。
なのに、こんなに上手くいくとしたら、黒陣営がよほどの数をタルに向けているか、一部がニート化しているか、消え去ってしまっていることになる。
そして白陣営としては前二つなら別に困らないが、最後の選択肢の可能性も考えて動かないと拙い事になる。
だからアカバベナさんは他のプレイヤーに連絡を取って、状況を把握しようとした。
アカバベナさんの背後から近づいてくるプレイヤーの姿が見えたのはその時だった。
「っ!」
「ぇ!?」
「ちいっ!」
ギリギリで間に合った。
そのプレイヤーは短剣を握っており、刃をアカバベナさんに向けようとしていた。
私は攻撃が成功するよりも一瞬早くそれに気づいて、踏み込み、短剣を弾く事が出来た。
だが、この場に黒陣営が居ると言う事は……。
「「「敵襲! 黒陣営の少数精鋭による奇襲だあああぁぁぁ!!」」」
「ちっ、流石は『光華団』。反応が速いな」
「……」
何かしらの方法で黒陣営は白の本営への潜入を成功させたと言う事である。
私はザリチュによって耐久度がかなり削られている細剣を構えつつ、どうやってこの相手を倒すかを考え始めた。