357:3rdナイトメア4thデイ-1
ザリア視点です
「絶対にぶっ潰してやる……」
「何処だ。何処に居る」
「必ず俺たちの手でだ……」
イベント四日目になった。
今日はこれまでと違い、多くのプレイヤーが殺気立っている。
当然だ。
タルによって白陣営も黒陣営も食料関係に多大な被害を受けて、満腹度が碌に回復できなくなってしまったのだから。
だから多くのプレイヤーは北の山に向かった。
タルの居る拠点に貯め込まれているであろう食料への期待と、これ以上タルの思い通りにさせないと言う意思を持って、タルを倒すために。
「腹が減ったな……」
「まさかイベントで飢餓体験をすることになるとは……」
「それを言えば、食える草を探すなんて事をする羽目になるとも思っていなかった」
だが北の山の探索はとても難しい物になった。
まず山火事の火がまだそこら中で燻ぶっていて、油断していると衣服に燃え移る事があったり、焼けた木が突然倒れてくることもあった。
雰囲気も暗い。
誰の呟きかは分からないのだが、何処からともなく今の状況を憂いる、嘆く、あるいは怒る声が響き、負の感情がプレイヤー全体に漂っている。
だが何よりもキツいのはだ。
「ぎゃあああぁぁぁっ!」
「敵襲だ!」
「黒陣営だ! ぶっ殺せ!!」
この状況になっても、いや、この状況だからこそなのか、黒陣営との戦いがこれまでの三日間とは比べ物にならない程激しいのだ。
飢餓感、怒り、焦り、そう言ったものが合わさった結果なのか、敵も味方も気迫が凄まじく、油断しているとレベルや装備で勝っていても圧せられそうになるほどだった。
「ふぅ、ふぅ、ふうぅぅ……何人やられた?」
「三人。敵は壊滅させたけどな」
「糞ったれが……」
今の戦闘も危なかった。
ゲームとは思えない程の気迫で攻撃をされ、私もまるで獣のように反撃する事になった。
肩で息をしているのが分かる。
目尻がつり上がっているのも感じる。
どうやら私も相当気が立っているようだ。
「おいっ! こっちに穴があるぞ!」
「穴?」
岩陰から誰かの声がした。
どうやら何かを見つけたようだ。
しかし、この声は誰のだろうか?
「ちょっと探ってみ……ぎゃあああぁぁぁ!?」
「「「!?」」」
悲鳴が聞こえ、私たちの警戒心は一気にトップギアにまで上がる。
だが、その後は物音一つしなかった。
なので私たちはゆっくりと岩の向こうが見える位置に進む。
「穴だ……」
「こんなところに洞窟があったのか」
「なんだこりゃあ」
そこには殺された誰かが言っていた通りの穴……洞窟があった。
洞窟は普通の体格のプレイヤーが三人ほど横並びになって入れる程度の幅と、それと同じくらいの高さがある。
鍾乳石の類はないが、床、壁、天井は行動に支障がない程度にデコボコとしている。
道が曲がりくねっているためか、光源となる呪詛の霧があっても穴の奥は見えない。
しかし、北の山の中へと続いているようではあった。
「ザリア、どうする?」
二日目の時にも一緒に行動した覚えがあるプレイヤーが私に判断を求めてくる。
「進みましょう。タルが居る可能性は十分あるわ」
「分かった」
「うす」
「やってやらぁ……」
私の言葉を受けて、その場に居るプレイヤーは数人ごとのグループに分かれる。
そして、盾持ちが多めのグループを先頭として、私たちは洞窟の中へと進んでいく。
「砂?」
「砂か。滑るな」
「気を付けないとな」
そうして注意しながら進む事十数分。
足元がこれまでの岩ではなく、砂に変わった。
また洞窟の広さも変わり、広間のような空間が広がった。
「おい、あそこに誰か居るぞ」
「敵か? 敵だな」
「ああ、こんなところに味方が居るわけない」
そんな広間には奥へと繋がるであろう道が一つあり、その道の前には人が立っていた。
先に洞窟を探っていた味方が倒された件から考えても、あの人が味方である可能性は低い。
そう判断した私たちは武器を構える。
「おい! お前は誰だ!」
私たちの側の一人が、その人に話しかける。
そして、その人がこちらを向き……
「っ!?」
私は息を呑んだ。
「なっ!?」
「どうなって!?」
「馬鹿な!?」
私以外のプレイヤーも驚いた。
だがそれも当然の事だろう。
「その……顔は……!?」
そこに居た人は褐色の肌、くすんだ赤色の髪、黒色の目を持ち、腰からネズミの尻尾を、背中から六枚の蝙蝠の翼を生やしていた。
身に着けているのは、タルが身に着けているのと同じような包帯を基にしたような服で、その色は黒。
両手と両足は毛皮の袋で覆っており、ブラクロが使っていたものと同じ短剣が右手に、毛皮の張られた円形の盾を左手に持っている。
全体的にタルと対を為すような意匠だった。
だが私たちが驚いたのはそこではない。
私たちが驚いたのは……
「おや、また客でチュか。千客万来でチュねぇ」
その顔がカラーリングを除けば、タルに瓜二つのものだったからであり、浮かべる笑顔が秘める狂気もまた私がよく知るものだった。
「ぶ、ぶっ殺せええぇぇ!」
「その顔の時点で完全に敵じゃアアァァ!」
「ヒャッハアアアァァァ!!」
数人のプレイヤーが黒タルとでも呼ぶべき人物へと襲い掛かる。
そんなプレイヤーの姿を見て黒タルは少しだけ呆れた表情を見せ……
「怒りで我を失い、既存の技すら出せないプレイヤーに興味はないんでチュよ」
「「「!?」」」
次の瞬間には襲い掛かったプレイヤーの背後に移動。
「馬鹿な……」
「嘘だろ……」
「ははは……」
黒タルに襲い掛かったプレイヤーたちは、移動が終わった時点で切り伏せられていた。
「では、雑兵が消えたところで名乗らせてもらうでチュ」
黒タルが少しだけ腰を落とし、剣と盾を油断なく構えつつ口を開く。
「ざりちゅは『渇鼠の帽子呪』ザリチュの化身ゴーレム。カースが操るゴーレムでチュよ」
「「「ー!?」」」
黒タル改めザリチュが名乗った瞬間。
周囲の呪詛濃度が一気に上昇し、同時に回復の水が毒を含むようになった。
間違いなくタルの持つ呪いの効果だった。
「さあ、たるうぃとざりちゅを楽しませるでチュよ!」
そしてザリチュが私に向かって走って来た。