356:3rdナイトメア3rdデイT-1
タル視点です
「また随分と派手に燃えているわねぇ……」
『こっちの作業で出た粉塵や呪いがいい感じに干渉したようでチュねぇ』
早いものでイベントも三日目である。
まあ、私は相変わらず地下の拠点に籠って工作を色んな意味で進めているのだけど。
≪キングの就任希望が出されました。賛成プレイヤーの数が一定割合を超したため、キングに就任します≫
「えーと……あ、出来たわ」
『何やっているんでチュか。たるうぃ……』
「いや、さっきアイムさんが倒れて、生き残っている赤陣営が私だけになったじゃない? このタイミングで就任希望を出せば、私だけが賛否の権利を持っているから、確実に通せるかなと思ったんだけど、正解だったわね」
『でチュか。まあ、この砦の外に出る気が無いなら、有りでチュね』
とりあえずキングには就任出来た。
これでポイント稼ぎは一気に進む事だろう。
「ザリチュ。裏工作の状況は?」
『『堕即』の混入には成功したでチュ。食糧庫に忍ばせておくのも準備済みでチュ。畑の方も問題ないでチュね。つまり万事つつがなくでチュ』
「いいわね」
私は目の前に作業に集中する。
もうすぐ完成するのだから、ここで手を抜く訳にはいかない。
そうしている間に『堕即』が効果を発揮し始めたようで、背中から腕が生えたり、額から脚が出たり、腹から頭が生えたりしたプレイヤーが出現し始めている。
そして、生えたパーツは生えているプレイヤーの意思とは関係なく勝手に動き始め、一気に混乱が広がっていく。
広がっていくのだが……。
「なんでくっ殺系女騎士?」
『それはざりちゅの台詞でチュよ。たるうぃ』
発声器官が生じたプレイヤーから発せられる声が何とも言い難いものだった。
何故こうなったのだろうか?
まるで原因が掴めない。
謎である。
「うんまあ、いいか。ザリチュ、完成したわよ」
『ようやくでチュねぇ』
まあ、それはそれとして、イベント開始前からずっと作り続けていた木像がようやく完成である。
まさか、仕上げだけで三日もかかるとは思わなかった。
見た目については、蝙蝠の翼を背中から生やした少女が屈んでいる、と言うのが適切だろうか。
サイズは……よし、ちゃんと指定サイズに収まっている。
「では……『取り込みの砂』」
『チュー』
呪怨台での加工も終え、『取り込みの砂』が発動。
木像は砂の立方体の中へと消えた。
『チュー……チュー……データを取り込み中ー……チュー……チュー……可動域の設定中ー……チュー……チュー……能力の設定中ー……チュー……チュー……進行度1%でチュー……』
「さて、これでしばらくは待ちね。問題はどれくらいかかるかだけど……」
『チュー……チュー……データを取り込み中ー……チュー……チュー……可動域の設定中ー……チュー……チュー……能力の設定中ー……チュー……チュー……進行度1%でチュー……』
「あ、かなりの時間がかかるわね。これは」
どうやらこれまでの『眼球』『腕』『鼠』とは比べ物にならないぐらいに時間がかかるようだ。
見た目の精巧さや持たせようと思っている能力を考えたならば、当然の話なのだけれど。
「んー、取り込み中はザリチュは動けないのよね。おっとザリアが勘付いたわね。となると……私がやるか」
私は適当な椅子に腰かけると、自分の体の操作を止めて、ネズミ型ゴーレム数体の操作に集中する。
操作するネズミ型ゴーレムの体内には熱拍の幼樹呪の心材を粉にしたものが収められており、それを体外に取り出す。
そして、周囲に撒き散らした上で……リズムを刻み始める。
一定のリズムで、血が脈打つように粉を叩き、熱を生み出していく。
やがて熱は火となり、ネズミ型ゴーレムの体を作る飢渇の毒砂が周囲に乾燥を与え、乾燥した食料に火が移って……一気に燃え上がっていく。
うん、ザリチュの配置が良かったおかげで、全部の食糧庫で火を点けられた。
「えーと、次は畑への仕込みだけど、こっちはルートが違うから、一匹ずつ動かさないといけないわね」
私は続けてネズミ型ゴーレムの操作を進める。
ゴーレムの操作は案外難しくて、個別操作となると私では一匹ずつが限界である。
他のプレイヤーのゴーレムの操作は……イベントで見かけたプレイヤーを見る限りでは、幾つかのコマンドを組み合わせたり、事前にプログラムしたりで、リモート操作は要所要所でやるぐらいのようだ。
ザリチュのような常時リモートは……確認した限りでは居ないようだった。
まあ、この辺は一長一短だし、ゴーレムをどう動かすかは個人の選択の範疇だろう。
「あ、見つ……潰されたわね。まあ、イベント後を考えたらちょうどいいか」
と、私の操作が悪かったせいで何体かのゴーレムが見つかり、潰されてしまった。
しかし、これでザリチュの操るゴーレムの正体が砂だと露見し、イベント後に『ダマーヴァンド』のネズミへ八つ当たりを仕掛けるプレイヤーは減らせたと考えたら、そう悪くはないか。
私への逆恨みなら困らないけれど、毒ネズミたちへの攻撃は困るし。
「とりあえず畑に飢渇の毒砂を撒きますか」
移動完了。
では、飢渇の毒砂製のネズミ型ゴーレムには自壊しながら畑の中を駆け回ってもらおう。
これで畑の植物は台無しになる。
で、ついでに少量ではあるが毒炎の望遠鏡も日光を取り込めるように落としておいて、朝日が昇ると共に焼却できるようにしてしまうか。
『チュー……チュー……データを取り込み中ー……チュー……チュー……可動域の設定中ー……チュー……チュー……能力の設定中ー……チュー……チュー……進行度5%でチュー……』
「さて、私へのヘイトがとんでもない事になっているし、明日の朝までにはデータの取り込みが終わってザリチュが戻ってきて欲しいところね」
直に今日の活動限界を迎える。
私は適当な場所で眠り始めた。
12/15誤字訂正