354:3rdナイトメア3rdデイ-5
ザリア視点です
「これはいったい何が……」
「妙な位置から腕が生えて……暴れてる?」
砦の門近くに居た黒陣営を始末した私たちは砦の中に入ると何が起きているのかを確認する。
どうやら、一部のプレイヤーの体から突然手足や頭が生えてきて、しかもそれが生えてきたプレイヤーの意思を無視して勝手に動いているようだった。
そしてこの現象は白陣営のプレイヤーだけでなく、黒陣営のプレイヤーにも起きているようだった。
「ザリア」
「ザリアさん」
「ロックオ、シロホワ。事情を聞かせて」
と、ここでロックオとシロホワが私たちに合流。
私は二人に何が起きたのかを聞く。
「原因は私たちにも分かりません。ですが……」
「最初の発症者は二時間ほど前。突然自分の腕が背中から生えてきて、後頭部を殴打された。以降、似たような事例が敵味方問わず頻出している。掲示板によれば、他の砦や黒陣営でも同様だそうだ。発生した部位の切除は無意味。切除してもすぐに元通り生えてきて暴れ回る。正に呪いだ。だから……赤陣営の関与が疑われている」
「そう」
珍しくロックオが早口で状況を説明する。
それにしても赤陣営はアイムさんを私たちが倒して残りは一人、タルしか居ない筈。
なのにこういう事態になると言うのは……流石と言うべきか、やはりと言うべきか、全力を出したタルはどれだけの隠し玉を持っているんだと言うべきか……言うべき言葉が多すぎて、どう言えばいいのか分からないレベルだ。
「裏が取れました。掲示板でもかなりの騒ぎになっていますね」
「そう言えば、死に戻りで治らないの?」
「恐ろしい事に死に戻りしても効果が持続するそうです。ただ効果時間は比較的短めで、長くても2時間ほどだそうです。それと効果時間中は異形度が1上がり、『堕即』と言う呪いが追加されているそうです。なので呪いなのは確定でしょう。ただ発生原因が分からない以上は……」
「何時誰が発症してもおかしくない、と」
『堕即』……『蛇足』か。
蛇に余計な足を付けて台無しにするように、余計な部位を付けさせることで様々な物を台無しにする呪いと言うところだろうか。
「団長に確認。本営でも『堕即』は広がっている。しかも表に出ないプレイヤー含めて。だから水か食料を媒介にしている可能性が高い」
「……」
「水か食料ですか……ちょっと皆さんが今日何を食べたか聞いてきます。もしかしたら、何かしらの共通項があるかも」
「私も行きます。集めた情報の整理は任せてください」
ロックオ、シロホワ、ストラスさんの三人が調理場へと向かっていく。
「ちなみに『堕即』で一番厄介なのは頭が出て来るパターン。なんか『うほおおぉぉ』とか、『お゛か゛あ゛さ゛ああぁぁん』とか、『くっ、殺せ』とか周囲の状況を鑑みずに言うらしい」
「なんて嫌な効果なの……と言うか、何をどう作ったら、こんな際物の極みみたいなアイテムを生み出せるのよ、タル……」
「一時的に異形度を上げる効果もあるから、付与されるのがもっとマトモな物なら極めて有用じゃないかとも団長は言っていた」
「でしょうね。一時的に異形度を上げられれば、あそこみたいに呪詛濃度が高い場所でも動きやすくなるわけだし」
私とライトリカブトさんは砦の外へと移動。
『堕即』によって混乱している敵陣へと切り込み、『堕即』によって混乱している味方たちを助ける。
ただ……今日の活動限界時間がそろそろ来る上に、アイムさんとの戦いが終わってから此処まででだいぶ消耗が進んでいる。
何と言うか、妙に喉が渇くのだ。
「しかし、水や食べ物に毒って嫌らしいにも程があるでしょうが! おかげで安心して飲み食いすることも出来ないわ」
「寡兵が大軍を破るなら、兵糧攻め含めて奇策は基本だと思う。一人でやってのけるとは思わなかったけど」
それにしてもタルはいったいどうやって砦内部に侵入して、『堕即』の発生源を仕込んだのだろうか?
中央砦の食料ならば、ブラクロたちに持たせて混ぜさせることも出来……ないか、量を考えたら、一人では時間が足りない。
そしてイベントの性質上、内通者の類も考えづらい。
それに、初日の時点で混ぜられていたなら、今になって起きるのもおかしい。
つまり、今日の内に混ぜられたことになるのだけど……半日で、全ての砦を巡り、しかも事態が表に出るまで誰にもそれを悟られない。
いやうん、自分で考えて言うのもなんだけど、物理的に不可能な事をされている気がする。
となれば……やはり、ゴーレムの類か?
タルの性格からして、戦況を確認するための何かは持ち込んでいる気がするし。
そう言えばレライエは『ダマーヴァンド』のネズミをテイムして持ち込んで……。
「っ!? そういう事!?」
「ザリアさん?」
「ライトリカブトさん! 至急全プレイヤーに確認! ネズミよ! タルの奴はネズミ型の何かを使って、毒を仕込んでる!」
「ネズミ? 今回のイベントに野生生物やモンスターは居ないはず」
「じゃあ確定ね。私は初日に、中央砦へ向かう道中で、今回のイベントには居ないはずの、ネズミのような生物を見かけているわ」
「っ!? 至急確認する」
ゴーレム、テイムしたアンデッドあるいはモンスター、タルが操っているのが、どれに分類されるかは分からない。
分からないが、一つだけ確かなのは、私たちは今の今までタルの手のひらの上で踊っていただけと言う事だ。
とにかくネズミ型であろうそれを急いで潰さなければ、明日以降も何かを仕込まれる。
私はそう判断して叫び、ライトリカブトさんはライトローズさんに報告を上げた。
だが全ては遅かった。
「火事だアアァァ!!」
「食糧庫に火が点けられたぞ!」
「いきなり中から燃え始めただと!?」
「「!?」」
砦の食糧庫、それも万が一に備えて複数個所に分けて保存していたのに、その全てから猛烈な勢いで火の手が上がった。
しかもそれは私が居る拠点だけではなく、白と黒の陣営、それぞれの本営と全ての拠点からだった。