353:3rdナイトメア3rdデイ-4
ザリア視点です
「っ!?」
アイムさんに向かって突撃をしたライトリカブトさんが、進路上に投げ込まれたバネ床によって大きく弾き飛ばされた。
「よ……わわわ!?」
「せい……ぐっ!?」
そのライトリカブトさんの陰から同じ進路を突き進むようにストラスさんが突っ込んでいき、槍を突き出す。
が、アイムさんの体に槍が触れるよりも早く、先ほど私も受けた回転しつつスライドする壁によってストラスさんの攻撃は防がれ、転ばされる。
「咲き誇りなさい! 『咲けよ血の花』」
「!?」
しかし、此処までが計算の範囲内。
ストラスさんの後ろに隠れていた私が『咲けよ血の花』を細剣に宿しつつ攻撃。
『呪法・全注入』も乗せた斬撃が三度、最後の起爆用の突きがアイムさんの宝箱に突き刺さり、爆発。
木の下で半分地面に埋もれるようにあったアイムさんの体が、上の木ごと大きく吹き飛ばされる。
「よ……っう!?」
だが同時に私の背中側から何かがぶつかり、棘が突き刺さりながら、縄状の何かが私の体に絡みつき、力が抜けていく。
表示された状態異常は毒と干渉力低下。
私は自分に絡みついているそれを見る。
蠍の尾のような打撃部を持つボーラは、先ほどからアイムさんが投げていたタル製のボーラだ。
どうやら被弾を免れないと判断したアイムさんが死角から投げたらしい。
「やってくれましたね……全員まとめて……」
ライトリカブトさんはようやく立ち上がったところ、ストラスさんも同様。
私は身動きが殆ど取れない。
対するアイムさんは次の攻撃の為の動きを始めようとしている。
これは拙いか……。
「コケアアアッ!」
「っ!?」
だがそれよりも早く、近くの茂みから奇声と共に飛び出してきた鳥人間のドロップキックがアイムさんに炸裂して、アイムさんは吹き飛ばされる。
「熊アアァァ!」
「おぶっ!?」
吹き飛ばされた先にはクマのぬいぐるみ姿のプレイヤー……熊ですが居て、まるでバレーのレシーブのようにアイムさんを上空に向かって打ち上げる。
「燃え盛れ!」
「!?」
そして空中に居て身動きが取れないアイムさんに向かって火球が放たれ、爆発。
おまけに地上に落ちたところへカーキファングやライトリカブトさんが追撃を仕掛けて、ダメージを蓄積させていく。
「ザリアさん」
「ありがとう、ストラスさん。これは援軍が間に合ったと言う事でいいのかしらね」
「それでいいと思います」
この間にストラスさんの手によって私に絡んでいたボーラが外され、最近開発されたらしい解毒薬によって毒が治される。
で、私がそうしている間にも白と黒の両陣営から援軍がやってきて、アイムさんに攻撃を仕掛けていく。
アイムさんは必死に反撃を試み、強制移動からの地雷による爆発で死に戻りするプレイヤーも出るが……やはり数の暴力は強い。
アイムさんのHPは確実に削られていく。
こうなってしまえば、如何に赤陣営と言えどもどうしようもないだろう。
「暴け、明かせ、示せ、『追跡針』!」
「ああぁぁ!? このタイミングでぇ!?」
とりあえず安易に割り込めるようなタコ殴り状態ではなくなっているので、隙間を縫う形で針を投げ、アイムさんに対する追跡状態を維持しておく。
あの叫びようからすると、離脱の為の何かを丁度しようとしていたのだろうか?
まあ、潰せたなら何よりだ。
「コケーコォ! 我が友レライエほどではないが、貴様もまた強敵だった! だがこれでトドメだ!!」
「みぎゃあっ!?」
ああそうか、あの鳥人間と言うか鶏人間、何処かで見た覚えがあると思ったら、第二回イベントでタルと戦ったオンドリアと言うプレイヤーか。
そして今はボディプレスをアイムさんに仕掛け、アイムさんの体である宝箱が潰れ、中から金髪の女性が出てきた、と。
まあ、PvPイベントなので絵面は気にしないでおこう。
それにだ。
「し、死なば諸共です!!」
「コケッコォ!?」
HPが0になったらしいアイムさんが、もはや赤陣営死に際恒例となった爆弾を起爆させる。
だが、これまでの赤陣営の自爆と今回の自爆は規模が違った。
「なっ!?」
「地雷が誘爆して!?」
「木に燃え移ったぞぉ!?」
「や、山火事だぁ!!」
「ロオオォォストチキイイィィン!?」
アイムさんの手元で起きた黒煙を伴う爆発は、周囲に仕掛けられていた地雷に引火、爆発。
周囲へ大量の爆炎を撒き散らした。
そして、その爆炎はどうしてか周囲の木々に燃え移り、北の山全域へと炎が広がっていく。
≪赤の陣営、I'mBoxが討伐されました。赤の陣営のプレイヤーが復活できるのは72時間以上経過後、一回だけです≫
「これはいったい……!?」
「表に出ている赤陣営最後の一人と言う事で、何か仕込まれていたのかもしれないわね……」
「確かに。今のタイミングでの大規模自爆は味方に迷惑を掛けない」
周囲はあっという間に火の海になった。
爆発の中心部に居たオンドリア含め殆どのプレイヤーは即死して死に戻り。
私やストラスさんたち爆発を免れた面々は、タルの居場所を探し出すと言うミッションを中断して、北の山から逃げ出した。
そうして命からがら逃げかえり、日が傾くころに手近な砦に着いた私たちを待ち受けていたのは……
「オホオオオオォォォ!?」
「アアアァァァ! お゛か゛あ゛さ゛ああぁぁん!」
「くっ、殺せええぇぇ!!」
「また発症者が出たぞ!?」
「畜生!? 何処のどいつだ!? こんなふざけた呪術をしかけやがったのは!?」
「そんなのタル以外に居るかぁ!!」
味方が味方を取り押さえ、奇声が響き渡り、敵も味方もマトモな戦闘が出来なくなってしまっている混沌とした戦場だった。