352:3rdナイトメア3rdデイ-3
ザリア視点です
「アレがダミーなら、本物は別の場所。早く探しに行くべき」
「そうね。そうしましょうか……」
私はゆっくりと立ち上がると、ダミーの宝箱を改めて見る。
宝箱は表面が焦げた状態で同じ場所に、同じ向きで置かれたままになっている。
それにしてもよく助かったものだ。
他のプレイヤーたちは今も爆発によって吹き飛ばされているし、昨日の地雷も直撃でないのに即死だった。
それを考えると……
「おかしいわね」
「うん?」
「はい?」
私は細剣を構え直す。
アイムさんのダミーの宝箱に向けて。
何となくだが、宝箱が僅かに震えた気がした。
だが先に私は自分の違和感を口に出す事にした。
「うん、やっぱりおかしいわ。私は何故生きているの?」
「何故って、アイムさんの仕掛けた爆弾の威力が弱かったとか、ザリアさんのレベルや防具の性能が良かったからでは? アイムさんは検証班なので、最前線組のザリアさんに比べればレベルは低いですよ?」
「だとしてもおかしいわ。私は昨日、彼女の仕掛けた地雷でワンデスしてる。しかもその爆発は直撃ではなかったのに、その場に居た私たち全員を死に戻りさせている。戦闘直後でHPが削れていたことを加味しても、その威力は非常に高かったと言えるわ」
「今使った爆薬が弱かっただけでは?」
「それもおかしいわ。ダミーの宝箱へ攻撃を仕掛けてくるプレイヤーは、I'mBoxと言うプレイヤーの存在を知っているからこそ、宝箱へと攻撃を仕掛けている。そう言うプレイヤーは、アイムさんにとっては、下手な最前線プレイヤーよりも危険度が高いプレイヤーとも言えるわ。そんなプレイヤーへの反撃に、一撃で倒しきれない程度の爆薬を使う? 私だったら、確実に始末するように動くわよ」
私は肩から生えている棘を引き抜くと、呪術によって針の性質を変える。
その上で呪詛の操作に集中し始める。
「だから私はこう考える。私を殺せなかったのは、殺せない理由が私自身以外にあると。例えば、そこの宝箱がダミーではなく、自傷ダメージを嫌ったとか、ね」
私の呪術は大別して二種類。
一つは細剣を強化し、出血の状態異常を付与するもので、こちらは攻撃用と言える。
もう一つは肩の棘の性質を変えるもので、刺した相手に沈黙を与えるものと、刺さった後で発光する事で追跡を容易にするものがある。
今から使うのは追跡を容易にするものだ。
そして、この追跡を容易にするものは、『呪法・全注入』を使うと、特殊な効果を発揮するようになる。
「暴け、明かせ、示せ、『追跡針』!」
私の針が宝箱に刺さり、呪詛操作によって針に込められた呪いが宝箱へと注入されていく。
それに応じて宝箱が光り出し……ひときわ大きく輝いた後に、宝箱の表面についていた汚れの一切が吹き飛んだ。
「やっぱり偽装だったわね!」
「「!?」」
そう、『追跡針』の呪いを『呪法・全注入』によって相手の体に注ぎ込むと、注ぎ込んだ相手が何かしらの偽装工作、隠蔽工作を体にしていた場合に、それらの工作を無効化する効果を示す。
この効果の重要なところは、誰かが意図的に工作した場合にだけ無効化すると言う事。
それはつまり、自然に着いた汚れならば吹き飛ばないと言う事でもある。
では、今、宝箱の汚れが吹き飛んだと言う事は?
「覚悟してもらうわよ! アイムさん!」
あの宝箱がダミーではなく、本物のアイムさんであると言う事だ。
「っ!? バレたからには!」
「!?」
私が宝箱に駆け寄ると同時に、宝箱から女性の声が響く。
それと同時に仄かに光る二つの手が木の陰に生じて、蠍の尾が両端に付いているボーラが私を二方向から挟み込むように投げられる。
「させない!」
「させません!」
が、それはライトリカブトさんとストラスさんが素早く射線上に割り込んで防ぐ。
「せいや!」
「壁ぇ!」
その隙に私は宝箱に接近し、細剣を突き刺そうとする。
だが、突如として目の前に生じた木製の壁によって私の突きは阻まれ、それどころか回転しつつ横にスライドを始めた壁によって細剣を奪い取られそうになり、私は剣を引き抜きつつ、慌てて後退する。
「ザリアさん! 先ほどのボーラには気を付けてください! 触れたものに毒と干渉力低下を与えてきます! なので、全員が一度に捕まったら全滅が確定します!」
「『解毒の香り・2』」
後退した先では、ストラスさんの手によって、ライトリカブトさんに絡まったボーラが外されている所だった。
それにしても毒はともかく干渉力低下か……物理的に拘束された上で、干渉力が下がったら、確かに一人で抜け出すのは至難の業。
全員が一度に捕まったら全滅と言うストラスさんの言葉は間違っていないだろう。
そして、そんな危険物の出所については……まあ、考えるまでもなくタルだろう。
「ううっ、手が見えてるって厄介ですね」
再びボーラが飛んでくる。
今度は三つだ。
が、出所がはっきりしている上に、投げられたボーラの特性が分かっているなら対処は難しくない。
ストラスさんもライトリカブトさんも槍で叩き落し、私も細剣の刃先で跳ね飛ばす事で防ぐ。
それにしても手が見えるのが厄介とアイムさんが言うと言う事は……。
「普段はアイムさんの手って見えないの?」
「見えていませんね。ザリアさんの針のおかげかと」
「そう。なら、効果を切らさないように気を付けておくわ」
「ちなみにあの手は生物や自分以外の誰かが持っている物には干渉できないそうです」
なるほど、本来は見えず、おまけに体から離して動かせる手か。
それは便利そうだし、もしかしたらこの手によって罠も仕掛けていたのかもしれない。
しかし、見えない=隠蔽工作なので、私の呪術によって破られた、と。
「ストラスさん、他のプレイヤーにこの場所は?」
「通達済みです。黒も白もすぐに集まってくるかと」
「分かったわ。じゃあライトリカブトさん」
「分かってる。私は……」
私たち三人は改めて構えを取る。
対するアイムさんは傍目には何もしていないように見えるが、罠使いであるならば、こうしている間にも何かはしていてもおかしくないだろう。
「突っ込む!」
それを分かった上で、ライトリカブトさんは手に持った騎士槍の穂先をアイムさんに向けた状態で突撃した。
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