344:3rdナイトメア2ndデイ-1
ザリア視点です
「おはよう。……。何かあったみたいね」
「おはようザリア。空がトンでもないことになっているんでな。皆慌ててる」
イベント二日目。
目覚めた私はオンガが指さした先を見る。
見えたのは……呪詛の霧で覆われた空だった。
うん、いつも通りだ。
いつも通りだが、それなら周囲がこんなに慌てるわけがない。
「……」
と言うわけで、私はインベントリからゴーグルを取り出すと、その状態でもう一度空を見る。
私のゴーグルは視界の制限距離についての計算で、私の異形度を+5してくれる装備品であり、これを身に着けた私の異形度は計算上8として扱われる。
よって、事前の通知通り、このイベントマップの呪詛濃度が5であれば、霧の先にある太陽まで見えるわけだが……。
「駄目ね。空が見えないわ」
「つまり、最低でも呪詛濃度9以上の霧がイベントマップ全域の空に立ち込めているわけか」
まあ、原因については考えるまでもないだろう。
と言うか、運営側が仕掛けたのでなければ、こんな馬鹿げた真似が出来る可能性があるプレイヤーなんて一人しかいない。
「ほぼ間違いなくタルの仕業でしょうね……」
「まあ、そうなるよなぁ。まったくどんだけの量のDCをつぎ込んだらこんな真似が出来るんだ? ああそうだ。発生したのは今日の朝4時頃からだが、出所は不明らしいぞ」
「分かったわ」
問題はやはり狙いが見えないこと。
地上に張るなら、タルの邪眼術を強化する為なのだと思えるが、上空に溜めるのはプレイヤーにプレッシャーを与える以上の意味はない気がする。
と言うか、一体何をどうやったら、あんな量の呪詛を上空に溜めておけるのだろうか?
タルの人外化が日々進んで……いやもうカースだったわね、タルは。
「さてどうする?」
「昨日話した通りに動きましょう。タルの狙いが読めないのにじっとしていても仕方がないわ」
「ま、そうだよな。じゃ、一時間後の出撃に間に合わせてくれよ」
「分かったわ」
私は装備を整え、食事をとり、オンガたちと合流。
8時に一時的に開門される予定の西門裏に集まる。
そして何故かは分からないが、西門前に居る黒陣営を地上からの攻撃で一掃する部隊、オンガたち含めて50人ほどのプレイヤーのリーダーが私になってしまった。
なんでもこの中で一番発言力があると同時に、指示が安定してそうとの事だった。
まあ、任された以上は頑張るしかない。
「では……突撃ぃ!!」
「「「うおおおおぉぉぉっ!!」」」
朝8時、中央砦西門が一時的に開門。
白陣営は砦の城壁の上からの遠距離支援と、私たち地上部隊による攻撃を仕掛ける。
対する黒陣営は穴と柵によって作られた簡易陣地で私たちを迎え撃つ。
「せいっ!」
「あだばあっ!?」
「サヨナラ!」
「無念……」
剣と槍が交差し、炎の呪術と氷の呪術が飛び交う。
私の細剣は敵の犬の形をした首を刎ね、返す刃でその後ろに居た忍者装束の胸を切り裂く。
だが私の隣で白陣営の一人が黒陣営の槍で突き刺され、倒れる。
そして、倒れた全員が消えて……
「むんっ!?」
「討ち取っ……ひどいん!?」
「ヒャッハアァ! この程度の損耗なら補給なんざ要らねえんだよ!!」
私は槍持ちの黒陣営を切り倒し、先ほど倒れたはずの白陣営メンバーは私の主観時間で24分後に復活して、砦から突撃。
私目掛けて突っ込んできていた黒陣営を串刺しにした。
「このまま敵陣地を破壊! まずは後顧の憂いを断つわよ!!」
「「「おうっ!」」」
分かってはいた事だが、拠点近くの戦闘は、その拠点を持っている側の陣営が極めて有利だ。
なにせ、拠点を持っている側は一人二人落ちたところで大きな問題にはならない。
むしろ、死に戻ったことで削れたHPが回復するので、落とした側が不利になる可能性まである。
「埋めろ埋めろぉ!」
「柵は奪い取って俺たちのものにしちまおうぜ!」
「普段は出来ない蛮族行為たっのしいぃ!」
その上で、砦に残るプレイヤーからの支援もあれば、砦そのものの力による支援もある。
補給面での心配がないと言うのも有利な点か。
逆に言えば、砦を落とすとなると……相当の準備、技術、戦略と言った物が必要になるだろう。
それこそ、何かしらの方法で適度な量の状態異常をバラまいて、守備隊の半数を行動不能にするとか、そういう策略の類が要求されるかもしれない。
ああうん、そういう意味でもタルはやっぱり今回のイベントでは強いか。
死に戻りすら、簡単にはさせてくれないのだから。
「隊長! 敵陣地の破壊完了しました!」
「地面操作の呪術で固めてやったんで、新しい穴を開けることも出来ませんぜ!」
「ひぇっひぇっ、隊長おぉ、早く俺たちの次の獲物を指示してくだせぇな」
「貴方たちノリノリね……」
「「「そりゃあイベントなんで。楽しんでナンボでしょ」」」
話を私たちに戻そう。
いずれにせよ単騎突撃の類は無理無茶無謀。
赤陣営に選ばれるほどの実力があるならともかく、そうでなければ、やるだけ無駄。
仲間との連係プレーが敵拠点の奪取には不可欠。
であるならばだ。
「分かったわ。じゃあ、50人……いえ、砦から何人か来てくれたおかげで60人くらいになっているわね。では、この60人で駆け抜けましょうか」
私は細剣を抜くと、川の上流の方へと切っ先を向ける。
「ザリア分隊! 中央北砦への裏取りを開始する! 立ち塞がる敵は全員切り伏せろ!! 私に続けええぇぇ!!」
「「「ヒャッハアアアァァァ!!」」」
そうして私たちは一丸となって、昨日敵に取られた中央北砦目指して駆け出した。
「あ、カゼノマ。掲示板を介しての連絡は……」
「もうしてあるから大丈夫ですよ」
なお、報連相は欠かさない。




