342:3rdナイトメア1stデイT-2
タル視点です
『じゃ、予定通りに散開させていくでチュ』
「お願いね」
さて戦争が始まった。
スクナたちは私からアイテムと色々と腹の中に仕込んだネズミゴーレムを受け取って転移。
もう数分もすれば、それぞれの戦いを始める事になるだろう。
「視覚の処理は……今は最低限でいいわね」
では私は?
ぶっちゃけると、初日は見る事に徹するつもりである。
折角のイベント、数多の未知が白日の下に晒される機会、私対策ではなく他プレイヤー対策で練られた諸々が表に出て来るのだ。
これを見ないで自分も最前線に赴き、死ぬまで戦うなんてあり得るだろうか? いや、無い!
と言うわけで、スクナたちにアイテム扱いで連れて行ってもらったネズミゴーレムたちだが、実はその腹の中には眼球ゴーレムが何体も仕込まれており、戦場の各地、流れ弾以外には特に気にしなくてよさそうな場所への設置が始まっている。
『よくこの数を処理できるでチュねぇ……』
「今は真剣に見ていないもの。ザリチュだって、今は最低限の進路だけ定めて動かす、セミオートみたいな感じで動かしているんでしょ?」
『まあ。そうでチュね』
ゴーレムの総数はネズミゴーレムは25、眼球ゴーレムに至っては100近い。
当然ながら、イベント開始前に作成し、インベントリに入れる事で持ち込んだものである。
『チュッ』
「流石はザリアね」
と、中央の砦から白陣営に向かっているネズミゴーレムがザリアに見つかりかけたようだ。
直ぐに視線を外してくれたが、危ない、危ない、と。
今のタイミングならば、遠目で見つかっただけなら、ただの野生動物で流せるかもしれないが、接近されたら砂で出来ているとバレただろうし、気を付けなければ。
『設置していくでチュよ』
「分かったわ。私はブラクロたちの活躍を楽しませてもらうわ」
そうこうしている内に、中央砦内での戦闘……いや、蹂躙が始まる。
スクナは毒頭尾の蜻蛉呪の翅剣を活用し、金属製の防具すら難なく切り裂いて、剣の間合いに入ってしまったプレイヤーを全て仕留めていく。
ブラクロは遠吠えを上げると、双剣、体術、呪術を駆使して暴れ回る。
マントデアはその巨体に六角棒と言う凶器が加わったことで、一振りで十人以上を吹き飛ばしつつ、熱拍の樹呪の葉マントと立ち回りによって白陣営と黒陣営の攻撃を誘導して同士討ちのような事をさせ、混乱したところに雷を落として漁夫の利を得ると言う立ち回りを見せている。
「おっ、流石ね」
だが流石と言うべきか何と言うべきか、直ぐに蹂躙は戦いへと変化していく。
ブラクロに対してザリアを中心としたプレイヤー集団が攻めかかって、戦いを一方的ではない物へと変えた。
スクナには『エギアズ』を中心とした黒の陣営の精鋭たちに加えて、マナブとスクナの相方である四辻さんと思しきプレイヤーたちが挑みかかる事で、戦局を拮抗させる。
マントデアのところには……白陣営だと死に戻りから帰って来たカーキファング、ドージ、黒陣営だと熊です、マトチ辺りが見知った顔かな? 三すくみに近い状況になりつつあるようだ。
『川の方でも動きありでチュね』
「みたいね」
砦の外壁にくっつけた眼球ゴーレムがマップ中央を流れる川での戦いが始まったことを告げてくる。
だがそれは船同士の戦いではない。
いや、船と言うかカヌーのような物に乗っているプレイヤーも居るが、それは少数で、大多数は半魚人や人魚と言った水中での活動に適したプレイヤーであり、一部はストラスさんのように空中浮遊を利用する、あるいは何かしらの呪術やアイテムで対応できるようにしたプレイヤーのようだ。
『CNP』では珍しい遠距離攻撃専門の呪術も盛んに使われていたり、人魚の歌によるバフデバフ合戦など、私にとっては珍しいものが幾つも披露されている。
そして、そんな中で……
「ワオ、ダイナミック」
『クカタチでチュねぇ』
巨大な鮫の姿をしたスライムによってプレイヤーたちが次々に食い殺され、あるいは煮殺されていき、戦場は一気に阿鼻叫喚の様相を呈していくようになる。
言うまでもなくクカタチの仕業だ。
どうやら私から懐炉札を受け取って、体温の維持がしやすくなったのをいいことに、川で不可視の奇襲によるランダムな虐殺を行っているようだ。
うーん、気が付けば川が煮立ち、隣の友軍の上半身が食い千切られ、下手人は既に姿を眩ませていると言うのは、実にホラーである。
「レライエは……動き出しているようね」
『狙撃でチュね』
では、赤陣営の残りの二人、レライエとアイムは?
レライエは狙撃を開始しており、北の山を迂回する事で、相手陣地の奥深くに潜入しようとしているプレイヤーを陣営関係なく撃ち抜いている。
しかも撃ち抜ける全員を撃ち抜くのではなく、その後の展開が自分にとって都合が良くなりそうな相手だけを狙っているようで、かなり強かだ。
「アイムは罠系だったのね」
『周囲で勝手にモノが動いているようでチュね』
アイムもレライエと同じで北の山の中に居る。
とは言え、木の根元で、箱が半分地面に埋もれるような形で潜んでいる彼女を探し出すのは、至難の業だろう。
しかも、その周囲には無数の罠が仕掛けられており、レライエの狙撃で慌てたプレイヤーが面白いぐらい引っかかって、彼女のスコアに変換されていっている。
なお、アイムはどういう呪いかは不明だが、自分の周囲にあるものを手で触れずに動かしたり、見たりできるらしい。
これはこれで素晴らしい未知なる技術である。
「ふふっ、ふふふふふ、本当に素晴らしいわぁ」
ああ、未知が溢れている。
そして、その未知を私は眼球ゴーレムのおかげで見逃さずに済んでいる。
今回のイベントはもうこの時点で神イベントと言ってもいいかもしれない。
ああ、本当に神イベントだ。
だって見れるのは戦闘用の呪術や技術だけではなく、後方支援や生産に関係するものもあるのだから。
例えば白陣営。
本陣では前線から送られてくる情報を処理して、明日以降どう動くかをライトローズさんたちが考え合っている姿がある。
食堂で大量の食事の準備を始めているプレイヤーが居る。
中庭を開墾する事で食料や薬草の補充を試み始めているプレイヤーが居る。
複数のモンスターの死体を操り、自立行動させるための準備を進めているプレイヤーが居る。
例えば黒陣営の本営。
こちらでも、エギアズ・1を中心として、情報の精査と作戦の立案が始まっている。
死に戻りしたプレイヤーの装備の耐久度を素早く戻していくプレイヤーが居る。
砦の壁を壊したり増やしたりすることで、攻め入られても時間を稼げるように細工をするプレイヤーが居る。
岩と土で出来たゴーレムらしいゴーレムを起動して、前線への移動を始めたプレイヤーが居る。
例えば南端の河原。
そこでは仮の橋を作ろうとする者もいれば、船によって向こう岸に渡ろうとする者もいる。
それを護衛する者も居れば、上陸に成功した後を狙うように罠を仕掛けるものもいるし、逆に川の真ん中に機雷のような物を仕掛けている姿もある。
夜陰に紛れて仕掛けるつもりなのか、少し離れた場所で仮眠を取っているプレイヤーの姿もあった。
「何でもあり! そう正に何でもありだわ!! ああ、こんな多種多様な見たことがないものが見れるだなんて本当に幸せだわぁ……」
どれもこれも素晴らしいと言う他ない。
各人の創意工夫の結晶が披露され、それぞれの状況に応じた活躍をしている。
こんな素晴らしいイベントはこれまでになかった。
そして、こんな素晴らしいものを見れる手段も。
ああよかった。
本当に良かった。
ザリチュの渇砂操作術様々であり、ゴーレムの製造に精を出した甲斐があると言うものである。
『で、本当に今日は動かないんでチュね』
「動かないわ。と言うか、ぶっちゃけ最終日までは引き籠るわよ。だってその方が面白くなりそうだし」
『でチュか』
≪赤の陣営、ブラクロが討伐されました。赤の陣営のプレイヤーが復活できるのは72時間以上経過後、一回だけです≫
≪赤の陣営、スクナが討伐されました。赤の陣営のプレイヤーが復活できるのは72時間以上経過後、一回だけです≫
≪赤の陣営、マントデアが討伐されました。赤の陣営のプレイヤーが復活できるのは72時間以上経過後、一回だけです≫
そうこうしている内にブラクロ、スクナ、マントデアは倒され、レライエとクカタチは一度身を隠したようだった。
うん、倒された三人は最後にきちんと熱黒煙手榴弾を使ったようだし、レライエとクカタチは安全圏で休憩を始めたので、何も問題はない。
予定通りとも言える。
「ふふふ、初日は一進一退と言うところかしらね。夜間についても、襲撃はマチマチどまりと言うところでしょう。そして明日は……」
『明日は?』
「野戦も伴って、一気に激しくなるわよ」
ああ、明日も楽しみだ。
早いところアレを完成させて、観戦に集中できるようになりたいところである。
「あ、夜の間に例の件よろしくね」
『分かっているでチュよ』
では、ザリチュに小細工を任せつつ、寝るとしよう。