341:3rdナイトメア1stデイT-1
タル視点です
≪貴方は赤の陣営になりました≫
「むっ」
「ん?」
「へ?」
「ほう」
「おっ」
「……」
「ひえ」
イベント開始。
と言っても戦争開始までは後30分あって、今は準備期間である。
この間に色々と整えようと思っていたのだが……状況がおかしい。
≪役割を選択してください。……。クイーンが選択されました≫
「白でも黒でもなく赤……ね」
「どうやら第三陣営のようだな」
「第三陣営ですか。どうしてこんなことに?」
「それと何をやるべきなのか、だろうな」
「とりあえず、全員が相応の実力者のようだが……選出基準がよく分からないな」
「……」
「あばばばば……」
まずこの場には私、スクナ、マントデア、クカタチ、ブラクロ、人が入りそうなサイズの箱、それに第二回イベントの本戦で戦ったレライエの七人しか見えていない。
そして、ここは砦の中庭のような場所であると思うのだが、頭上には岩の塊が乗っかっていて、日の光が射しこまない地下の拠点のようだった。
どちらも事前の通知にはなかったサプライズ要素である。
と言うわけで説明を求めるとしよう。
「説明をお願いできるかしら? C7-096」
「おや、お気づきになられていましたか」
「そりゃあ、あからさまだったし」
私は虚空に視線を向け、声をかける。
するとそこから執事服姿の男性が何の予兆もなく表れた。
なお、私が気づいたのは、C7-096が居た場所だけ、呪詛支配が通らなかったからである。
「ではご説明を。簡単に申し上げますと、皆様は今回のイベントのサプライズ要素になります」
さてC7-096の説明をまとめるならばだ。
・戦争に第三陣営はつきものと言う事で、赤の陣営が作られた
・選出基準は自分以外は全て敵、七日間休めないと言う環境でも問題がなく、実力もある事
・役目は今回のイベントをかき乱す事
・なお、人数差を考慮して各種強化……最大HP50倍、満腹度の自然減少無し、装備品の耐久度損耗や個数消費の抑制、スポーン場所の選択可能場所の自由度向上、FAの使用許可、取得ポイント倍率の向上などが入っている
・しかし、ゲームバランスを鑑みて死に戻りに制限があり……一度死んだらゲーム内72時間は復活できず、復活できるのも一度だけ
・総評すると、私たちはボーナスボスのような扱いになっているらしい
「なお、今でしたら、白と黒の陣営、そのどちらかに移籍する事も可能ですが、どう為されますか?」
「「「このままで」」」
「……」
「け、検証班的には残らないわけには……」
「かしこまりました。では、全員、赤の陣営として本登録させていただきます」
うん、面白そうだ。
そして都合もいい。
私がやりたいことが、周囲に気兼ねなく、本当に思ったとおりに出来そうなのは良い事だ。
クカタチたちも、それぞれの思惑と事情から、赤の陣営として動く事を決めたようだ。
「では、転移先が決まりましたら、私にお声をかけてくださいませ」
「あいよ。それじゃあ……ぐえっ」
「はい、ちょっと待ちましょうね。ブラクロ」
では、単独行動をしようとしたブラクロの首にネツミテのフレイル部分を絡ませて引き止めつつ、最初の一手を打つとしよう。
「まずは念のために、各自の名前、プレイスタイル、希望転移先を明かしておきましょうか」
「理由は?」
「全員が全員、顔見知りじゃないし、親しいわけでもない。協力が出来ないわけでもないし、何より転移先が意図せず被ったら碌な事にならないでしょう。最低限の擦り合わせはしておきましょう」
「うおおい!? 呪詛濃度過多に干渉力低下がヤベえんだけど!?」
「あ、ごめんなさい」
私はブラクロを開放すると、全員の顔を一度見てから、自己紹介をすることにする。
「では改めて、私は『虹瞳の不老不死呪』タル。そしてこっちは『渇鼠の帽子呪』ザリチュ。つまりはカース二人組ね。プレイスタイルは邪眼による状態異常攻撃特化だけど、今回は裏で色々とやらせてもらう予定。よって転移はせず、この場に留まるつもりよ。そして……」
私は熱拍の幼樹呪の木材で作ったケースを開き、その中身をこの場に出現させる。
「貴方たちに『熱樹渇泥の呪界』に生息するカースの素材を利用した各種アイテムを提供するつもりがあるわ」
それは毒頭尾の蜻蛉呪の翅剣であり、熱拍の樹呪の葉マントであり、毒炎の呪短剣であり、小分け済みの『死退灰帰』であり、他にも禍々しい気配を放つ物が色々とある。
「約束通り持ってきてくれたわけか。嬉しい話だ」
スクナが毒頭尾の蜻蛉呪の翅剣を手に取り、数度振った後に満足した様子で自分のインベントリに収納する。
「では俺も名乗ろう。俺はスクナだ。プレイスタイルは近接物理特化、と言うところだな。多少のバフ呪術も使うが、基本は斬った張っただ。転移希望先は中央の無所属砦の一つ。開幕両陣営がぶつかり合うところに殴り込みたい」
スクナは二つある顔のどちらでも獰猛な笑みを浮かべる。
「俺はマントデアだ。プレイスタイルは巨体を生かしたゴリ押しと言う事にしておくか。使用呪術は雷を利用した攻撃系。転移希望先は俺も中央の無所属砦だな。相手の態勢が整っていないであろう最初は暴れ回りたい」
以前よりもしっかりとした衣服を身に着け、丸太のような六角棒を持ったマントデアはそう言うと、背中から生えている触手から電撃を出し、バチバチと鳴らす。
「ブラクロだ。プレイスタイルは広域のバフデバフ。と言っても、この状況だとバフの方は使わないだろうな。俺も中央の無所属砦に最初は行きたいな。絶対に暴れ甲斐があるところになるだろ。あそこは」
ブラクロは口の端から牙を剥き出しにするように笑った後、舌なめずりをする。
「私はクカタチと言います。プレイスタイルは……アサシン系になるのかな? 水中でも動き回れるので、出来れば中央の河に飛びたいです。たぶん、泳げるタイプの人たちが沢山出てきて、稼ぎやすいと思うので」
クカタチは人型になった後に、両手を狼の頭に変えて、噛みつくようなモーションを見せる。
「……。レライエ。遠距離狙撃特化。たぶん、この上にあるであろう山と森に行きたい。協力は期待しないで欲しい」
レライエは自身の懐を一度気にした後、上を見る。
まあ、こんな大規模な地下空間がある場所が何処かと言われれば、マトモに考えれば北端の山の下以外にあり得ないだろう。
協力は出来ないと言っているが……まあ、それは全員似たようなものである。
では最後、中から女性の声が聞こえてくる箱のプレイヤーだ。
「え、えーと……検証班のアイムボックスと言います。アイムと呼んでください。普段はプレイヤー所有ダンジョンの検証をしていまして、ダンジョン『箱重なる倉庫』の主になります。転移場所は……森が深いところでお願いします。その、戦闘能力はお察しで、どうして此処に呼ばれたのかも分かりませんが、お願いします」
箱の人は検証班のアイムさん、と。
本人は戦闘能力がお察しと言っているが……ストラスさんではなく彼女が呼ばれたあたり、彼女が思う方向とは別の方向でお察しである。
「で、タル。アイテムを提供するつもりがあるって言うのはどういう事だ?」
「そのままの意味よ。今この場にあるアイテムで、貴方たちのプレイスタイルに合いそうな物があれば、それを渡すって話。代わりに最初の転移でちょっと運んでもらいたいものもあるんだけどね」
では、自己紹介も出来たところで、話を進めよう。
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