340:3rdナイトメア1stデイ-3
ザリア視点です
「せいっ!」
私の突きがブラクロの眼前に迫る。
「ふんっ!」
ブラクロは前進しつつ首を傾けて避け、片方の短剣を頭の高さにまで上げる事で、私の追撃を防ぐ。
「……」
「……」
だから私は一歩後ろに下がりつつ腕を引き、もう一度突きを放つ姿勢を取る。
ブラクロは私にさらに一歩踏み込もうとした。
私の左手から手首のスナップだけで自家製の棘が投じられ、それはブラクロの胸へと向かう。
ブラクロは踏み込もうとした一歩の軌道を着地直前に変え、若干無理な姿勢となりつつ、横に飛び、私の針を回避する。
飛んだブラクロを狙う形で私の突きが放たれる。
ブラクロが短剣を振るって剣を弾き、剣が弾かれたことで多少の隙が生じる姿勢になった私に二本目の短剣が迫る。
だが、その軌道は横薙ぎだったため、私は膝を折り曲げ、体を反らし、剣が弾かれる勢いすらも利用して素早く体を落とす事で、ブラクロの攻撃を掠る程度に抑える。
そして、そのまま左手の手首を軸に一回転して反撃をしようとしたが……
「アオオオオォォォン!!」
「っ!?」
その前にブラクロの咆哮が響き渡り、私は弾き飛ばされ、ブラクロへの遠距離呪術攻撃を性懲りもなく仕掛けようとしていた面々がまとめて自爆した。
いい加減効果がないと学べ、掲示板にもとっくに流れているでしょうが。
そう思いつつも、私は空中で体勢を立て直すと、着地と同時にブラクロへと突撃するべく、斜め前に飛ぶ。
同時にブラクロも斜め前に飛び、そこに居た敵陣営と戦闘中のプレイヤー二人をどちらもまとめて切り倒しつつ、そのプレイヤーを足場にして私へと飛んでくる。
「はははははっ! 流石はザリアだな!」
「お褒めにあずかり光栄ね! ブラクロ!」
ブラクロとの戦闘開始から既に10分ほど。
砦全体の状況について言えば、私が属する白陣営の側に少しずつ傾いている。
これはブラクロの範囲攻撃を黒陣営が居る方向に撃たせるように調整しているからだ。
だがブラクロはまだ倒せず、それ故にか砦の所有権も奪い取れていない。
分かってはいたが、やはりブラクロはタルや千華と同じ別格の側。
キャラのレベルは同じでも、プレイヤーのレベルに差がある。
「っう!?」
「うおしっ! これで……」
ブラクロの攻撃を凌ぎ損ね、短剣が今までよりも幾らか深く入り、火炎属性ダメージ特有の熱さ、毒と灼熱の状態異常に伴う気持ち悪さが入る。
そしてブラクロは既に次の攻撃を入れる態勢に入っている。
私が一人であれば、詰みだっただろう。
そう、一人であれば。
「スイッチだ」
「だろうな!」
ロックオが私とブラクロの間に割り込んで、構えた盾で攻撃を凌ぐ。
「回復します!」
同時にシロホワが回復呪術によって私のHPを回復。
「ふんっ!」
「はっ!」
「ぶっ潰したらぁ!」
「来いやあぁ!」
続けて周囲のプレイヤーの内、手が空いている面々がブラクロへの攻撃を敢行。
相打ち上等で突っ込んで、ダメージを与えていく。
恐ろしい事に相打ち上等で突っ込んでもダメージを与えられているプレイヤーは一部だけで、大半はよくて一方的に屠られ、悪ければ蹴りなどで吹き飛ばされて将棋倒しの駒にされるし、全方位から取り囲んでいるのに、気が付けば包囲網から抜けられているのだが。
「すぅ……」
ブラクロが少しだけ大きく息を吸い込んだ。
咆哮による範囲デバフかノックバックだ。
「回れ!」
それを見て素早くカゼノマが呪術を発動、ブラクロの向きを数度ではあるが強制的に変える。
他のプレイヤーたちも衝撃に備える。
扱いが完全にボスのそれであるが、下手なボスよりもはるかに強いのが今のブラクロなので、当然の扱いとも言える。
「はあああぁぁぁっ!」
ブラクロの口から衝撃波が放たれ、効果範囲内に居た少数の白陣営と、多数の黒陣営をまとめて吹き飛ばす。
そして、ブラクロは真っ直ぐに突っ込んでくる。
私の方へと。
どうやら全快にまでは持って行かせてくれないらしい。
「そろそろ決めようぜ!」
「言われなくても!」
何度目かの剣戟が始まる。
私の細剣とブラクロの短剣がぶつかり合い、火花だけでなく火炎も撒き散らす。
お互いに少しずつHPが削れていく。
しかし私は周囲からの回復でHPが回復するが、ブラクロの味方はこの場には居らず、回復アイテムを使う暇もない。
故に、少しずつだがブラクロのHPだけが減っていくと言う結果が生じる。
「せいっ!」
そして、何十度、場合によっては百回以上放たれた私の突きが、ブラクロの頬を掠める。
反応は劇的だった。
「あー、クソ……塵も積もれば山となるだな……まさかカスダメが重なり過ぎて落ちるとは……な……」
悔しそうではあるが、同時に軽くもある言葉に合わせて、ブラクロの体がゆっくりと崩れ落ちていく。
どうやらブラクロのHPを削り切る事に成功したらしい。
「とりあえずこれは置き土産だ。喜んで受け取ってほしい」
「ちょまっ」
が、流石の諦めの悪さと言うべきか、ブラクロの懐から、怪しげな木箱が石の床に向かって落ちて行く。
それはブラクロが倒れ切ると同時に床とぶつかり……
「タアアアァァァル! これもアンタの仕込みでしょ!!」
爆発。
木箱から生じた大量の黒煙は人の体を焼くのに十分な熱量と、触れた人間にまとわり続けると言うえげつなさを持ち合わせており、爆心地に居た私が逃れる事は不可能だった。
≪赤の陣営、ブラクロが討伐されました。赤の陣営のプレイヤーが復活できるのは72時間以上経過後、一回だけです≫
≪砦2-2を白の陣営が獲得しました≫




