339:3rdナイトメア1stデイ-2
ザリア視点です
「後1キロってところかしらね」
「流石に一番乗りは無理でしたね」
「まあ、カーキファングに足で勝てと言われてもな」
戦争開始と同時に私たちは砦の外に飛び出し、視界の左右に上手くやれば何人か隠れられそうな森を捉えつつ、中央の無所属の砦へと向かっていく。
が、一番槍についてはカゼノマの言う通り無理だった。
流石にカーキファングのように獣そのものの機動力を持っている面々や、何かしらの高速移動手段を有している面々に追いつくことは出来ず、砦から1キロほど走ったところで、私たちは無理のない程度に急ぐ……巡航速度とでも言うべき速さに切り替え、先遣隊ではなく本隊に近い動きをすることに決めた。
「……」
「そうですね。本隊でも先頭に居る。なら、戦場がどう転ぶにしても、私たちの働きが重要だと思います」
「そうね。気を引き締めて……ん?」
と、視界の隅で何かが動いて茂みが揺れ、一瞬だがネズミの尻尾のような物が見えた気がした。
その音と動きに私は思わず細剣に手を付けた。
「どうかしました?」
「いえ、そこの茂みで何かが動いた気がしたのだけど……」
「気のせいだろ、あそこに隠れられるのはネズミのような小動物くらいだ」
「そうね。普通のネズミだと思うわ。小動物が居るのには驚いたけど、それだけね」
が、敵ではなくただの小動物だったので、私は直ぐに手を放し、中央の砦へと向かう。
「無所属のままね」
「ですね。急ぎましょう」
砦の門は開け放たれており、どちらの旗も上がっていない。
中からは剣戟と爆発の音が悲鳴も混ざる形で聞こえてきており、戦闘は既に始まっているようだった。
恐らくだがカーキファングたちと黒の先遣隊が既にぶつかっているのだろう。
私たちは砦の中へと突入し、一番戦いの音が激しい場所に向かって真っすぐ進んでいく。
「アオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォン!!」
「ごがっ!?」
「っ!?」
「これは!?」
「兄ぇ……」
そうして砦の中心部、砦を占拠するために必要な部屋に辿り着いた私が聞いたのは、いつも間近で聞いている咆哮。
見たのは見慣れない炎と呪詛を纏った短剣を両手に持ち、カーキファングを切り裂いて、死に戻りさせるブラクロの姿。
そしてブラクロに襲い掛かるのは、私たち白の陣営だけではなく……
「第三陣営なんて聞いてねえぞ! ごらげがああぁぁ!?」
「そりゃあサプライズの一環だからなぁ!! はっはっあぁぁ!!」
黒の陣営もだった。
「さあぁ! ドンドン来い! 全員ぶった切ってやる!」
強化されている。
白も黒も関係なしに攻撃し、その悉くを一撃、多くとも三回程度の攻撃で仕留めるか、最低でも継戦不可能な状況に追い込んでいく。
あの短剣の性能もあるだろうが、明らかに普段のブラクロではあり得ない強さになっている。
「こなくそがああぁぁ!」
「相手は一人だ!」
「数で押し切れええぇぇ!!」
「バッチコーイ!!」
ブラクロに向かって10人近いプレイヤーが同時に襲い掛かる。
得物は剣、槍、呪術もあった。
だがブラクロは飛び蹴りで最初の一人を吹き飛ばし、短剣で盾も鎧も関係なく周囲の相手を切り裂き、大きく跳ねて呪術を躱した上で、壁を蹴って後衛の位置に飛び込んで、短剣、両足、狼の頭の牙、その全てを使って食い荒らしていく。
こちらの攻撃は時折掠るが、直撃はせず、カウンターによって被害はさらに拡大していく。
まるで狼男の姿をした小さな竜巻のようだった。
「おっ」
「鑑定結果出ました!」
私はブラクロに向かって駆け出す。
それと同時に視界の隅にブラクロに対する鑑定結果が表示され、アナウンスが流れた。
△△△△△
『蛮勇の呪い人』・ブラクロ レベル30
HP:63,785/64,500
役職:赤のポーン
▽▽▽▽▽
≪サプラアアァァイズ! 第三陣営、赤の陣営が確認されました。倒せば、多くのポイントを得ることが出来ます≫
分かってはいたが超強化されている。
HPは50倍に増えているし、これまでから見て干渉力も強化されているだろう。
この分だと、出所不明と言う事にしておきたい短剣以外にも、色々と追加されていそうだ。
「バレたか! その通り!! 俺は第三陣営、赤の陣営だ! さあ、この砦が欲しかったら俺を倒して見せ……うおっ!?」
「せいっ!」
いずれにせよ倒す事に変わりはない。
私はブラクロに向かって突きを繰り出す。
が、ブラクロは横に飛んで攻撃を回避する。
「ふんっ!」
「はっ!」
「風よ!」
「うおおおぉぉい!? お前ら容赦ないにも程があるだろ!?」
「普段が味方だからこそですよ! そんなことも分からないんですか!?」
そこへブラクロの回避方向を読んでいた他の面々による攻撃が行われ、私たちの攻撃から一拍置く形で周りのプレイヤーたちによる攻撃も行われる。
「うおおおおおぉぉぉ! 唸れ俺の脳細胞!!」
「さっきまでの強敵な雰囲気をどこにやったんだよ。お前は!」
「そんな余裕はない!!」
だがその全てが凌がれる。
避けられ、弾かれ、出先を潰され、ブラクロの余裕がなさそうな言動とは裏腹に、確実に捌かれていく。
本当は私も攻撃を加えたいのだが……この場には黒の陣営も居て、その一部はブラクロではなくこちらに向かって来ており、私はそちらに対処する。
「おらぁ!」
「……」
ブラクロの攻撃がロックオに向かう。
ロックオはそれを盾で受ける……のではなく、微妙に角度を付けて、軌道を反らす。
「属性攻撃、毒に灼熱か。随分と上等な武器だな」
「そのくせ、ほぼデメリットなしだ。流石はカース素材だよな」
二度、三度と受け、他プレイヤーの攻撃が向かってきたために両者は離れる。
と言うかカース素材って……分かってはいたが、やはり出元はあそこらしい。
「味方ごとで構わん! 絨毯爆撃だ!!」
「げえっ!」
「退避っ! 退避いぃぃ!!」
「おっ」
と、黒の陣営の遠距離攻撃呪術持ちによる一斉射撃が始まろうとしていた。
それを見て、私たち以外の白の陣営は退き、私はブラクロに向かって駆け出し、ブラクロは黒の陣営に向かいつつ息を吸う。
残念ながら、この場の黒の陣営の指揮官クラスはブラクロのスタイルをよく分かっていなかったらしい。
「はっ……」
「アザアアアアアァァァァァァス!!」
「「「!?」」」
ブラクロの咆哮が放たれ、空間が震える。
その震えは呪術の発動をミスらせ、一部はファンブル、自爆。
そして集団の一部が起こした自爆は周りに影響を及ぼしていき、そのまま大規模な自爆に繋がっていき、呪術を一斉に放とうとしていた黒の陣営の集団は文字通りに吹き飛び、壊滅する。
「ブラクロオオォォ!」
「ははっ! そりゃあ普段から一緒なら怯まないよな!!」
そう、ブラクロはサブタンクもサブアタッカーも、その他細かい諸々もこなせるが、メインは広域のバフデバフを操る補助要員。
だから海月呪との戦いでタルが見せた活躍から学び、相手の溜めを要する攻撃を潰すためのデバフ系呪術も持っているのだ。
故に今のブラクロと戦うなら、何かしらの溜めが必要な技は論外なのだ。
「私のポイントになってもらうわよ!」
「それは俺のセリフだ!」
だが、ありがたいことに、これでほんの数合分と言えど、ブラクロと周囲の警戒をせずに戦える状況になった。
だから私は突きを繰り出し、それを短剣によって防がれると、細剣を素早く引き戻す。
そして、スクナの道場で学んだ隙のない構えを取り、素早く連続での突きを放った。