337:3rdナイトメアプリペア-1
「ログインっと」
さて、今日は2019年8月11日、日曜日。
と言うわけでイベント『呪われた戦場の悪夢』の当日である。
『結局、例のアレは完成しなかったでチュねぇ……』
「まあ、イベント中に完成させることを目指しましょう。後は本体の仕上げとその後の処理だけだから、適当な空き時間に進めればいいわ」
木曜日から土曜日までの間、私はイベントでのお披露目を目指して、とある物の準備をしていた。
まあ、結果は見ての通りで、間に合わなかったのだが。
なお、イベントの準備そのものについては、土曜日の登録時にC7-096からこう言われている。
『素晴らしいですタル様。本当に一人で他のプレイヤー全員を相手にされるつもりなのですね』
要するに、準備は入念に、十全に、整っていると言う事である。
「さて、まずは聖女様を探さないと。ザリチュ」
『ええぇぇ……嫌でチュよ。あんな汚物の位置を探るなんて、ざりちゅはネズミでチュけど、ネズミだって嗅ぎたくない臭いはあるんでチュよ』
では話をイベントに戻そう。
今はイベント本編開始前の交流マップに私は居る。
予定ではリアル時間で30分後、ゲーム内時間で一時間半後にイベント本編が開始し、それから7時間ぶっ通しで戦争となる。
交流マップについては今までのイベントと大して変わらず。
だが私とザリチュには各種制限がかかっていて、周囲に悪影響を与えないようになっている。
ちなみに、交流マップでの私の異形度は『遍在する内臓』が適用されているため、さりげなく3に上がっている。
「いいから探しなさい」
『分かったでチュよ。……。こっちでチュ』
まあ、『CNP』の公式イベントもこれで三度目と言う事で、交流マップは賑わいつつも落ち着いている。
なので私はザリチュの先導に従って、熱拍の幼樹呪の木材で作った大型ケースを引きずりながら交流マップを移動していく。
『居たでチュよ』
「ありがとうね。ザリチュ」
そうして街中を移動する事10分ほど。
私は二人でお茶会をしている聖女ハルワと聖女アムルを見つける。
で、私が見つけると同時に二人も私を認識、聖女ハルワはあからさまに嫌そうな顔を浮かべ、聖女アムルは含みのある笑みを浮かべる。
「こんにちは、聖女様」
「呪限無の化け物が何の用かしら? 折角のお茶会を邪魔しないでもらいたいのだけど?」
「相変わらずね」
「うふふ、どうぞ座ってください。ああ、その下品で悍ましい方向で煌びやかになった帽子型の汚物については脱ぐと同時にどこか遠くに投げ飛ばすか、焼却処分……いえ、焼却時の煙も有害でしょうから、凍結粉砕処理にでもかけていただけると幸いです」
『チュアアアアアアァァァ! 変わらずでチュねぇ! この糞ビッチ放蕩淫乱似非聖女は! ざりちゅのセンスが悪い!? そんな見方しか出来ないのなら、頭蓋骨に穴開けて、脳みその代わりに花粉を詰め込んでやってもいいんでチュがぁ!?』
「本当に相変わらずね……」
やはりザリチュと聖女アムルの相性は極めて悪いらしい。
両方の言葉が聞こえる私は苦笑いするしかないが、聖女ハルワも微妙に困った感じの表情をしている気がする。
「それで用件は? 名実ともに呪限無の化け物になった貴方との会話なんて、出来る限りしたくないのだけど」
「ちょっとしたお礼も兼ねて、こっちで使わないアイテムを引き取ってほしいのよ」
「お礼?」
「アイテムですか」
『ぺっ、ざりちゅは話の最中は黙っておくでチュよ。たるうぃ』
まあ、話を進めよう。
私はズワムの糞が最小単位量だけ入った袋を聖女アムルに渡す。
「……。一体どこでこれを?」
「勿論、呪限無で。その様子だと喜んでもらえそうね」
「呪限無の土? でもそれにしては……」
袋の中身を確認した聖女アムルはズワムの糞の性質を直ぐに理解したらしく、困惑しつつも量が欲しいと言った感じの表情を私に向けた。
「正確には蚯蚓型の大型カースの糞ね」
「……」
私の言葉に聖女アムルは思わず袋を放り出しそうになるが、寸でのところで抑え、袋の口を入念に縛り上げたうえで、下の石畳に置いた。
「蚯蚓の糞は農業に良いらしいわよ」
「知っているわ……。この糞がそれだけじゃないのもね」
「なるほど。これは確かに使い物になりそうですね。何処かの汚物と違って」
『我慢でチュ。我慢でチュよぉ、ざりちゅうぅ……』
で、直ぐに聖女ハルワが袋を手に取って、中身を確認した。
「で、確認したいんだけど、今この場でこれを大量に出現させるアイテムを貴方に渡したとして、現実に持ち帰ることは出来る? ほら、ここって一応夢の中だから、その辺がちょっと気になるのよね」
「可能よ。とは言え、この土そのものを何百キロと渡されたら持ち帰れないでしょうけど」
「なるほどね。じゃあ、これを渡すわ。1トン分くらいあるから、うまく活用して頂戴」
「……。分かったわ」
私は聖女ハルワにズワムの糞を出現させるための目録を渡す。
この場で渡せなかったら、繋ぎだけ取っておいて、イベント後に適当なプレイヤーを捕まえて持って行ってもらう予定だったが、この場で渡せてなによりだ。
「でもよいのですか? カースタル。このような貴重品を大量にだなんて」
「そちらにとっては貴重品かもしれないけど、私にとっては不要の品なのよ、それ。だから何も問題はないわ」
「そうですか。では、ありがたくいただきますね」
「まあ、感謝はするわ……ありがとう」
「ふふっ、こちらこそ感謝しているわ。色々とね」
と言うわけで、イベント前に最低限するべき事は終了、と。
「じゃあ、私はこれで失礼するわ。不老不死の存在同士の戦争、楽しんでいってもらえると幸いね」
「貴方が活躍しなければ楽しめるのは分かっているから大丈夫よ」
「その汚物以外の活躍を願っていますね。カースタル」
私は聖女様たちに背を向けて、移動を始めた。
これで後はイベント開始まで適当に時間を潰すだけである。
『で、いいんでチュか?』
「何がかしら?」
『姉の方に『七つの大呪』の一つ、『不老不死』の呪いとの関係を問う事でチュよ。声が一緒だったことや、『不老不死-活性』のフレーバーテキストからして、関わりがあるのはほぼ間違いないと思うでチュよ』
「ああその事。今はしても意味がないし、何かがあったら対応が出来ないもの」
ザリチュが先日の件と関わりがある事を尋ねてくる。
だが、最初の私のお礼と言う言葉に首を傾げた事からして、聖女ハルワは恐らく無自覚だろうし、今この場やイベント終了直後に『七つの大呪』が暴れるような事態になっても困る。
なので、今この場で話を進めるべきではないだろう。
それにだ。
「後、楽しい楽しいイベントが直ぐそこで待っているのよ? そっちに集中させてよ。ああ、どんな未知が披露されるのかしら、今から七日間が楽しみで仕方がないわ」
思わず笑みを浮かべてしまう程度には楽しみな状況が待っているのだから、本編など後回しでいい。
『まあ、たるうぃはそうでチュよね……』
その後、私はザリアやクカタチと合流し、暫く雑談に興じたところで、運営の万捻さんの言葉と共にイベント開始となった。
イベントの参加人数は42,867人。
順当に分けられれば、どちらの陣営も2万人を超える事になるだろう。
さあ、戦争開始である。
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