336:メイクアイテムフォーアザーズ-2
「さて、型はこんな感じでいいわね」
『突然何かと思ったでチュよ……』
私はまず熱拍の幼樹呪の木材を使って、直方体の型を作った。
また、この型に沿うように蓋も作ったし、垂れ肉華シダ、熱拍の幼樹呪、喉枯れの縛蔓呪の繊維を組み合わせて織った布も準備した。
『で、何を作るんでチュか?』
「バター、ラード、近いものを上げるならその辺……いえ、軟膏の方が近いかしら? まあ、上手くいったら美味しい、失敗したらそれはそれでと言うアイテムね」
『脂……と言う事はアレでチュか。いいんでチュか?』
「調理判定なら使いたい放題にしてあるから大丈夫だと思うわ。それにさっきも言ったけど、失敗したらしたで別に構わないのよ」
私は適当な鍋の中に固形分多めの設定にしたズワムの油……いや、脂を投入、加熱。
温度が高まったことによって、少しずつズワムの油は溶けて柔らかくなっていく。
「『ダマーヴァンド』の毒液、蜻蛉呪の挽き肉、目玉呪のゼラチン、縛蔓呪の球根の中身……」
『うーん、見事に異形度を変化させる可能性のある素材ばっかりでチュね……』
「偶像ライムの搾り汁、マンドラゴラモドキ、各種ハーブ類……」
『これ、調理判定になるんでチュか?』
鍋の中に細かく刻んだ具材を投入して、よくかき混ぜていく。
後、ザリチュが変な事を言っているが、現状では全部食べられるものである。
少なくとも昨日の熱拍の樹呪の根粒よりはマトモな食材だ。
だからこれは調理判定になるはずだ。
「距離を取って『恐怖の邪眼・3』」
『当たり前のように邪眼術を調理に用いるスタイルでチュね……』
私は距離を取って、『呪法・貫通槍』による強制変換を乗せた『恐怖の邪眼・3』を鍋に撃ち込む。
すると鍋の中身が小刻みに震え出したので、具材ごとに仕分けられないように大きくかき混ぜつつ、恐怖が鍋全体に染み渡るようにする。
「じゃ、これを型に流し込むわよ」
『なんかバターと言うより豆腐とかの作り方じゃないでチュか? これ』
「そうかもしれないわね」
やがて水分がだいぶ飛んできて固まってきたところで、最初に作っておいた熱拍の幼樹呪の木材の型の中に布を敷き、その上から鍋の中身を型の中へと入れていく。
「ま、いいから作業を進めましょう。『飢渇の邪眼・1』『重石の邪眼・2』」
『新しい邪眼術の最初の使い方がこれでいいんでチュかねぇ……』
型の上に蓋を置いたら、『飢渇の邪眼・1』で乾燥を促進しつつ、『重石の邪眼・2』で蓋を重くして脱水をさらに進める。
「何も問題はないわね。むしろ、こういう場面でも問題なく使える、いい邪眼術だと私は思うわ」
十分な脱水が行われた結果、ズワムの油は型と同じ形をした脂の塊になった。
ただ、カチカチと言うわけではなく、指で表面をなぞれば、なぞっただけ指に脂が付く程度の柔らかさと粘性は持っている。
うん、色んな意味でちょうどいい感じだ。
「さ、仕上げよ」
『でチュね』
私は型に敷いていた布ごと脂を持ち上げると、呪怨台に乗せる。
そして、私が意図したようなアイテムになるように、寄って来た『七つの大呪』含めて干渉、変質させていく。
≪タルのレベルが24に上がった≫
「出来上がりね」
そうしてアイテムは無事に完成した。
ついでに珍しいタイミングでレベルも上がった。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』の呪詛薬・『堕即』
レベル:22
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:19
『虹瞳の不老不死呪』が作り出した、一時的に異形度を上げる呪詛薬。
この世の物とは思えない気配を漂わせており、普通の人間ならば目にしただけでも気を失いかねない。
袋の中にはおおよそ1キログラムの油脂が入っている。
体内に摂取すると、呪い『堕即』を一時的に得て、異形度が1上昇する。この効果は一度発動してから、摂取量に応じた時間が経過するまで続く(1グラムにつき1時間程度)。
呪い『堕即』:ランダム選出された自分の体の部位が、自分の体のランダムな部分に生じる。生じた部位はランダムに活動する。不老不死の呪いに干渉して発動するため、生じた部位は切除しても復活し、死に戻りが行われても解除されない。
注意:経口摂取の場合、摂取してから呪いが発動するまでに2時間程度の時間を必要とする。
注意:容器の中身を小分けにして長期保存する場合には、カースの素材を用いた容器に分けなければ、効果が失われる。
注意:異形度19以上のプレイヤーには効きません。
▽▽▽▽▽
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル24
HP:1,202/1,230
満腹度:123/150
干渉力:123
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の達人』、『灼熱の名手』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『重石の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『風化-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2
▽▽▽▽▽
「うん、いい感じの妨害アイテムが出来たわね」
『いい感じじゃなくて、凶悪な、だと思うでチュ』
「じゃあ、いい感じに凶悪で、と言う風に行きましょうか」
実験は……この場では出来ないか。
私の異形度は21だし。
それと不老不死の呪いに干渉して作用する以上、プレイヤー以外には効果がないのではないかとも思う。
かといってイベント前に披露してしまうのも勿体ないので、ぶっつけ本番で使うとしよう。
上手く使えば、面白いものが見れることだろう。
とりあえず今は布に紐を通して、持ち運びと保存がし易いようにしておくとしよう。
なお、味は極普通の脂と言う感じだ。
『と言うか、このアイテムの応用形として、異形度だけを上げるアイテムとか作れないんでチュかね? 需要はあると思うんでチュけど』
「それは『死退灰帰』でいいんじゃないかしら? あっちなら異形度が3も上がるし」
『それもそうでチュね』
後はこれを量産するかだが……うん、ちゃんと調理判定になっていたからか、ズワムの油は減っていない。
よし試して……あ、珍しく失敗した。
まあ、そんなに量が必要なアイテムでもないだろうし、イベントまでに増やせる範囲で増やせればいいか。
「じゃあ、今日はここまでで」
『分かったでチュ』
今日は一気にイベントへの準備が進んだ。
そんなことを思いつつ、私はログアウトした。
11/25誤字訂正