334:タルウィヘビィ-1
「じゃあ次は邪眼ね」
『削りカスの中でも大きな欠片は残していたでチュね』
「ええそうよ。で、これを上手く煮たり炒めたりしようかなと思うのよ」
私はいつも通りに毒液を鍋に入れ、沸騰させる。
そして、適当なサイズの網に熱拍の樹呪の根粒の削りカスと言うか欠片を入れると、沸騰中の毒液に投入する。
『一応言っておくでチュけど、熱拍の樹呪の根粒って要するに植物の根の一部でチュからね』
「つまりはゴボウやジャガイモの……」
『違うでチュからね。一般的には食べるものではないでチュからね』
「大丈夫よ。世の中には食べられる木の根だってあるらしいから」
『それはそういう植物であって、熱拍の樹呪は違うと思うでチュよ』
「まあ、邪眼術修得の為であって常食するわけじゃないんだから、大丈夫でしょう」
そうして暫く煮てみたが、どうやら単純な加熱だけでは難しそうだ。
と言うわけで、鍋から一度網を上げて、代わりに残ってたズワムの灰を投入。
しっかりと沸騰させた後、少しだけ放置して冷めたタイミングで再び網を入れる。
まあ、わらびの灰汁抜きのようなものだ。
「おっと、あまり長時間はやらない方がよさそうね」
『流石はズワムの灰でチュねぇ……』
「中和は……偶像ライムのしぼり汁入りの毒液を準備に投入しておきましょうか」
だが、ズワムの灰に毒液の組み合わせでは少々強すぎたのか、必要な成分……呪いまで欠片から失われてしまいそうだったので、灰入り毒液を沸騰させる間に作っておいたもう一つの液体に今度は漬ける。
うん、いい感じに締まってきた気がする。
「常食するなら、この辺の理想的な手順についてはしっかりと考えてないといけないんでしょうね」
『まあ、常食するならそうなると思うでチュよ』
その後は何も入れていない毒液でひたすらに煮た後、磨り潰し、ペースト状になったものを麦の粉と混ぜて焼く。
「じゃあ、呪いましょうか」
『でチュね』
見た目は……まあ、普通のパンと言うか団子のようになった。
では、呪怨台に乗せよう。
「私は虹色の眼に新たなる邪な光を与える事を求めている」
呪怨台へと赤と黒と紫の霧が集まってくる。
まあ、今回は呪怨台で呪っている間に邪眼術による手を加える必要はないだろう。
「睨みつけたものへ重石を与え、負荷をかけるような力を求めている」
霧が幾何学模様を描いていく。
「望む力を得るために私は呪いを帯びた根を食らう。我が身を以って与える呪いを知り、重さを知り、我が力とする」
霧が灰色に染まっていく。
「どうか私に機会を。覚悟を示し、重石の邪眼を手にする機会を。我が身に新たなる光を宿す重き呪いを」
そして霧が落ちて行く。
まるで自分自身の重みに負けたかのように。
その上で呪怨台の上にまで引きずり上げられ、団子の中へと飲み込まれていく。
「出来上がりね」
『でチュね』
やがて呪怨台の上にはほぼ見た目に変わりがない団子が一つ乗っていた。
と言うわけでいつものように鑑定。
△△△△△
呪術『重石の邪眼・2』の団子
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:19
変質した毒を含んだ見た目よりもはるかに重たい団子。
覚悟が出来たならばよく噛んで、胃に収めるといい。
倒れずにいられれば、君が望む呪いが身に付く事だろう。
▽▽▽▽▽
「本当に重いわね……」
サイズとしては手のひらに収まるどころか指で摘まめる大きさであり、団子しての柔らかさもきちんとあるのだが、重量だけはまるで金属の塊のようである。
「味は悪くないわね」
『2である事に対するツッコミはなしでチュか』
これ以上は食べないと何も言えない。
と言うわけで、私は団子を口に入れ、よく噛んで細かくしたものを胃の中に収めていく。
「っう!?」
そうして食べ終わった直後に全身が重くなった。
私は思わずネツミテを両手で掴んで地面を突き、それを支えとすることで重量の増大に耐える。
『空中浮遊』は?
重くなった直後には足の裏が床に触れ、今は少しずつ戻っているが、戻るスピードが明らかに普段よりも遅い。
表示された状態異常は?
重量増大(120)。
では、私の体重が120キログラム増えたと言う事か?
「違う……わね……」
いや、それにしては軽すぎる。
耐えられ過ぎている。
全身に分散させる形と言えども、自分の体重が急に約3倍になって耐えられるとは考えづらい。
「……」
私は自分の内側に意識を向ける。
どういう呪いが絡みついているのかを、私の体を正常な状態に戻そうとしている『不老不死』の呪いを介して、探る。
結果、理解した。
「なるほど……固定値増加と割合増加ね……」
重量増大は魅了や暗闇のように、同一表記でも複数の種類があるタイプの状態異常だ。
具体的には、相手の大きさや元の重さに依らず固定で重量を増やす部分と、相手の元の重さに応じて重量を増やしているものがある。
前者が質量を増やし、後者がGを増していると考えれば分かり易いだろうか。
そして、私がそれを理解すると共に、私の視界に表示されている重量増大(120)が、質量増大(20)と重力増大(100)に分離した。
なるほど、体重が20キログラム増えた上で、2Gになったと言うところか。
それならば、ギリギリでも私が耐えられる重さで収まっているのは分かる。
≪呪術『重石の邪眼・2』を習得しました≫
「ふぅ……終わったわね」
『みたいでチュね』
そうして重量増大……正確には質量増大と重力増大の仕様を理解して暫く、状態異常が治ると共に、習得したと言うアナウンスが流れた。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル23
HP:1,217/1,220
満腹度:112/150
干渉力:122
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の達人』、『灼熱の名手』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『重石の邪眼・2』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『風化-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2
▽▽▽▽▽
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『重石の邪眼・2』
レベル:25
干渉力:110
CT:30s-120s
トリガー:[詠唱キー][動作キー]
効果:対象に中確率で質量増大(1)+高確率で対象周囲の呪詛濃度-10の重力増大を与える
貴方の目から放たれる呪いは、敵がどれほど堅い守りに身を包んでいても関係ない。
全ての守りは破れずとも、相手の守りごと重くしていってしまうのだから。
注意:使用する度に満腹度が3減少する。
注意:レベル不足のため、使用する度に重力増大(1)を受ける。
▽▽▽▽▽
「……」
『どうしたでチュか? たるうぃ』
「いや、一瞬弱いと思ったんだけど、これと『小人の邪眼・1』を組み合わせたら酷いことになりそうだなと思って、それなら妥当かと思っただけよ」
『確かに小人サイズで体重が13キログラムの何倍と言う形で増えたら、酷いことになりそうでチュね』
うん、少し考えて使えば、桁違いに強い。
小人との組み合わせもそうだが、単純に敵に使って動きを鈍らせてもいいし、空を飛んでいる相手に使って落としてもいい。
少し変わった使い方になるだろうが、盾役の味方に使って敵に吹き飛ばされないようにする、と言うのもあるだろう。
『それにしてもこれで『禁忌・虹色の狂眼』を除いて13個でチュか。たるうぃの目の数と一致したでチュね』
「特に何かがあるわけじゃないけどね」
さて、これで私は毒、灼熱、気絶、沈黙、出血、小人、干渉力低下、恐怖、乾燥、暗闇、魅了、石化、重量増大(質量増大+重力増大)の状態異常を手にしたことになる。
で、見返してみると……まあ、私自身の性質にもよるのだろうが、一般的なRPGで言うなら、物理、炎、土、闇と言った方向に随分と偏っている気がする。
邪眼の数と同じで特に何かがあるわけではないが。
「うーん、次はズワムの歯でレベルドレインっぽい邪眼を作りたいし、邪眼術を作るのは一段落かもしれないわね。これ以上増やすと扱いきれなさそうな気もするし」
『それは確かにそうかもしれないでチュねぇ』
ま、これだけあればだいたいの状況には対処できるだろうし、此処から先はこれまで以上に増やす邪眼を考えて動くとしよう。
「さて、時間もいい感じだしログアウトするわ」
『分かったでチュ』
とりあえず今日の『CNP』はここまでにすることにした。
11/23誤字訂正