333:ヒートビートルート-1
「さて、ザリチュ」
『腕の準備なら出来ているから安心するでチュよ』
『ダマーヴァンド』に戻ってきた私は慎重に毛皮袋から五つの熱拍の樹呪の根粒を取り出して、床に並べる。
分かってはいたが、熱拍の樹呪の根粒の重量はおかしい。
毛皮袋から床に出す度に、ゴンとか、ドンとか、そう言う音が鳴った上で、周囲の地面が微妙に揺れている感じがする。
『ダマーヴァンド』第五階層は特殊な空間なので、地面が抜ける心配はないのだが、それでもこの重さには恐怖を感じる。
「ありがとう。じゃあまずは形を整えて、卵型に近づけますか」
『分かったでチュ』
まあ、作業をしてしまおう。
と言うわけで、床をきちんと掃除した上で、ザリチュに腕ゴーレムを操ってもらい、熱拍の樹呪の根粒を卵型かつ五つとも同じサイズになるように削っていく。
削りカスは……やはり風化せずに残っているか。
『熱拍の幼樹呪の心材と同じで、細かくなってもなお呪いの塊って事でチュかね』
「そういう事でしょうね。この削りカスについては後で邪眼の習得に使いましょう」
と言うわけで、私は削りカスを集め、ザリチュには引き続き作業をしてもらう。
『奇麗に削れたでチュよ』
「ありがとう。じゃあ、表面を少し削って、装飾を施していきましょうか」
『それ、必要なんでチュか?』
「機能的にはたぶん不要ね」
私は自分の両腕の制御を捨てる代わりに、腕ゴーレム二本の制御権を取る。
これで私が思った通りに腕ゴーレムを動かせる。
そして、奇麗な卵型になった熱拍の樹呪の根粒の表面を少しだけ削る。
その後、制御権を戻して、私自身の手で毒頭尾の蜻蛉呪の甲殻を薄くした物を、熱拍の幼樹呪の赤樹脂を使って貼り付けていく。
「でも、オブジェとして飾る事になる可能性が高い物なのよ? 少し前ならともかく、今は見た目にも拘りたいじゃない。技術も道具も素材も揃っているんだから」
『なるほどでチュ。まあ、急ぎの案件があるわけでもないでチュからね。たるうぃの思う通りに作ればいいと思うでチュよ』
「ありがとう。ま、そんな何処かの美術館に飾る事を考えてもいいようなレベルで拘る気はないから安心して」
これを何度も繰り返して、奇麗な卵型になった熱拍の樹呪の根粒に、垂れ肉華シダをモチーフとした装飾を施していく。
なお、選んだモチーフが垂れ肉華シダなのは、私の知る中で最も呪詛を吸い取り、有用な効果をもたらすのが垂れ肉華シダだからだ。
まあ、そうでなくとも、蔓とシダの葉の模様ならば、飾っておくにはちょうどいい模様だろう。
「これで良し」
『作業完了でチュか?』
「いいえ、これの表面に毒液、赤樹脂、さっきの削りカスの中でも細かいもの、ああそれと、残っているズワムの灰も少しだけ混ぜましょうか。で、混ぜたものを薄く塗って、表面をコーティングね」
『ざりちゅのゴーレムに水気は厳禁でチュよ』
「分かっているから、ザリチュは支えてくれれば十分よ」
続けて私は熱拍の樹呪の根粒の表面に、特製の混合物を塗り付けていく。
熱拍の樹呪の根粒の表面は多孔質でどうにも軽いと言うか、呪詛を吸い取ってもちょっとした刺激で簡単に排出もしてしまいそうな感じがあるため、それを抑える感じだ。
なお、毒液を使ったのは『ダマーヴァンド』との繋がりを考えてであるし、ズワムの灰は余計な繋がりを排除する為である。
赤樹脂は……まあ、接着剤として働いてくれれば十分だ。
レベル不足については大丈夫だと信じよう。
「塗り忘れもないし、これでよさそうね。じゃあ、呪いましょう」
『分かったでチュ』
と言うわけで作業完了。
私は出来上がった物体を一つずつ運び、呪怨台に乗せていく。
「『ダマーヴァンド』の呪詛管理を手伝ってくれるように……追加のタンクになってくれるように……」
込める念はシンプルにしておく。
余計な機能は求めない方がいい。
少量と言えどズワムの灰も使っているし。
「よし完成」
無事に五つのオブジェが完成したので、『鑑定のルーペ』を向けてみる。
△△△△△
呪詛貯蓄ツール-『ダマーヴァンド』
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:19
『ダマーヴァンド』に蓄えることが出来る呪詛の量を増やすツール。
見た目は見事な装飾が施された卵型のオブジェである。
手をかざす事で使用できる。
貯め込んだ呪詛を熱と質量に変換して、周囲への攻撃も可能。
呪詛管理ツール-『ダマーヴァンド』とリンクしている。
呪詛貯蓄量:0/1,500,000
注意:レベル不足のため、呪詛管理ツールとのやりとりに制限がかかります。
注意:呪詛を貯め込み過ぎると暴走します。
▽▽▽▽▽
「あ、既にリンクしているのね」
『まあ、そういう風に作ったんでチュから、妥当じゃないでチュか』
どうやら呪詛貯蓄ツールは個別に呪詛を蓄えるらしい。
で、レベル不足の現状だと、本体である呪詛管理ツールとのやりとりに制限がかかり、本体が蓄えている呪詛を移すのに時間がかかるらしい。
周囲への攻撃については……ある種の自動防衛システムのようなものか。
とりあえず私と私のフレンド、それから人間とネズミのNPCには攻撃しないように設定しておこう。
「これなら設置場所はきちんと考えるべきね」
『具体的には?』
「解体場に繋がる道に一つ、第四階層に繋がる道に一つ、アジ・ダハーカの居る縦穴に繋がる道に二つね」
『残りの一つは?』
「これについては万が一の時の為に、第四階層に隠しておくわ。『ダマーヴァンド』全体で呪詛を貯め込み過ぎた時の緊急解放装置にするの」
『分かったでチュ』
そして、折角の攻撃能力を持つならと言う事で、攻撃能力が必要になりそうな場所へ配置する。
なお、第四階層に置いた一つについては、山頂にある偶像ライムが生える小人の樹の根元に設置して、プレイヤーが安易に近づかないようにするための装置として普段は利用する事にした。
作成よりも運ぶ方が大変だったのは言うまでもない。
「最後にっと」
最後に私は呪詛管理ツールの状態を確かめる。
△△△△△
呪詛管理ツール-『ダマーヴァンド』
レベル:10
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:12
『ダマーヴァンド』とその周辺に存在する呪詛を管理するためのツール。
手をかざす事で使用できる。
呪詛貯蓄ツール-『ダマーヴァンド』とリンクしている。
呪詛貯蓄量:324,001/8,500,000(1,000,000+1,500,000×5)
注意:呪詛を貯め込み過ぎると暴走します。
▽▽▽▽▽
「うん、問題なし。上限が八百万以上もあれば、早々問題なんて起きないでしょ」
『でチュね』
これで呪詛管理の問題は解決した。
と言うわけで、私は次の作業……熱拍の樹呪の根粒を利用した邪眼の作成に移る事にした。
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル23
HP:1,213/1,220
満腹度:137/150
干渉力:122
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の達人』、『灼熱の名手』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『偽神呪との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』、『いずれも選ばなかったもの』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『風化-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール、呪詛貯蓄ツール×5設置
システム強化
呪怨台参式・呪詛の枝、BGM再生機能、回復の水-2、結界扉-2、セーフティ-2
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05/10誤字訂正