331:イントゥルインズ-2
「さて何があるかしらね?」
『なんでチュかね?』
何度か戦闘を挟みつつも、広場にはすぐ着いた。
で、広場の縁から改めて見回してみたのだが、この広場はどうやら七本の熱拍の樹呪を頂点とする形で正七角形を描いているようだった。
円形ではないが、広場のサイズは直径にして50メートルはあり、かなり広い。
そして、毒頭尾の蜻蛉呪や炎視の目玉呪と言った、『熱樹渇泥の呪界』を巡回しているカースたちはこちらに近づいてくる気もないようだった。
これは……もしかして、そういう事だろうか?
カロエ・シマイルナムンにも同様の場所があるらしいので、なくはないだろう。
「とりあえず中央まで行って……みる前に来たわね」
『みたいでチュね』
私は広場の中心に向かって移動をしようとした。
だが、半分ほど進んだところで異変が生じた。
広場を囲うように黒い幕が生じ、広場の外が見えなくなった。
私はネツミテを構えると共に邪眼術の準備を改めて開始し、ザリチュも周囲の警戒をする。
『忌まわしくも喜ばしい。この呪界の主を退けたものが来たぞ』
何処からか性別年齢共に不詳としか言いようのない、掠れた声が響く。
『忌まわしイ。人でないにも関わらズ、私の手駒ではないのカ』
底の方から、どことなく苛つく感じの響きがある声が響く。
『忌まわしい。ですが縁はあるようで』
軽い何かがぶつかり合うような響きと共に声が聞こえてくる。
『忌まわしい。そうだな。我々を散々利用している』
何かしらの録音機材で録音した私の声そっくりの声が聞こえてきた。
『忌まわしい。我らの道となりつつも、此処で行き止まりではないか』
苛立った感じの声が広場のすぐ下から聞こえてきた。
『忌まわしい。それは路削ぎの力を取り込んだためだろう。だからと言って私に責を向けられても困るがね』
熱拍の樹呪の一本から男性の声が聞こえてきた。
声からイメージ出来るのは、筋骨隆々の男性と言う感じだろうか。
『喜ばしい。誠に喜ばしい。人ではなくとも人の味方をしてくれるものが現れ、無限に等しき呪限無をほんの一角でも制し、治める資格を持つ者が現れたのですね。それに活性化の手段まで……ああ、正に救世主と言えるでしょう。これでカースではなく人間であれば、本当に言う事はなかったのですが……』
おっと、何故かは分からないが、ハルワの声が聞こえてきてしまった。
それにしても活性化ねぇ……ああうん、何となくだが、最初と最後の声の主が確定してしまった気がする。
そして、私の想像通りなら七つの声はいずれも超大物のカースだ。
まあ、今やるべき事はだ。
「ご用件は何かしら? 用が無いならとっとと解放して欲しいのだけど」
イベントを進める事だ。
『選べ。我らのいずれに従うかを。地上に我らのいずれを呼んで、世界を満たすのかを』
掠れた声がプレッシャーと共に告げてくる。
『『『選べ。混沌を、中庸を、秩序を、創造を、中立を、破滅を、孤独を、主体を、従属を。呪いの深淵、奥底より沸き立つ泡沫にて、世界を変える機会を汝に与えよう』』』
声が何重にもなって響いてきて、選択を迫ってくる。
『選んでください。貴方の未来を。貴方が思うがままに。いずれであっても、それは己の世界の負債を他者に押し付けた私の責任ですのでご安心を。如何なる選択肢を選んでも世界は救われるのです』
ハルワの声が無責任に選んでも構わないと告げてくる。
「……」
なるほど。
呪限無に潜り、『熱樹渇泥の呪界』の主である『路削ぎの蚯蚓呪』ミミチチソーギ・ズワムを討伐したことによる特殊イベント。
『七つの大呪』と邂逅し、どれに従うか、あるいは拒絶するかして、新たな呪界を作り出したり……場合によっては地上に新たな領域を出現させるのかもしれない。
うんうん、実に面白いイベントだ。
実に面白いイベントだが……
「どうでもいいわね」
敢えて蹴らせてもらおうか。
何故ならばだ。
『どうでもいいだと?』
「ええ、本当にどうでもいいわ。貴方たちは『七つの大呪』でしょ? だったらどれに従って、どれと敵対しようが大差があるとは思えない」
『『『……』』』
「呪いが根っこにあるのなら、混沌は荒れ果てるだけ、中庸は今と変わらず、秩序は滅亡に向かうだけ。創造も中立も破滅も他者を害するばかりで変わらず。孤独はつまらない、主体を取るのは私の役目じゃない、従属なんてもってのほか」
『『『……』』』
「終いには無責任に選んでも構わない? 自分の選択に責任を取らないとか、遊びであっても糞喰らえよ」
どの選択肢も選ぶ気にはならないものだからだ。
そしてそれ以上にだ。
「私が求めるのは未知。分からない事。奥底と言う境界に接している癖に、その先に行こうとせずこちら側にしがみ付き、出て来ようとする程度の存在に従う気などない。そして、私は私の選択に、私自身が責任を取る。だからこそ……この世は面白いのよ」
私のスタンスに根本的にそぐわない。
『狂って……』
「そう狂っている。だからこそ面白いのだ」
『『『!?』』』
「あら」
気が付けば私の頭の上、ザリチュのつばに乗る形で、蘇芳色の鱗と金色の目を持った六本足のトカゲがいた。
そして、このトカゲの存在が認識された瞬間に、『七つの大呪』たちは私にでもそうだと分かるレベルで狼狽していた。
「既に選択は為されている。故にとっとと解放してもらおうか。それとも……」
そう言えばこのトカゲは以前に自分の事をデウスエクスマキナだと言っていたか。
ならばだ。
「偽神呪相手にやり合うかぁ? 貴様ら『七つの大呪』如きが。くくく、それならそうと言えばいいものを。なあに、世界の巻き戻し権限なら持っているから、安心して挑むといいぞ。全員、塵も残さず消し飛ばした上で、戻してやる。何事もなかったようになぁ」
『『『……』』』
どちらが格上かなど議論の必要性もない。
それを示すように、周囲の黒い幕が消えていく。
だが、虎の威を借る狐になったままなのも、それはそれで面白くないな。
「私にとっては貴方も何時かは超える相手です……っ!?」
トカゲから私にプレッシャーが放たれ、私はその場で膝をつき、全身が震え、冷や汗が止まらなくなり、口角が下がりそうになる。
しかしそれでも私は口角は上げたまま、トカゲへと目線をやり続ける。
「ははは、面白い。それでこそだ。こちら側に来たときは相手をしよう。その時は『悪創の偽神呪』として全力で相手をさせてもらおう。と言いたいところだが、以前も告げた通り私はデウスエクスマキナだ。戦う機会は残念ながらなぁ……。今回も奴らの諦めの悪さに出動要請がかかっただけだし、そろそろ帰らなければならん」
「そう……ですか……」
「くくく、だが、その意気やよしだ。『こちら側に来れるものなら来てみろ。』努力は歓迎するぞ」
「ん?」
今、一瞬だがノイズのような、けれど意味のある声が聞こえた気が?
「ではさらばだ」
私がその事を問う暇もなく、トカゲ……『悪創の偽神呪』は姿を消してしまった。
そして、私の周囲はイベントが始まる前と変わらない状態に戻っていた。
どうやらイベントは終わったようだった。
≪称号『いずれも選ばなかったもの』、『偽神呪との邂逅者』を取得しました≫
11/20誤字訂正




