330:イントゥルインズ-1
「ログインっと」
『お、来たでチュか』
さて、C7-096との話も終わって無事にログインできたと言う事で、私は早速いつも通りの確認をしていく。
ちなみに呪詛管理ツールの状態だが、今はこんな感じである。
△△△△△
呪詛管理ツール-『ダマーヴァンド』
レベル:10
耐久度:100/100
干渉力:100
浸食率:100/100
異形度:12
『ダマーヴァンド』とその周辺に存在する呪詛を管理するためのツール。
手をかざす事で使用できる。
呪詛貯蓄量:323,895/1,000,000
注意:呪詛を貯め込み過ぎると暴走します。
▽▽▽▽▽
ズワムの心臓を焼いた際に出た呪詛の量が結構な量だったこと、『熱樹渇泥の呪界』や周囲のマップから流れ込んでくる呪詛の量がそれなりにあること、『ダマーヴァンド』で素材回収しているプレイヤーたちが放出する呪詛等々の要因で、結構な量の貯蓄になっている。
勿論、収入の増加に伴って支出も増加しているのだが、それでも『ダマーヴァンド』は完全な黒字運営である。
とは言えだ、万が一の暴走を考えると、呪詛管理ツールそのもの増強もそろそろ考えていい頃合いだろう。
現状では、良さそうな素材は見つからないが。
「ん? 何か騒がしいわね?」
『毒ネズミたちが揉めているみたいでチュねぇ』
で、呪詛管理ツール以外にも畑の確認などの作業をして、いつも通りの確認は終了。
ついでに『ダマーヴァンド』の管理を強めるために、眼球ゴーレムを『ダマーヴァンド』の各地に潜ませておく作業も完了。
そこまでしたところで、第三階層に居る毒ネズミたちが騒いでいる事に私は気づく。
どうやら『ダマーヴァンド』にやってきたプレイヤーの後を追う形で第四階層に入ってしまい、帰ってこれなくなった子毒ネズミが居るらしい。
「まあ、そういう事もあるわよね」
『入り込んでしまったものは仕方がないでチュね』
第三階層から第四階層への移動は一方通行であり、第四階層から外に生きて出るためには『ダマーヴァンド』と周囲のマップを隔絶している熱と渇きと毒の嵐を抜ける必要があるし、出れてもその先はほぼ全く別の土地である。
その為、毒ネズミたちにとって第四階層への道は不帰の道であり、行かないようにしていたようだ。
まあ、どういう理由であれ、第四階層に行ってしまったものは仕方がない。
その子毒ネズミには自分でどうにかしてもらおう。
そして、他の毒ネズミたちももう諦めているのか、次第に騒ぎは収まっていく。
『で、たるうぃはどうするでチュ?』
「『熱樹渇泥の呪界』へ向かいましょうか。ズワムを倒してからまだ一度も行ってないし」
『分かったでチュ』
と言うわけで、ザリチュの『眼球』のコストが回復したところで、私は装備を整えた上で『熱樹渇泥の呪界』に向かった。
『酷い荒れ方でチュねぇ……』
「まあ、あれだけ暴れればね……」
リアル時間で約一日、ゲーム内時間で約三日ぶりに訪れた『熱樹渇泥の呪界』の状況は酷いものだった。
ズワムとの戦闘でなぎ倒されたり、折られたりした熱拍の樹呪が何百本とあり、飢渇の泥呪の海も普段より荒れている。
「熱拍の幼樹呪の数が増えているわね。熱拍の樹呪が居なくなったニッチを埋める為かしら」
『ニッチ……ああ、隙間でチュか。あるいは生態的地位。確かにあの数の熱拍の樹呪が居なくなったなら、熱拍の幼樹呪が成長することでその隙間を埋めようとするのは当然の流れでチュね』
「自然界と違って『熱樹渇泥の呪界』だと、他の生物が入り込む隙間なんてないから、当然の流れね」
熱拍の幼樹呪の数は増えており、サイズも普段見るのよりも大きい。
この分ならリアル一週間ぐらいで元通りになるかもしれない。
他のカースについては……遠くから見る限りでは異常なしか。
「ん? 倒れた熱拍の樹呪の根に妙な物が付いているわね」
『本当でチュね。行ってみるでチュよ。たるうぃ』
と、そうやって周囲を見渡していると、横倒しになると共に、少しずつ飢渇の泥呪の海によって乾燥、分解、沈下している熱拍の樹呪の根の部分に、黒い何かが幾つもくっついているのが見えた。
その熱拍の樹呪は既に死んでいるため、拍動もしておらず、近づくことは安全に出来る。
なので私は根にくっついている黒い何かの正体を確かめるべく接近する。
「これは……何?」
『ざりちゅに聞かないで欲しいでチュ』
黒い何かは私の上半身くらいの大きさがある球体だった。
多孔質であること、黒くて光を反射していること、見た目としては、炭に近いかもしれない。
これは位置的に言えば普段は飢渇の泥呪の海の中に沈んでいるものだが、飢渇の泥呪が固まったものと言う感じはない。
当然だが、喉枯れの縛蔓呪とも違う。
「んー……根粒に近いのかしら?」
よく見てみれば、黒い球体は熱拍の樹呪にくっついていると言うより、熱拍の樹呪から生えているようだった。
それならば、マメ科植物の根に出来る根粒が一番近い気がする。
『回収して、鑑定してみるでチュよ。たるうぃ』
「そうね。そうしましょうか」
私は黒い何かと熱拍の樹呪が接している場所に短剣を差し込み、切り離す。
そして自由落下を始めた黒い何かを毛皮袋に収納。
横倒しになった熱拍の樹呪の幹部分にまで移動して、出来る限り平らな場所で手に入れたアイテムを外に出し……
「うわっ」
『見た目よりはるかに重いみたいでチュね』
まるで鉛の塊が落ちたような音と響きに少々引きつつも、鑑定をしてみた。
△△△△△
熱拍の樹呪の根粒
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:18
熱拍の樹呪の根から生じる黒い物体。
多孔質の軽そうな見た目からは想像もできない程に重く、堅い。
周囲の呪詛を吸い取って、貯蓄、必要に応じて触れているものへ注ぎ込む力を有している。
▽▽▽▽▽
「これ、呪詛を質量に変換しているとか、そんな感じなのかしら?」
『かもしれないでチュねぇ』
熱拍の樹呪の根についている時は、毛皮袋無しでも何とか持ち運べそうな程度には軽そうな気がしていたのだが、やらなくてよかった。
たぶん、普通に持ち運ぼうとしていたら、そのまま押し潰されていただろう。
「……。とりあえず五つほど回収しておきましょうか」
『その心は?』
「新しい邪眼の習得と呪詛管理ツールの枠増強に使えそうな気がするのよね」
『なるほどでチュ』
私は根粒を毛皮袋に収納すると、根の方に飛んでいき、安全に回収出来そうな位置にある根粒を毛皮袋に収めていく。
『ちなみに熱拍の樹呪の木材や樹皮はいいんでチュか? たぶん、足元から回収出来るでチュよ』
「んー……サンプル用に木材をちょっとだけ回収しておきましょうか。樹皮は要らないわね」
続けて『呪法・増幅剣』を乗せた『出血の邪眼・1』で熱拍の樹呪の木材を一辺1メートル程度の立方体で回収。
鑑定をしてみる。
△△△△△
熱拍の樹呪の木材
レベル:25
耐久度:100/100
干渉力:130
浸食率:100/100
異形度:14
熱拍の樹呪の体だった木材。
熱に対して極めて高い耐性を有する。
重く硬いが、乾燥に弱く、加工には適さない。
▽▽▽▽▽
「駄目ね。これは」
『熱拍の幼樹呪は余すところなく使えるのに、熱拍の樹呪になると使える部位が限られるとは不思議な物でチュねぇ……』
うん、これは後でゴミ箱に突っ込んでおこう。
と言うか、飢渇の泥呪の海に根を突っ込んでいるくせに乾燥に弱いのか……成長に伴い、樹皮とかで完全に防げるせいで、脆弱になってしまったとかだろうか?
断面を見た感じ、樹皮の厚みは私の腕よりも太いくらいだし。
「じゃ、次に行きましょうか」
『『ダマーヴァンド』に戻らないんでチュか?』
「『ダマーヴァンド』に戻るのはあの場所を探ってからよ」
『あの場所?』
私は木材を毛皮袋に入れると、離陸。
とある場所を目指して移動を開始する。
「そう、あからさまに怪しいあの場所よ」
そこには七本の熱拍の樹呪が生えていて、周囲には熱拍の樹呪どころか熱拍の幼樹呪もないようだった。
そして、七本の熱拍の樹呪の幹の中ほどからは枝が伸び、他の樹呪から延びた枝と絡み合い、葉を重ね合う事で、これまでの『熱樹渇泥の呪界』ではあり得ない平らな広場を作り出していた。
確実に何かある。
私はそんな考えを抱きながら、その広場へと向かった。
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