325:ズワムアフター-1
『喜びのところ悪いでチュが、一つ言っておくことがあるでチュよ』
「何かしらザリチュ?」
さて、勝利が確定したところで帰還……いや、その前に得た物の確認か?
ズワムの素材がメッセージに添付されている形で手に入っているし、称号と、少々不穏な気配のする呪術も手に入っている。
これらは出来るだけ早めに確認するべきだろう。
と言うわけで、自分へ『鑑定のルーペ』を向けようとしたところ、ザリチュがとても言いづらそうに声を発し、私はそれに応えた。
『灼熱の重症化と乾燥のコンボが発動でチュ』
「は? ごぼあっ!?」
直後、私は喀血。
HPバーが底を尽き、死に戻りした。
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「……。自然回復は灼熱の重症化で反転し、反転したダメージが乾燥で強化……。そういうのもあるのね……」
『斑豆を食べて、暫くはじっとしているでチュよ』
「そうするわ……」
と言うわけで『ダマーヴァンド』のセーフティエリアに死に戻りである。
なお、灼熱と乾燥を含め、状態異常は全て回復していたが、満腹度はギリギリで、HPも普段の死に戻りと違って極僅かな状態になっている。
たぶん、『熱樹渇泥の呪界』で死んだせいだと思う。
「でも、ただじっとしているのも勿体ないから、確認できることは確認していきましょう」
『でチュね』
私はまずメッセージ欄を確認。
運営から手に入れたズワムの素材の目録が付いたメッセージが送られてきている。
で、カロエ・シマイルナムンの時と違い、運営から確認し、対処を決めてもらいたいと言う旨のメッセージが付いている。
「ああなるほど。私一人で倒したから、私の都合を優先してくれるのね」
運営としてはズワムが倒されたのを受けて、カロエ・シマイルナムンの時と同じように掲示板を設置し、そこに各種情報を載せたいらしい。
しかし今はイベントの直前であり、ズワムとの戦闘は私一人しか関わっていない。
つまり、情報の公開は私にとってはデメリットしかない。
だから私に掲示板を開くか否か、開くなら何時開くかを聞いてきたようだ。
後、今回の戦闘の運営視点での動画や、戦闘風景を利用したPVの作成についても聞かれている。
『どうするでチュか?』
「んー……イベント終了と同時に情報を公開。これで行きましょうか」
『理由は?』
「イベント終了後ならそこまで不利にならないだろうし、他のプレイヤーを奮起させることにも繋がるかもしれないから」
『なるほどでチュ』
と言うわけで、イベント終了後のタイミングなら、全部許可する旨のメッセージを運営に返しておく。
「さて、肝心の目録は……多いわね」
『まあ、一人で超大型ボスを倒したんでチュからね。あの巨体を考えたら、むしろ少ないぐらいかもしれないでチュよ?』
「それもそうね」
目録の内容については……
・ズワムの歯が12本
・ズワムの鱗が12枚
・ズワムの目玉が12個
・ズワムの油が1リットル入り瓶が12本
・ズワムの血が1リットル入り瓶が12本
・ズワムの柔皮が十数畳
・ズワムの毛皮が十数畳
・ズワムの肉が1トン弱
・ズワムの糞が1トン弱
・ズワムの声帯が1つ
・ズワムの心臓が1つ
うん、多い。
恐らくだが、ズワムから回収できる全ての素材を、一度に回収できる最大量で手に入れたのではないだろうか?
システム面を抜きにしても、一人で超大型ボスを倒して、素材を総取りしたと考えれば、こういう結果になるのも納得は行く。
「あ、歯のサイズとかだいぶ小さくなっているわね。80センチくらいになっているわ」
ズワムの歯は、小人状態でも1メートル近い長さがあった。
つまり、本来のサイズは10メートル近い長さとなる。
が、そんなサイズの素材を『ダマーヴァンド』に置くのは……不可能ではないが、ちょっとキツイ。
他の素材も本来ならば似たような大きさになるであろう事を考えると、どれだけスペースがあっても足りないし、使いきれないし、加工も上手くいかないだろう。
そう考えると、素材のサイズが適度な大きさになっているのはありがたいことだろう。
『おまけに普段の目録と違って、幾ら出すのかを選べる仕様になっているでチュね』
「ああ、本当ね。つまり、肉とかは使いたい量だけ出せばいいと」
おまけに出せる量を選べるとは……一度出したら戻せないようだが、これもありがたい仕様だ。
声帯と心臓には使えないが、これならば私でもズワムの素材を加工することが出来そうだ。
しかも何時までに取り出せと言う期限はない。
本当にありがたい。
『どう使うでチュか?』
「んー……全回復状態で準備を整えて、その上で先ずは最小単位で取り出して鑑定。使い道を考えるのはそれからね。つまり、今日の午後か明日以降ね」
『分かったでチュ』
使い道についてはまた後で。
カース素材と言う事は取り扱いを間違えたら復活するかもしれないし、復活しない素材にしても取り扱いには注意が必要である可能性が高いだろうから、万全の状態で弄りたい。
と言うか、他に作りたいものや補給の事まで考えると、イベントまでに素材を一通り使ってみる事も叶わないかもしれない。
まあ、その時はその時だろう。
「じゃあ、称号と呪術ね」
『分かったでチュ』
報酬については今はこれくらいにしておこう。
では、称号と……厄介な臭いしかしない呪術についてだ。