324:ミミチチソーギ・ズワム-6
本日六話目です
「あはははっ!」
全方位を見て、ランダムに飛んでくる光球を避け、俊敏な体当たりを避け、定期的に放たれる怪光線を避け、やけくそ気味に放たれた竜巻を避け、沈黙によって聴覚喪失を防ぎ、反撃を加えつつ条件付き即死攻撃を回避する。
そして、回避によって生まれた機を生かす形で、呪法を乗せた邪眼術を放ち、必要な状態異常のスタック値を維持し、ダメージを稼いで、更に余裕があればネツミテ、毒縛のボーラ、それに黒バクチクの実と炎視の目玉呪の毒腺で作った手榴弾を叩きつけて、ダメージを加速する。
「ーーーーー!」
それを四時間。
そう、四時間も続けた。
だが、その成果は確実に表れている。
ズワムの動きが激しくはなったが、同時に精彩を欠くようになってきている。
『怪光線まで後180。小人375。沈黙22でチュ』
勿論四時間もの戦闘に苦難がなかったわけではない。
避け切れないタイミングで光球が飛んできたために、熱拍の樹呪の葉マントを犠牲にして無理やり乗り切った場面もあった。
体当たりを避け切れず、体が半分近く抉れて、『遍在する内臓』と『不老不死』の呪いで無理やり回復した事もある。
邪眼術のループが上手く回らず、戦闘の余波で数を減らしていた眼球ゴーレムに邪眼術を使わせ、更に数を減らす事にもなった。
斑豆を入れた袋の底が見えてきて、焦りを感じた時もあった。
竜巻に変化する熱砂の柱を至近距離で撃たれて、ギリギリのところで回避した時や、実は聴覚喪失を受けていると威力が跳ね上がる効果だった条件付き即死攻撃を右足に受けてしまった時、ズワムが私の回避動作を学習する事で詰み直前まで持っていこうとした時などは肝が冷えたものである。
「分かったわ!」
それでもここまで来た。
私はソロでほぼ初見の超大型ボスに挑み、そのまま倒すと言う未知なる領域に足を踏み入れようとしている。
その未知と、これまでにズワムが見せてきた未知を思えば、戦闘開始からここまでで六時間以上かかっていると言う点もどうでもよくなってくる。
「なら、それを前提に……いえ、違うわね」
『此処で来るでチュか』
「ーーーーー!!」
そして素晴らしい事にズワムはまだ未知を隠し持っていたらしい。
ズワムが咆哮を上げると共に、ズワムの動きが変化する。
「あははははっ! 正に火事場の馬鹿力と言うところかしらぁ!?」
『笑っている場合でチュかぁ!?』
「ーーーーー!!」
目玉が柔らかい肉の部分を自由に動き回るようになった上で、一度に出る光球の数が3倍に増えた。
小人以外の状態異常のスタック値の減りのペースが2倍程度に早くなった。
立ち上がった鱗の下から呪詛の霧が噴出して、推定呪詛濃度25前後の濃い呪詛の霧を部分的にだが纏うようになった。
周囲の空気が乾燥し、熱を帯びていき、私にもズワムにも乾燥と灼熱の状態異常が入っていく。
条件付き即死攻撃の前兆である奇怪な音が、何十にも重なって聞こえてきている。
「笑うに決まってるわ! こんなふざけた攻撃! 普通のモンスターやプレイヤーではどう足掻いても出せるわけないもの! それを見れて! しかも攻略する権利を与えられた! これが嬉しくないプレイヤーなんて居るわけがないわ!!」
これを言い換えればこうなる。
今まで位置が固定されていた砲台が動き回るようになった上で、弾幕の密度が増した。
スタック値の減りが早くなった分だけ、安全はなくなり、ダメージを与えるペースも落ちた。
異形度21の私ですら100メートル先が見えるか怪しくなって、攻撃の回避が難しくなった。
HP回復が阻害された上に、一撃の被ダメージがお互いに増えていくようになった。
時間を掛ければ、条件付き即死攻撃の連射が始まって、屠られるのみ。
「さあ、お望み通りこちらも最大火力で相手をしようじゃない!! ezeerf!」
つまり、超火力でとっとと決着を付けろ。
そういう状況になったのだ。
「ezeerf! ecafrusカラezeerf! eci dloc wons liah reicalgノゴトク!」
だから私はそれに応えるべく準備をする。
ズワムのヤケクソとしか言いようのない攻撃を凌ぎながら、手元に特製の……周囲の大気中に存在する『七つの大呪』の中から、風化の呪いを中心として構築した呪詛の剣と、少々雑な作りではあるが『呪法・感染蔓』の種を用意していく。
『呪法・方違詠唱』を重ねて、次の邪眼術の威力を上げていく。
ザリチュに生き残っている眼球ゴーレムの位置を移動させ、ズワムの姿を僅かにでも見える位置で待機させる。
「efil ym evas……」
「ーーーーー!!」
『来るでチュよ! たるうぃ!!』
そして思い浮かべるのはつい先日心行くまで現実のスクナに見せてもらった達人の剣の動き。
私はその動きに従って、紅と黒が入り混じり、蘇芳のような色になった呪詛の剣を振り下ろし、その刃と私を飲み込もうと大口を開けたズワムの体が重なった瞬間に最後の言葉を告げて呪う。
「『灼熱の邪眼・2』」
「!?」
もはや、爆発としか言いようのない勢いで炎が生じ、ズワムが大きく仰け反る。
だがそれはズワムの表面から芯に向けてではなく、ズワムの芯から表面に向けて生じていく炎だった。
結果、ズワムの頭部は炎に包みこまれ、激しく燃え上がり、おまけにその炎は黒混じりの紅色の蔓となって、ズワムの胴へ、末端へ、全身へと広がっていく。
「ーーーーー!?」
「っ!?」
桁違いの火勢に耐えかねたズワムは、私を飲み込むことを諦めると、飢渇の泥呪の海の中へと逃げ出そうとした。
だが、内側から生じる炎は飢渇の泥呪の海の中に入っても消え失せる事はなく、むしろ火勢を増していく。
ズワムの断末魔の叫び声が『熱樹渇泥の呪界』中に響き渡っていく。
『たるうぃ……』
「『路削ぎの蚯蚓呪』ミミチチソーギ・ズワム……」
もはやどこまでが私自身の力であり、何処からが演出の類であるかも分からない。
しかし不思議と、既に決着は付き、ズワムの死が確定している事だけは分かった。
だから私は笑みを浮かべて宣言する。
「私の勝ちよ」
「ーーーーーーー!?」
私の勝利を。
≪超大型ボス『路削ぎの蚯蚓呪』ミミチチソーギ・ズワムが討伐されました。共同戦闘を終了します。報酬はメッセージに添付してお送りいたします≫
≪呪術『不老不死-活性』、『風化-活性』を習得しました≫
≪称号『毒の達人』、『灼熱の名手』、『七つの大呪を利する者』を獲得しました≫
≪タルのレベルが23に上がった≫
△△△△△
『虹瞳の不老不死呪』・タル レベル23
HP:105/1,220
満腹度:18/150
干渉力:122
異形度:21
不老不死、虫の翅×6、増えた目×11、空中浮遊、呪圏・薬壊れ毒と化す、遍在する内臓
称号:『呪限無の落とし子』、『生食初心者』、『ゲテモノ食い・3』、『毒を食らわば皿まで・3』、『鉄の胃袋・3』、『暴飲暴食・3』、『大飯食らい・2』、『呪物初生産』、『呪術初習得』、『呪法初習得』、『毒の達人』、『灼熱の名手』、『沈黙使い』、『出血の達人』、『淀縛使い』、『恐怖使い』、『小人使い』、『暗闇使い』、『乾燥使い』、『呪いが足りない』、『かくれんぼ・1』、『ダンジョンの創造主』、『意志ある道具』、『称号を持つ道具』、『超克の呪い人』、『1stナイトメアメダル-3位』、『2ndナイトメアメダル-1位』、『七つの大呪を利する者』、『邪眼術士』、『呪い狩りの呪人』、『呪いを支配するもの』、『???との邂逅者』、『呪限無を行き来するもの』、『砂漠侵入許可証』、『火山侵入許可証』、『虹瞳の不老不死呪』、『生ける呪い』、『雪山侵入許可証』、『海侵入許可証』
呪術・邪眼術:
『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』、『気絶の邪眼・1』、『沈黙の邪眼・2』、『出血の邪眼・1』、『小人の邪眼・1』、『淀縛の邪眼・1』、『恐怖の邪眼・3』、『飢渇の邪眼・1』、『暗闇の邪眼・2』、『魅了の邪眼・1』、『石化の邪眼・1』、『禁忌・虹色の狂眼』
呪術・原始呪術:
『不老不死-活性』、『風化-活性』
呪術・渇砂操作術-ザリチュ:
『取り込みの砂』、『眼球』、『腕』、『鼠』
呪法:
『呪法・増幅剣』、『呪法・感染蔓』、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・破壊星』
所持アイテム:
呪詛纏いの包帯服、熱拍の幼樹呪の腰布、『渇鼠の帽子呪』ザリチュ、『太陽に捧げる蛇蝎杖』ネツミテ、『呪山に通じる四輪』ドロシヒ、鑑定のルーペ、毒頭尾の蜻蛉呪の歯短剣×2、喉枯れの縛蔓呪のチョーカー、毒頭尾の蜻蛉呪の毛皮袋、フェアリースケルズ、タルの身代わり藁人形、蜻蛉呪の望遠鏡etc.
所有ダンジョン
『ダマーヴァンド』:呪詛管理ツール、呪詛出納ツール、呪限無の石門、呪詛処理ツール設置
呪怨台
呪怨台弐式・呪術の枝
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と言うわけで、ミミチチソーギ・ズワム戦でした。