323:ミミチチソーギ・ズワム-5
本日五話目です。
「……」
あまりにも一瞬の出来事過ぎて、聴覚が失われている事を加味するまでもなく、訳が分からないと言う状況だった。
だが、体が塵一つ残さず消し飛んだわけではない。
だから事前に服用しておいた『死退灰帰』が効果を発揮して、私の体は再生、HPも回復していく。
そして、一度死んだおかげなのか、ズワムにかけられた聴覚喪失の状態異常も回復している。
代わりにレベル低下(1)が付与されているが、これはズワムに殺された以上、仕方がない事である。
「ザリチュ!」
『たるうぃに何があったかを説明するでチュ』
私は飢渇の泥呪の海に叩きつけられる前に復帰すると、砂煙ならぬ泥煙の中を飛びつつフェアリースケルズで回復。
これまでの戦闘での消費が積み重なり、フェアリースケルズはこれで打ち止め。
以降の回復は自然回復に頼る事になる。
ズワムは……私が復帰したことにもう気付いている。
『まず聴覚喪失を伴う攻撃は可聴域外の音波によるものであり、発生源はズワムの喉と思しき場所でチュ。よって、沈黙で防げる可能性が高いでチュ』
「分かったわ。『沈黙の邪眼・2』」
ザリチュの言葉を聞きつつ、再び放たれ始めたズワムの光球を私は回避。
同時に行われたズワムの突撃も、ギリギリのところではあったが、回避に成功。
そして、反撃として『沈黙の邪眼・2』を目二つ分で試みて、沈黙(18)を付与する。
ザリチュの推測通りなら、これで防げるだろう。
勿論、『灼熱の邪眼・2』を撃ち込んで、光球の威力低下を図る事も忘れない。
『次に即死させられた攻撃でチュが、放つしばらく前からズワムの歯から独特な音が聞こえていたでチュ。実際に何をされたかや、対処法については分からないでチュ』
「十分よ」
ズワムが私の方を向いて、何かをしようとする。
だが、私の体には何の異常も見られない。
どうやらザリチュの推測は正しかったようだ。
「~~~~~」
『これでチュよ! たるうぃ!』
「なるほど! 確かに独特ね!」
ズワムの口の中から奇怪で、聞いていると不安を覚えるような、独特な音が漏れてくる。
なるほど、準備段階でこんな分かり易い音がするのに、対策が出来ていないなら、即死するような攻撃をされても仕方がない。
聴覚を奪ってからやってくるあたりが嫌らしいと言う他ないが。
『もう復活は出来ないでチュ! 対策を……』
「せいっ!」
肝心の対策は……私はズワムの口に向かって接近し、残りが10メートルを切ったところで毒縛のボーラを投擲。
その上でズワムの口のすぐ横に向かって加速していく。
「ーーー!?」
一つの対策では、その対策が間違えていた時に命がない。
私の判断は正しかった。
投げられた毒縛のボーラはズワムの歯に叩きつけられ、絡まり、何かが折れるような音と共にズワムから放たれていた独特な音は途切れる。
だがそれでもズワムの口から白い何かが放たれて、先ほどまで私が居た場所を目でギリギリ追える程度の速さで白い何かが通り過ぎていった。
ズワムの口は、口のすぐ横にまで移動していた私に追いつけてはいなかったが、それでも直前までは追えていた。
間一髪である。
そして推測だが、ダメージを与える事で威力と狙いにブレが生じ、その上で回避行動を取る事によって、実際に避けることが出来る、と言う攻撃だろうか。
「ザリチュ。怪光線、小人カウントの他に、沈黙カウントの追加もお願い」
『分かったでチュ』
此処からどう攻めるか。
目を使い分ける他ない。
絶対に欠かせないのは、最初から要である『小人の邪眼・1』と聴覚喪失攻撃を防ぐ『沈黙の邪眼・2』。
ダメージ源となるのは『毒の邪眼・2』。
効果は薄いが、怪光線などの緊急回避に使える『気絶の邪眼・1』。
これらの邪眼術を放った後にカウンターの威力を弱めるために『灼熱の邪眼・2』。
「ーーーーー!!」
「ysion『沈黙の邪眼・2』、etoditna『毒の邪眼・2』、『灼熱の邪眼・2』」
呪法は……戦闘が長期化、何度も呪法を使った事でズワムの耐性が高まり、『呪法・破壊星』の効果は薄い。
『呪法・感染蔓』もこの距離での戦闘で、相手の攻撃の頻度、密度、精度、速度を考えると、使う暇はかなり限られている。
つまり、『呪法・貫通槍』、『呪法・方違詠唱』、『呪法・増幅剣』を主体とすることになる。
なので私は自分の周囲に呪詛の槍を複数本出現させると同時に、眼球ゴーレムの視界を利用して遠隔地にも呪詛の槍を発生させる。
「すうぅぅ……これは長引くわね」
『でチュね』
総合的に見て、こちらの攻撃のペースはかなり落ちる。
正直な意見として、ズワムの攻撃は激しくなっている現状で耐久戦の類なんてやりたくはないのだが、生き残るためにはやむを得ない。
満腹度の補充については斑豆が大量にあるので大丈夫だろうけど。
「ーーーーー!」
「citnagig『小人の邪眼・1』」
『地道に、少しずつ、削り取っていくでチュよ。たるうぃ』
「分かっているわ」
ズワムの口から怪光線が放たれて、小人以外の状態異常のスタック値が半減してから一気に減っていく。
うん、どれだけ貯め込んでもこうして減らされる以上は、やはり時間はかかりそうだ。
「~~~~~!?」
「さあ、楽しくやりましょうか! ズワム!!」
と、ズワムがあの即死攻撃を再び仕掛けようとしてきたので、こちらも毒縛のボーラを再び投擲して攻撃しつつ移動して回避。
で、折角なので、手に持ったネツミテでズワムの目の一つを全力で叩き、僅かばかりだがダメージを与え、その上で飛び去る。
戦いはまだ続く。
だが……決着はそう遠くはないはずだ。
そう思って、笑みを浮かべなければ、流石にやっていられなかった。
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