321:ミミチチソーギ・ズワム-3
本日三話目です。
「citnagig『小人の邪眼・1』! からの『灼熱の邪眼・2』!」
「ーーーーー!?」
私の邪眼術が命中し、ズワムの小人のスタック値が372まで跳ね上がる。
小人が弱点の状態異常であるためか、低確率表記がある『小人の邪眼・1』でも難なく入ってくれるのはいい事だ。
そして、小人が入った直後に『灼熱の邪眼・2』を入れる事で、カウンターの弱体化を図る。
『小人の邪眼・1』が『毒の邪眼・2』になる事の方が多いが、これがこの一時間の鉄板だ。
そう、一時間である。
『全然動きが鈍らないでチュねぇ……』
「そうね。動きに変化もないし……一応、毒のスタック値からして、もう2千万ぐらいはダメージが入っていると思うんだけど……」
「ーーーーー!!」
一時間経ったが、ズワムの動きに陰りは見えない。
全身についている目からランダムに飛んでは爆発する光球を放ちつつ、私をしつこく追い回してくる。
何度か移動先を誘導して、ズワムの体を結んでみようともしたが、それも回避された。
そして10分ごとに口から怪光線を放って、小人以外の状態異常のスタック値を減らしつつ、『熱樹渇泥の呪界』全域を攻撃してくる。
こちらはズワムの動きをよく見て、先んじて回避行動を取れば避け切れるが、撃たれる度に生きた心地がしない。
本当に超大型ボスの名にふさわしい耐久度と攻撃範囲であるが……一人で戦っている私としては堪ったものではない。
まあ、一人で戦うなと言われればそれまでなのだろうけど。
「ーーー!」
「っ!?」
『拙いでチュ!』
と、その時だった。
ズワムの動きが変わった。
ほんの僅かだが動きが速くなって、私はそれに気づくのが一瞬遅れた。
一瞬の意識の遅れは翅の動きに現れ、その場から上方向に移動するのが、一拍遅くなった。
「つうぅ!?」
「ーーーーー!」
結果、ズワムの体に触れた右足がもげた。
折れるでも、引きずられるでもなく、もげた。
ズワムの速さと、いつの間にか鱗のように逆立った岩の肌によってもがれたのだ。
「ーーーーー!!」
「舐め……ないで!」
ズワムの攻撃は止まらない。
光球が向かってくるだけでなく、体をしならせることで、胴体の側面を私にぶつけようとしてくる。
私はそれを全力で羽ばたくことによって回避し、距離を取っていく。
『たるうぃ! HPは0になっていないでチュ! よって『死退灰帰』はまだ有効でチュ!』
「それはいいわね! 此処で使う気はないけど!!」
距離を取って、光球を避け、再び向かってきたズワムの頭部も避け、更に距離を取る。
そうして動き回りつつ、フェアリースケルズを右足のもげた部分に擦りつけて止血。
ザリチュの報告通り、『死退灰帰』が未発動であることも確認。
装備の効果に加えて、自分の中にある『不老不死』の呪いを活性化させることによって、右足の再生を進めていく。
「ーーーーー!」
「第二段階……いえ、『禁忌・虹色の狂眼』で第一段階をすっ飛ばしたとしたら、第三段階かしらね!?」
合わせてズワムの姿を確認。
ズワムの体の側面部分には無数の目だけでなく、柔らかい肉の部分と岩のような鱗が付いている部分があり、今のズワムは岩のような鱗を逆立て、刃のようにしていた。
全身にランダムに生えている鱗が逆立つと言う事は、それはそのまま、ズワムの攻撃の範囲が広がったことを示している。
地味だが厄介な強化である。
「毒の追加……じゃないわね。まずは時間稼ぎをしないと」
『眼球ゴーレムによる索敵を開始するでチュ』
体の再生には時間がかかる。
体が再生しきらないと、動きが僅かにだが鈍くなるし、視界が欠ける。
『小人の邪眼・1』のクールタイムは明ける。
ザリチュの索敵結果から、私たちの周囲には私とズワムだけでなく、他のカースたちが怯え、逃げ回るように居る事が分かっている。
であればだ。
「望遠鏡で観測し……esipsed『魅了の邪眼・1』」
私は蜻蛉呪の望遠鏡越しに周囲に居た数体のカースを捉える。
この時点で、蜻蛉呪の望遠鏡の効果で、捉えられた数体のカースは私の姿を認識したことになる。
そして、私の姿を認識したカースに向けて『魅了の邪眼・1』を発動して、魅了(畏怖)を付与する。
一体につき目一つで、スタック値にして10程度だろうが、それでも問題はない。
「「「「チュブラガアアァァ!!」」」」
「「「「エンジョアアアアァァァ!!」」」」
「「「「ーーーーーーー!!」」」」
「!?」
毒頭尾の蜻蛉呪たちがズワムへと突っ込んでいき、体に張り付いて噛みつくことで、ズワムの動きを遅くする。
炎視の目玉呪たちがズワムへ向けて熱線を放ち、ズワムの気を反らす。
喉枯れの縛蔓呪たちがズワムに向けて蔓を伸ばして絡める事で、ズワムの動きをさらに遅くする。
私に魅了された12体のカースによって、ズワムの動きが鱗を逆立てる前と同じかそれ以下にまで落ちる。
その隙に私は熱拍の樹呪の陰に隠れて、もげた右足を一気に再生していく。
「ーーーーー!!」
対するズワムの対処は早かった。
体を震わせる事で、接近したカースを打ち倒していく。
光球を放つことによって、遠くにいるカースも容赦なく葬っていく。
「あら、これは予想外」
『でもいい事でチュね』
そんなズワムの行動が引き金となったのだろうか?
私が魅了していないカースたちもズワムに向けて攻撃を開始する。
荒れ狂う飢渇の泥呪の海からは、何十と言う喉枯れの縛蔓呪の蔓が伸びる。
熱拍の樹呪の樹冠より上の領域からは、炎視の目玉呪による熱線が雨のように降り注ぐ。
毒頭尾の蜻蛉呪たちは果敢に攻めかかり、多大な犠牲を払いつつも、前歯と尾をズワムに当て、毒のスタック値が減らなくなった。
それはまるで、『熱樹渇泥の呪界』そのものがズワムの敵に回ったような光景だった。
であるならばだ。
「あの熱拍の樹呪がいいわね」
『あー……まあ、一匹だけ持ってきていたでチュからね』
私もそれを後押ししよう。
私はちょうどいい角度で倒れている熱拍の樹呪に近づくと、その樹冠にザリチュが使えるゴーレムの一種類であるネズミゴーレムを置く。
このゴーレムは機動性に優れていると同時に、普通のネズミが出来るような行動も取れるゴーレムだ。
そんなゴーレムをザリチュが操り、樹冠の中心に辿り着いたネズミゴーレムは熱拍の樹呪の果実を一つもぎ取る。
直後、熱拍の樹呪の樹冠はすぼんでいき……
「いっそこれで死んでくれるといいんだけどね」
『でチュね』
「ーーー!?」
ズワムの怪光線を遥かに凌ぐ炎が熱拍の樹呪から放たれ、自分に絡んできたカースを始末して咆哮を上げていたズワムの胴体を直撃。
ズワムは爆炎に包まれた。
その破壊力は文字通りの桁違いであり、飢渇の泥呪の海は熱拍の樹呪の樹冠に届くほどの大波を発生させ、私の体も近くに置かれていた眼球ゴーレムも一気に吹き飛ばされていく。
「ーーーーー!」
「まあ、そんな甘くはないわね」
『まあ、そうでチュよね』
だが、ズワムはまだ生きているらしい。
ズワムの咆哮が『熱樹渇泥の呪界』中に広がり、吹き飛ばされた衝撃で頭が半分くらい潰れて再生途中の私の耳にも届く。
「ーーーーー!!」
「げっ……」
『あー、これはヤバいでチュねぇ……』
そして私が『遍在する内臓』を生かして体の再生をしている間にズワムの体から放たれたのは、空を埋め尽くすような数の熱砂の柱だった。
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