319:ミミチチソーギ・ズワム-1
唐突ですが本日のみ6話更新となります。
こちらは1話目です
「ログインっと」
日曜日、スクナの道場から帰ってきた私は『呪法・増幅剣』の練習と、明日のための準備をした。
予想通り『呪法・増幅剣』の習熟には時間がかかりそうだったが、今の付け焼刃の状態でもこれまでよりは使えるだろう。
『気合は入っているでチュか?』
「ええ、勿論」
そして月曜日。
私は朝早くからログインすると、必要なアイテムを毛皮袋に収め、熱拍の幼樹呪の外套と口布を着用、『死退灰帰』を服用した上で『熱樹渇泥の呪界』へと向かう。
目的は勿論『路削ぎの蚯蚓呪』ミミチチソーギ・ズワムの討伐である。
「さて、まずは設置ね」
『でチュね』
『熱樹渇泥の呪界』に入った私は直ぐに上昇を始め、手近な熱拍の樹呪の樹冠へと近づいていく。
そして、毛皮袋から眼球ゴーレムを一体取り出すと、熱拍の樹呪の一番下の枝に張り付かせる。
『どうでチュか?』
「問題なし。眼球ゴーレムが落ちる事はないわよね?」
『ないでチュ。炎視の目玉呪に襲われることも考えなくていいと思うでチュよ。最初の眼球ゴーレムが今も生きているぐらいでチュから』
「それはいい事ね」
熱拍の樹呪の枝に張り付いた眼球ゴーレムは、まるで監視カメラのように周囲の光景を私に伝えてくる。
現状見えるカースは毒頭尾の蜻蛉呪と熱拍の幼樹呪、視線を上に向けた時限定で炎視の目玉呪か。
いや、熱拍の樹呪と飢渇の泥呪も一応カースではあるか、どちらも地形と言った方が正しい感じなので、見ているとは思いづらいが。
「よし、それじゃあまずは網を張るように設置していきましょうか」
『分かったでチュ』
私は別の熱拍の樹呪へと向かい、そこでも同様に眼球ゴーレムを設置。
これを繰り返して、昨夜作成した20体の眼球ゴーレムを『熱樹渇泥の呪界』各所に設置していく。
とは言え、『熱樹渇泥の呪界』はかなり広いマップなので、20体の眼球ゴーレムの視界を繋げて、かなりの範囲を認識出来るようにしても、『熱樹渇泥の呪界』全体の10%把握できているかどうかと言うところだろうけど。
『頭、大丈夫でチュか?』
「んー……分かってはいたけど、かなりキツイわね……戦闘が始まったら、適切な位置にある眼球ゴーレムの視界だけを利用するようにするわ」
『分かったでチュ』
そして、それだけしか見えていないのに、私の頭には結構な負荷がかかっている。
これは事前に予想出来ていた事なので、ザッピングと使う眼球ゴーレムを限る事で対処しよう。
「来たわね」
『来たでチュか』
そうして眼球ゴーレムに慣れている間に、こちらへとズワムが近づいてくるのを眼球ゴーレムの一つが捉える。
そのスピードは相変わらずの速さであり、こうして事前に網を張っておかなければ、規格外のサイズも相まって、とても対処できるものではない。
だが見えているならば、進路予測含めて対処は可能だ。
「『inumutiiuy a eno、yks』」
私は喉に呪詛を集め、声に合わせて震わせることで、『呪法・方違詠唱』を発動。
同時に右手に呪詛の星を、左手に呪詛の種を作り出し、高速で射出する。
「『 nihuse、sokoni taolf、nevaeh esir。higanhe』」
詠唱に伴う動作もしっかりと進めていく。
ズワムの姿が私自身の目にも映り始める。
「ーーーーーーー!!」
ズワムが私の姿を捉えて咆哮を上げる。
「『 og ton od。禁忌・虹色の狂眼』」
それと同時に呪詛の種がズワムの頭に張り付き、そこへ呪詛の星が落ち、私の13の目から虹色の光が放たれる。
ズワムの頭から暴力的と言っていいほどの虹色の輝きが放たれた。
星と星がぶつかり合うような形で光が周囲を満たす。
そして、その光の中で虹色に輝く蔓が13本生じて、ズワムの体を何度も貫いていく。
ズワムは私に何かされたと理解し、私への反撃を試みるが、それよりも早く虹色の蔓に貫かれた時に生じる力によって一瞬だが気を失い、闇と炎に包まれ、身動きを取れないでいる。
「本当に呪法を重ね合わせると強いわね……」
『おまけに使ったのが『禁忌・虹色の狂眼』でチュからねぇ……とは言え、これで死んでくれるほど甘くはないんでチュけどね』
「まあ、そうでしょうね」
そうして13度目の感染が終わり、私の初撃は終わった。
与えたダメージ量が相当のものである事に違いはないが、相手のHPが表示されないので正確な数字は不明。
与えた状態異常は……毒(99,999)、灼熱(999,999)、沈黙(9,999)、小人(999)、干渉力低下(13)、恐怖(39)、乾燥(13)、暗闇(9,999)、何と言うか、入る状態異常は、現状の邪眼で出せる最大が入りましたみたいな事になっている。
呪法を重ねた上での『禁忌・虹色の狂眼』とは言え、これは酷い。
なお、出血は感染蔓で感染した先でダメージを与えてしまう都合上、気絶は単純な効果時間の短さから、既に切れてしまっている。
「ーーーーー!!」
体の幅が3メートルほどにまで縮んだズワムはたぶん咆哮を上げようとしている。
だが、沈黙の効果で、実際に咆哮が上がる事はない。
毒と暗闇によって体調も優れないようで、その場で激しくのたうち回っている。
本音を言えば、この間に追撃を仕掛けたいところなのだが……こちらのクールタイムが明けるまでに後40秒はある。
10分の1サイズになってもなお巨体であるズワム相手に接近戦はしたくないので、邪眼術のクールタイム明けを待つしかない。
「む……」
『チュア!?』
「ーーー……」
そうして距離を取って待っていると、ズワムに異変が生じる。
突然与えた状態異常のスタック値が半分にまで減ると、口の中から虹色の光が外へと漏れ始めてくる。
アレは不味い。
「逃げるわよ!」
『分かっているでチュよ!!』
そう判断した私は手近な熱拍の樹呪の陰に隠れると、即座に下降を始める。
勿論、眼球ゴーレムの視界を操って、ズワムが何をしているのかの確認も忘れない。
そして眼球ゴーレムが見ている中、ズワムの口から漏れ出る虹色の光はその輝きを強めていき……
「ーーーーー!!」
「っ!?」
『チュアッ!?』
虹色の怪光線が熱拍の樹呪を貫く。
それも一本だけではなく二本、三本と、ズワムの口から放たれた怪光線の進路上にあった熱拍の樹呪を全て貫いていく。
「ちょっ、これは流石に想定が……っ!?」
ズワムは口から怪光線を発したまま、口の向きを変えていく。
上へ左右へ、何処かに居るであろう私へ当たればこれ幸いと言わんばかりに、周囲を、『熱樹渇泥の呪界』全域を薙ぎ払っていく。
熱拍の樹呪が何本もなぎ倒されて、倒れ、その衝撃で飢渇の泥呪の海が大きく荒れ狂っていく。
同時にズワムに入っていた小人以外の状態異常のスタック値が目に見えるスピードで下がっていく。
「ーーーーーーー!!」
そして、沈黙と暗闇が切れたところで、虹色に染まった瞳を周囲に向けつつズワムが咆哮を上げた。
それはまるでよくもやってくれたなと言わんばかりの咆哮だった。
≪超大型ボス『路削ぎの蚯蚓呪』ミミチチソーギ・ズワムとの共同戦闘を開始します。現在の参加人数は1人です≫
「ははっ、此処からが本番って事ね。いいわ、やってやろうじゃない」
私はこれから始まる未知なる戦いに笑みを浮かべながらも、此処からどうするかを必死に考え始めた。
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