318:現実世界にて-14
「ふぅ。では、一時間ほど休憩を入れるとしよう」
「「「はいっ!」」」
スクナの言葉と共に、門下生たちの人たちが飲み物を口にしたり、道場側が用意したおにぎりを口にしたりし始める。
と言うわけで、私も自分で作った弁当を食べ始める事にする。
「タル。参考になったか」
「ええ、とても。ゆっくりであれば、再現することは出来ると思います」
「速さを出してなら?」
「……。密度の濃い練習が出来れば別ですが、普通に再現するなら、最低でも一月は欲しいところですね。一流の剣術家の技量の高さを甘く見ていたかもしれません」
「そうか。それほどの評価をしてくれるなら、俺としても見せた甲斐があるな」
私は食事をしつつ、スクナが先ほどまで見せてくれていた剣の動きについて話をする。
なお、私はひたすら見ていただけで、道場に来てから一度も武器の類は握っていない。
まあ、現実の私は体を鍛えていないし、『CNP』での私は武器をマトモに使えないので、握っていても仕方がないだろう。
「何だったら昼飯が終わった後にウチのVR機材を使って、どこまで再現できるか確かめるか?」
「……。申し出はありがたいですが、遠慮しておきます。この道場の設備はたぶん私の家のより何段階かスペックが上だと思いますので」
「そうか。『CNP』の謎技術ならハード面の差はそこまで問題ないと思うが……まあ、使い慣れない道具を使うのもよくないか」
若い女性がスクナにお茶を出して、スクナはそれを飲むと女性へ笑顔を向ける。
たぶん奥さんだな。
なお、推定スクナの奥さんは仲良さげにしている千華ちゃんとマナブのやり取りを見て、微笑ましいものを見ているような顔になっている。
「今更ですが、実質的にオフ会ですよね。これ」
「まあ、実質的にそうなるな」
「そうね。実質的にはオフ会ね」
と、ザリアがやってくる。
どうやら一度シャワーを浴びてきたらしく、タオルを首をかけている。
「あ、そうでした。こうして会ったのもいい機会と言う事で、次のイベントについて一つ言っておくことがありました」
「ほう、イベントについてか」
「イベントねぇ。七日間、休みなしの戦争だったわね」
「ちょうど一週間後でしたね。どういう組み分けになるのか、今から楽しみのではありますね」
四辻さんもやってきた。
私の件はスクナにさえ教えられればいいのだが……まあいいか。
「それで言っておくこととは?」
「もしも同じ陣営になったら、私を探してもらっていいですか? カース素材で作った難物の刀があって、同陣営になったのならスクナに使ってもらおうかと」
「ほう……どういう刀だ?」
私は毒頭尾の蜻蛉呪の翅剣のデータをスクナに伝える。
するとスクナは獰猛と評するべき笑みを浮かべる。
「なるほど。それは是非とも使ってみたいものだな。剣を使う者として試してみたい」
「ふふふっ、まあ、敵になったスクナに使われるのは御免なので、味方になったらですけどね」
「そこは分かっているとも。今回のイベントは容易には敵に塩を送るべきではないからな」
「ふふふ、是非味方になりたいですね」
それに応じるように私も笑みを浮かべる。
自分の顔がどうなっているかは見えないが、芹亜さんの顔からして、スクナの笑みに似た表情ではあるようだ。
「ねえ羽衣。質問なんだけど、『熱樹渇泥の呪界』の素材を利用した装備の内、他の人に渡す気があるものって他にもある?」
「ありますね。そうですね……マントデアと千華ちゃんに渡せるものはありますね。装備と言うよりは消耗品に近いですけど」
「なるほど……」
「あ、芹亜さんが一緒になったら、アレを渡してもいいかもしれませんね。芹亜さんぐらいの実力者なら渡す価値もありそうですし」
「そ、そう……」
なお、マントデアには熱拍の樹呪の葉マント、千華ちゃんには熱拍の幼樹呪の懐炉札を渡そうかなと思っている。
あの二人なら上手く使ってくれるだろう。
で、実力者には『虹瞳の不老不死呪』の呪詛薬・『死退灰帰』を一回分渡してもいい。
何かしらの大掛かりだったり、乾坤一擲だったりする作戦を敢行する際には、役立ってくれることだろう。
「羽衣、貴方一体幾つの爆弾を抱え込んでいるの……」
「本当にバランスが取れるのか怪しくなってきましたね。これは……」
「ほう。隠し玉が幾つもありそうだ。実に楽しみな事だ」
芹亜さんと四辻さんが大丈夫かと言う顔をし、スクナが楽しみだと言う顔をしている。
が、他に誰かに渡せる隠し玉と言うと……毒縛のボーラと黒バクチクの実を利用した手榴弾ぐらいではないだろうか?
うーん、案外少ないな。
ズワムの討伐に成功したら、追加でちょっと作っておこうか。
今回のようなイベントでなら使えるアイテムも、食事中に幾つか思いついたし。
「まあ大丈夫ですよ。運営は私に全力を出しても構わないと言いましたから。それなら、要望通りに私は全力を出すだけです」
「そうか。それはいい事だ。俺にとっては営業活動の一環ではあるが、遊ぶのであれば制限なく全力で遊んだほうが楽しいに決まっているからな」
さて、昼食の時間は終わりである。
そして昼食後も私たちはスクナたちから指導を受け、充実した一日を過ごしたのだった。