316:現実世界にて-12
「おはようございます。財満さん」
「おはよう。樽笊さん」
日曜日、私は大学の駐車場で財満さんと合流した。
今日はスクナの道場へと見学に行く予定である。
「初めましてクカタチ。こっちだと……」
「初めまして樽笊さん。千華でいいですよ。高校二年生です」
「じゃあ、千華ちゃんと呼ばせてもらうわね。それと財満さんも今日は芹亜さんで」
「そうね。あ、折角だから羽衣呼びでいいかしら?」
「はい、いいですよ」
ザリアこと財満さん改め芹亜さんの後ろには、芹亜さんに似た少女、クカタチこと千華ちゃんがいた。
『CNP』では何度も顔を合わせている仲であるが、現実世界では初対面と言う事で、お互いに自己紹介をする。
うん、千華ちゃんの笑顔は『CNP』のクカタチの笑顔に繋がる感じがあり、素直に可愛らしいと感じる。
「さ、二人とも乗って。スクナの道場まで行くわよ」
「はい。今日はお願いしますね」
「よろしくねお姉ちゃん」
芹亜さんの車へと、私と千華ちゃんが乗り込み、スクナへの道場へと向かった。
なお、芹亜さんの運転は非常に安心できる運転だった。
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「「「ーーーーー!」」」
「ここがそうですね」
さて、車で揺られる事おおよそ一時間。
私たちはスクナの道場に着いた。
「ちょっと郊外、と言う感じなんですね」
「人が集まってうるさくなっても問題ない。と言う意味では丁度いい場所なんでしょうね」
「今も中で稽古の類をしているようですね」
場所は大学がある場所から郊外へ向かう途中で、道場と言うか屋敷の周囲は多少の木々としっかりとした塀に囲まれている。
そして道場の中からは人の声が聞こえてきている。
「見学希望者の方ですか? ご予約は?」
「はいそうです。名前は……タル、ザリア、クカタチですね」
私たちは受付に向かい、『CNP』での名前を告げる。
スクナからの誘いを受ける都合で、キャラネームの方で予約を取っていたのである。
「……。はい、ご予約承っていますね。担当者をお呼びしますので、少々お待ちくださいませ」
で、名前を告げたところ、受付の女性の表情が僅かに動いた気がする。
どう聴いているかはさておき、私たちの名前は道場の人たちに伝わっているようだ。
そして、言われたとおりに暫く待っていると、道着を着た一人の男性がこちらに近づいてくる。
「よく来てくださいました。タル様、ザリア様、クカタチ様。私は皆様の案内を務めさせていただきます、師範代の四辻と言います。ああ、皆様にはヨシバルと言った方が分かるかもしれませんね」
「ヨシバル?」
私は四辻さんあるいはヨシバルさんの言葉に首を傾げる。
たぶんヨシバルと言うのは彼の『CNP』での名前なのだろうが、聞いた覚えがなかったからだ。
が、芹亜さんと千華ちゃんには聞き覚えがあったらしく、納得したように頷いている。
「スクナさんの相方として有名な男性ね。初めまして、ザリアです」
「ヨシバルさんこんにちわ! 私がクカタチです!」
「こんにちわ。クカタチちゃん。今日も元気そうで何よりだ」
ああそう言えば、スクナには相方が居ると言っていたか。
なるほど、彼がそうなのか。
見覚えがないのは……まあ、仕方がないか。
たぶん、見た機会があったとしても、カロエ・シマイルナムンの時くらいだろう。
「初めましてタルさん。あちらでの面識は……まあ、無かったね」
「そうですね。初めましてです。今日はよろしくお願いします」
私は四辻さんと握手をする。
がっちりとした、素人でもよく鍛えられていることが分かる手だ。
「では、三人ともこちらへ。師範の下へ案内させていただきます」
「「はい」」
「分かりました」
私たちは四辻さんの後に続く形で、道場の敷地内へと入っていく。
どうやらこの道場、かなりの面積があるようで、道場の中には屋外演習場とでも言うべき場所や、木材や竹を加工するためと思しき場所もある。
「こちらですが……指導に暫く時間がかかりそうですね。なので、少しこの道場について話をしておきましょうか」
「お願いします。ネットのHPは一通り見させていただきましたけどね」
「それは嬉しい話ですね」
四辻さんに連れられて着いたのは木張りの道場。
そこでは数人の男性がガタイのいい男性に指導される形で、剣を学んでいるようだった。
ほぼ間違いなく、あのガタイのいい男性がスクナだろう。
で、指導を無暗に途中で切るわけにはいかないので、私たちは道場の端に座らせてもらって、四辻さんの話を聞く。
「道場の名は双顔流剣術道場。昔から続いてはいますが、歴史の表舞台には殆ど立ったことのない小さな道場です」
さて四辻さんの話をまとめるとこうなる。
双顔流剣術道場は時代の流れに合わせる事を考え、その結果としてフルダイブ式のVRゲームに関わる事になった。
こうして道場で指導をするだけでなく、他ゲームでの各種モーション作成にも関わっている。
理念とかの話は小難しい部分を取っ払って語るならば、生存第一、使えるものは何でも使うとの事。
そんなわけで、メインは剣、より正確に言えば刀であるが、だいたいの武器を使えるように訓練しているらしい。
「ありがたいことに近頃のフルダイブ式のVRゲームは、プレイヤーのリアルスキルがあれば、相応の見返りがあるものが大多数です。おかげで、ウチを含めて、全国各地の道場が賑わうようになったのですよ」
「へー」
「なるほどねぇ」
「マナブ君もここで学んでるぐらいだもんね」
余談だが、時代の流れに合わせた結果として、双顔流には対人武術だけでなく、対モンスター用武術とでも言うべきものが出来上がりつつあるらしい。
これはゲームごとに微調整が必要ではあるが、ある程度以上に自由度が高く、きちんと作られているゲームなら、だいたい通用するそうだ。
素直にすごい。
「すまない。待たせたな」
と、こうやって話をしていると、指導に一段落が着いたらしい。
ガタイのいい男性が近づいてきた。
うん、こうして近づいて、歩き方をはっきりと見せてもらえば分かる。
「私が双顔流剣術道場の師範、双顔金彦だ。まあ、君たちにはスクナと名乗った方が分かり易いかもしれないがね」
この人がスクナだ。
歩き方が完全に一致している。




